難化傾向にある賃貸不動産経営管理士、受験資格や合格率を解説!

不動産関係の資格といえば、宅地建物取引士(宅建)が有名です。一方、最近注目度が上がっているのが、賃貸不動産経営管理士。賃貸不動産経営管理士は賃貸管理会社で活躍する資格です。現在は民間資格ながら今後国家資格化する可能性も無視できません。

しかし、不動産系資格としては比較的新しい賃貸不動産経営管理士、具体的にどのような仕事をするのか分からない人も多いのではないでしょうか。

この記事では賃貸不動産経営管理士の仕事内容や、宅地建物取引士など他の不動産系資格との違い、試験の概要、試験勉強などについて、詳しく解説していきます。

賃貸不動産経営管理士とは

賃貸不動産経営管理士とは、賃貸住宅の管理を行っていく知識・技能・倫理観を持ったスペシャリストのことです。主に不動産管理会社に所属して業務を行います。賃貸不動産経営管理士は一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会が主催する民間資格です。

賃貸不動産経営管理士の背景と立場

 
賃貸不動産経営管理士は不動産関係の資格としては比較的新しく、2007年に登場しました。賃貸物件を借りる時、あまり意識することはないかもしれませんが、実は賃貸不動産を扱う会社には2種類あります。

1つは賃貸物件を探す人の相談に乗って、物件を紹介したり、賃貸契約の説明を行う不動産仲介会社。もう1つは不動産を誰かに貸したいと思っているオーナーから、建物の管理を請け負う不動産管理会社です。

不動産管理会社は借主が賃貸物件を借りた後で、建物のメンテナンスを行ったり、トラブルの対応をしたり、集金業務を行ったりします(不動産管理会社の業務はオーナーとの契約によって範囲が異なります)。

不動産仲介会社のサービスは借主が賃貸物件を契約するまでをサポートする存在、一方で不動産管理会社はオーナーに代わって賃貸物件を管理し、賃貸契約後の借主の生活を支援する存在といえるでしょう。

不動産仲介業を営む場合は、宅地建物取引業の免許が必要であり、従業員5人に1人の割合で専任の宅地建物取引士を設置しなければなりません。一方不動産管理会社は宅地建物取引業に該当せず、特に法的な規定がない状態でした。

しかし賃貸管理のトラブルは増加傾向にあり、業界内で統一したルールをもつ賃貸管理の専門家が必要とされていました。

このような背景の中で賃貸管理の専門家である不動産経営管理士が誕生しました。

さらに2011年、国土交通省は「賃貸住宅管理業者登録制度」をスタートさせ、2016年からは登録事業者に「事務所ごとに1名以上の賃貸不動産経営管理士等(賃貸不動産経営管理士もしくは一定の実務経験者)を設置すること」を義務づけました。

登録制度は任意なので、宅地建物取引業の免許に比べれば限定的なものではありますが、この規定によって賃貸不動産経営管理士の資格意義が広がったとえいるでしょう。

賃貸不動産経営管理士の仕事内容

賃貸不動産経営管理士が行う仕事は、賃貸住宅のオーナーに対するものと賃貸住宅の借主に対するものとがあります。オーナーに対し行う業務としては、賃貸用建物の企画や市場調査、賃貸物件の改善案や修繕案の提案、節税対策・相続税の相談など賃貸経営の幅広いサポートです。

特に賃貸住宅管理業者登録制度においては、
「貸主に対する賃貸住宅管理に係る重要事項の説明及び書面への記名・押印」
「貸主に対する賃貸住宅の管理受託契約書の記名・押印」

(引用元:賃貸不動産経営管理士公式ホームページ https://www.chintaikanrishi.jp/about/)

に専門業務として携わるよう位置付けられています。

一方で賃貸住宅の借主に対しては、建物の修繕や管理、法定点検、クレーム対応、契約更新、退去時の立ち合いや敷金の清算などを行います。賃貸住宅のトラブルを未然に防ぐための策を考えたり、住民間のいさかいに公平な視点から対応するのも大切な役割です。

他の不動産系資格との比較

宅地建物取引士との比較

不動産関係の資格の中で大きな存在感を持つのが、宅地建物取引士です。
民間資格である賃貸不動産経営管理士に対し、宅地建物取引士は国家資格です。

宅地建物取引士は不動産売買や賃貸契約の際には必ず必要とされる資格になっています。不動産取引における重要事項の説明、重要事項説明書・契約内容記載書面への記名・押印は宅地建物取引士でなければ行えない独占業務だからです。

また不動産仲介業を営む宅地建物取引業者は従業員5人に1人の割合で必ず宅地建物取引士を配置しなければならず、不動産業界において宅地建物取引士の需要はかなり高くなっているのです。

賃貸不動産経営管理士にも賃貸住宅管理業者登録制度における専門業務はありますが、この業務は一定の業務経験を持つものが代わりに行うこともできます。そもそも、賃貸住宅管理業者登録制度自体が任意資格なので、賃貸管理会社に賃貸不動産経営管理士が絶対に必要というわけではないのです。

