スポーツに取り組んできたアスリートにとって、「引退したら仕事に就けるか」「自分にはなにができるか」という引退後の生活は悩みの種です。
アスリートの多くは、他のキャリアの選択肢が少なく、取り組んできたスポーツに関連する職業を選ばれています。
しかし、アスリートの経験やスキルは様々な企業で生かすことができ、雇用する企業も増えています。
ここでは、アスリートのセカンドキャリアについて実績や企業の動向、セカンドキャリアへの成功のポイントについて解説します。
現役アスリートの方、引退後の生活を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
アスリートの「セカンドキャリア」とは、アスリート生活を終えた後に経験やスキルを活かして、新たなキャリアを築くことです。
ここではアスリートのセカンドキャリアについてみていきましょう。
輝かしい現役生活の後に待ち構えているのは、引退後の生活。
長年、スポーツの世界にいたアスリートは新たな職業選択に目を向けることが苦手な方が多いです。
そもそもキャリアの選択が「スポーツ分野」だったり、自分の経験やスキルは「スポーツ分野で生かせる強み」と、思い込んでしまっているからです。
さらに、潜在的なスキルに目を向ける機会もなく、セカンドキャリアのサポートや選択肢の提案も少ないのが現実。
アスリートから引退したらどんな生活が待ち構えているか、引退後に希望する仕事ができない方など不安や悩みを抱えているのです。
アスリートといってもプロ野球やBリーグ、Jリーグなど様々ですが、学生アスリートも例外ではありません。
「自分はスポーツに取り組んできたから」といった理由だけで、スポーツ分野への就職を決めつけてしまっている方は多いのではないでしょうか。
しかし、アスリートにはビジネスで活かせるスキルをたくさんもっています。
例えば、競技で培ったリーダーシップや集中力、チームワークなどのスキルを活かして活躍することができるでしょう。
また、ビジネスに重要なコミュニケーション能力や情報収集力、自己管理力などのポータブルスキルは、スポーツを通じて自然に身に着けています。
一方で、仕事に活かせる資格やITスキルなどは不足している場合が多いので、次のステップに向けて学ぶ必要があるでしょう。
(採用している企業例などあれば入れていただきたいです)
「アスリート生活で培った経験やスキルを活かし、企業に貢献してもらいたい」という企業は増えています。
ここでは、アスリートを雇用する企業の動向や市場についてみていきましょう。
平成30年に実施されたスポーツ庁委託事業による『スポーツキャリアサポート戦略」(平成29年度)における「アスリートと企業等とのマッチング支援』をみてみましょう。
企業のアスリート、パラアスリートの採用調査では、採用、所属済みが51.0%、予定ありが17.6%、予定なしが31.4%という結果になっています。
すでにアスリートを採用、所属している企業と、今後アスリート採用を行う企業を合わせると68.6%です。
約7割の企業がアスリートの採用に積極的であることがわかりますね。
同調査では、アスリートに対するイメージにも質問され、以下のような回答がありました。
アスリートの強みである体力面やメンタルの強さへのポジティブなイメージがある一方で、一般教養や仕事へのスキルなど、即戦力として活躍してもらえるかどうかについてネガティブなイメージをもっている企業が多いようです。
参照:スポーツ庁委託事業『スポーツキャリアサポート戦略」(平成29年度)における「アスリートと企業等とのマッチング支援』
アスリート採用を行った企業では、給与形態や勤務時間など一般社員とアスリートとの差がある場合があります。
例えば、基本給や賞与は一般社員と同待遇ですが、競技費や成績に応じた特別手当、技能手当が支給されることもあります。
勤務時間においても練習や試合に合わせた柔軟な勤務時間やアスリート有給制度がある企業もあります。
また、企業のスポーツチームに所属する場合などは勤務時間よりも競技時間の方が優先されるなど企業によって対応は様々です。
全国にはアスリートを積極的に雇用する企業が多く、一般採用枠とは別に「アスリート採用」が行われているケースがあります。
ここでは、アスリートを雇用する企業を紹介します。
株式会社大松運輸では、社会人アスリートの競技と仕事の両立をサポートしています。
練習や試合に合わせたスケジュール管理や運転免許取得制度、食事補助などアスリートが仕事にも競技にも集中できる環境を整えています。
そして競技を引退した後のセカンドキャリアの支援も充実し、ドライバーとしてそのまま大松運輸で雇用を継続されます。
怪我や故障でドライバーが難しい方も、補助や倉庫、事務など活躍の場が用意されています。
陸上やサッカーなどのアスリート採用で働く社員は多く、配送や倉庫、助手の仕事と両立しながら活躍されています。
株式会社エムティーは、アスリートの競技生活で鍛えたスキルを重視する警備会社です。
引退後のセカンドキャリアや競技生活と仕事の両立、学生アスリートの積極的な雇用を行っています。
接遇、英会話、護身術などの研修制度、資格取得支援、引退後のキャリアをサポートする体制が整えられ、セカンドキャリアへの目標をもって働くことができます。
アスリートのセカンドキャリア成功には、指導者やスポーツ関連企業や所属団体の社員、フィットネストレーナーなどがあります。
また、競技生活で身に付けたスキルや経験を活かして、起業家や講演などを行い活躍されている方もいます。
一方で、一方、セカンドキャリアで失敗してしまうアスリートも存在します。
その原因として、新しい分野においてスキルや知識が不足したまま就職活動していしまったことや、就職後のミスマッチなどがあげられます。
ここでは、セカンドキャリアの成功例と失敗例について紹介します。
Bリーグの元プロバスケットボール選手である天野喜崇さんは、引退後は理学療法士として働いています。
バスケットボールの選手であり、スポーツの知識や経験が豊富。
自分自身のトレーニングやリハビリの経験を生かしたいと考え、養成校へ入学し、理学療法士の試験を受け合格されました。
試験合格後は整形外科へ入職するのですが、天野さんはアスリート推薦ではなく、一般採用試験からの採用です。
スポーツリハビリを目指しますが、スポーツリハビリの対象はスポーツ全般に渡ります。
バスケットボール以外の競技を知らないことや、手術後の患者のメンタルサポートで不安や悩みがありました。
現役時代には、天野さん自身が怪我や挫折が多かったので、コミュニケーション力を生かし相手の気持ちに寄り添ったサポートで貢献できたそうです。
現在は理学療法士としてだけでなく、Bリーグのメディカルスタッフとしても活躍されています。
アスリート時代もセカンドキャリアにおいて、何事にも一生懸命に取り組み、あきらめないで継続することが大切だといわれています。
元プロサッカー選手として活躍していたAさんは、引退後に球団職員なり営業職として勤務しています。
引退後の就職についてはスムーズでしたが、働き出して自覚したことのひとつは、「社会のことを知らなかった」ということ。
スポーツに打ち込み、世間への視野が不足していたと痛感しているそうです。
将来にどんな生活を送りたいかを考えていないと、引退となったときに慌てて行動できないものです。
現役時代からセカンドキャリアを見通し、少しずつ準備していくことが大事です。
プロ野球選手の引退時の平均年齢は28歳とされ、そのあとのセカンドキャリアに苦労されている方は少なくありません。
元プロ野球選手Mさんもその一人で、引退後は焼き肉店を経営しましたが失敗し閉店。
焼き肉店閉店後は会社員として働きますが、業務への悩みを抱え、さらに現役時代の金銭感覚が抜けなかったそうです。
契約社員として働きながら野球教室の指導者として活躍しましたが、借金が膨らみ退職後、犯罪に手を染めてしまいました。
アスリートの多くは30代~40代で引退し、セカンドキャリア就職のハードルのひとつが年齢の壁です。
これまでスポーツに打ち込み、社会人としての経験がない方にとって、ビジネスパーソンとしての経験やスキルが不足し、スムーズに就職活動できなかったり入社後のミスマッチに悩む方が多いです。
その中でも、自分にできることを探したり、仕事に役立つスキルを身に着けたりと向上心をもって取り組める人がセカンドキャリアへの成功を手にすることができるでしょう。
アスリートのセカンドキャリアは、引退後の生活を充実させ、新たな挑戦をするチャンスです。
自身の経験やスキルを活かし、セカンドキャリアをスタートすることで、自分自身の成長だけでなく、社会貢献にもつながります。
アスリートのセカンドキャリアを成功させるためには、以下のポイントが重要です。
アスリートは、長年に渡って競技に専念してきたため、自分自身について十分に理解していない場合があります。
また、自分の強みは「これだ」と決めつけてしまっていることも少なくありません。
そのため、セカンドキャリアを考える際には、自分を理解することが重要です。
自己分析を行うことによって、目指すべき方向性がみえてくるでしょう。
アスリートのセカンドキャリアでは、どうしても指導者など競技に関連する職業を目指しがちです。
しかし、これまで経験してきたトレーニングや、チーム活動で培ったスキルや経験、リーダーシップやチャレンジ精神などは、どんな企業でもニーズが高いスキルです。
競技やスポーツに関連する企業だけでなく、異業種への挑戦も可能です。
スポーツ以外のことにも視野を広げ、セカンドキャリアの選択肢を広げることが大切です。
セカンドキャリアを目指すアスリートは、体力やポテンシャルといった強みがアピール材料になります。
しかし、より採用に近づくために即戦力や向上心をアピールするなら仕事に必要なスキルや資格を取得しておきましょう。
特にやりたい仕事が決まっていない方や、引退までに時間がある方はパソコンに関するスキルや資格の取得がおすすめです。
情報社会が進むいまは、どんな企業でも一定のパソコンスキルが求められ、パソコンの操作は、ビジネスパーソンの基礎スキルとなります。
アスリートとしての強み以外の+αのスキルとしてアピールすることができるでしょう。
デュアルキャリアとは、アスリートが選手として活躍する一方で、仕事も並行して行うことです。
現役時代から第二のキャリアを築くことに取り組むことで、引退後の生活へのスムーズな移行や、スポーツ以外のスキルやビジネスの経験を活かした働き方ができるメリットがあります。
デュアルキャリアの実現には、まず自分自身の強みや興味、将来の方向性を明確にして、選手生活と仕事の両立ができるような仕事を検討し、知識やスキルを身につけることが必要です。
時間管理や自己管理が大変ですが、デュアルキャリアを築くことでアスリートとしてのキャリアと仕事におけるキャリアの両立につながります。
その結果、アスリートを引退しても就職への不安を軽減させることができるでしょう。
アスリートがセカンドキャリアを成功させるためには、関心を持つ業界や職種について、情報を収集することが重要です。
アスリートは、指導者の紹介や企業からのスカウトが多く、一般の就職支援サービスを通じた就業は少ない傾向です。
参照:スポーツ庁委託事業『スポーツキャリアサポート戦略」(平成29年度)における「アスリートと企業等とのマッチング支援』
そのため、マイナースポーツやネットワークが少ないアスリート、企業がアスリートの雇用を失っている可能性があります。
さらに十分な情報収集の機会がないため、業種や職種に関する知識や業界の動向が把握できず、自分自身のスキルとのマッチングが十分でない場合もあります。
一般の就職支援サービスの利用は少ないですが、就職サイトや就職支援サービスは、公開されていない企業の内部事情や実際の職場環境など多くの情報を保有しています。
多くの情報から、どのような職種や業界が自分に合っているか、どのようなスキルや経験が必要なのかなどを客観的に評価してもらえるので、具体的なキャリアパスを調べることができるでしょう。
業界や職種に精通したキャリアアドバイザーが就職をサポートしてくれるので、自分に合った求人情報を収集することもできます。
指導者やJOCはもちろん、一般の就職支援サービスなども活用しながら、より多くの情報に目を向けることが大切です。
いかがでしたでしょうか。
アスリートのセカンドキャリアについて実績や企業の動向、セカンドキャリアへの成功のポイントについて解説しました。
セカンドキャリア成功に向けて、仕事に対する姿勢やキャリア実現に向けた準備が重要です。
「自分から競技がなくなったら何が残るんだろう」と悩んでいるアスリートは多いですが、多くの企業が、アスリートの持つチームワークや粘り強さなどを評価し、採用活動やマーケティング戦略の一環に取り入れています。
アスリート自身も、これまでの経験や自身のスキル、適性を見極め、それに合った職種や業界についてリサーチすることが大切です。
視野を広げた就職活動を進め、セカンドキャリアの成功に向けて取り組んでいきましょう。