そのため、全体的な需要としては宅地建物取引士の方が賃貸不動産経営管理士よりも高くなります。

一方、宅地建物取引士の資格はかなりの難関資格で、合格率から見た難易度は賃貸不動産経営管理士の約2~3倍です。最近賃貸不動産経営管理士の資格も難化していますが、宅地建物取引士に比べれば難易度はまだ低いといえます。

不動産関係の仕事をしたいけれど、宅地建物取引士は難しいという場合は、賃貸不動産経営管理士から狙うという手もあります(ただし、宅地建物取引士の資格なしで賃貸不動産経営管理士として認定を受けるためには2年以上の賃貸不動産関連業務実務経験が必要です)。

例えば、近年注目の民泊業で住宅宿泊管理者になるための条件には、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士どちらの資格もあげられています。もし、まだ不動産関係の資格を何も持っていない状態なら、賃貸不動産経営管理士を取得する方が楽です。

ただし不動産仲介業で借主よりのサービスを行う宅地建物取引士と不動産管理会社でオーナー向けに説明を行う賃貸不動産経営管理士では、業務内容が異なります。

理想的なのは賃貸不動産経営管理士と宅地建物取引士の資格を両方取得して、不動産関係の仕事に幅広く対応できるようになることです。

賃貸不動産経営管理士の試験の一部は宅地建物取引士の試験範囲にも含まれますので、先に賃貸不動産経営管理士の資格を取ってから宅地建物取引士を目指す、またはその逆も挑戦しやすいのではないでしょうか。

マンション管理士との比較

マンション管理士は、宅地建物取引士と同じく国家資格です。

マンション管理士は、主にマンションの居住者で構成されるマンション管理組合をクライアントとし、マンション管理に関するさまざまなコンサルティング業務を引き受けます。その仕事の中には、管理組合の運営・会計、マンションの修繕の手続き、管理規約の作成・更新といった事務的なことから、住民同士のトラブルを仲介する役割まで様々なものがあります。

なお、マンション管理士はマンション管理組合と管理会社の間で中立の立場をとります。管理会社がきちんと仕事をしているのか監視する役割や、管理会社の変更手続き等も行います。

不動産会社の社員がマンション管理士の資格を取ることもあれば、独立開業してマンション管理組合と独自に契約するマンション管理士もいます。ただし、独立してやっていくには経験や人脈なども大切です。またマンション管理士だけでなく行政書士や宅地建物取引士などほかの資格も併せて持っておくと心強いです。

マンション管理士の難易度は宅地建物取引士よりもさらに高く、合格率は10%を切ります。

賃貸不動産経営管理士の資格と比べると難易度は約4~8倍となり、かなり差があります。

マンション管理士には宅地建物取引士のような有資格者でなければできない独占業務はありませんが、難関資格のため有資格者の数が少ないことやマンション管理組合の高齢化など将来性の高い資格といわれています。

管理業務主任者との比較

管理業務主任者は、マンション管理組合に管理委託契約に関する重要事項の説明や管理報告を行う場合に必要となる国家資格です。

マンションの入居者側、もしくは中立の立場からマンション管理に携わるマンション管理士に対し、管理業務主任者は管理会社側に立って契約の説明や管理報告を行います。

管理業務主任者が行う重要事項の説明は管理業務主任者のみが行える独占業務です。管理委託業務を行う不動産管理会社には管理業務主任者を一定数配置することが義務付けられています。

その分、独占業務と設置義務を持たない賃貸不動産経営管理士よりも強みがあるといえるでしょう。勤め先の不動産会社が管理委託業務を行っているなら、管理業務主任者の資格は重宝されるはずです。

ちなみにマンション管理士とは試験内容が共通しているところが多く、ダブル受験・ダブル合格を狙うのもよいでしょう。
管理業務主任者の合格率は20%前半で、難易度は賃貸不動産経営管理士の約1.5~2倍程度です。不動産系の国家資格としては比較的狙いやすい資格といえます。

賃貸不動産経営管理士試験の概要

賃貸不動産経営管理士の資格試験は誰でも受験できますが、資格の登録をするには宅地建物取引士の資格もしくは実務経験が必要になります。

受験資格

特になし

試験日程

毎年11月

試験内容

賃貸管理の意義・役割をめぐる社会状況に関する事項
賃貸不動産経営管理士のあり方に関する事項
賃貸住宅管理業者登録制度に関する事項
管理業務の受託に関する事項
借主の募集に関する事項
賃貸借契約に関する事項
管理実務に関する事項
建物・設備の知識に関する事項
賃貸業への支援業務に関する事項(企画提案、不動産証券化、税金、保険等)

(引用元:賃貸不動産経営管理士公式ホームページhttps://www.chintaikanrishi.jp/exam/summary/)

試験時間

120分

受験費用

13,200円(税込)

試験形式

4択一式 50問

合格点

令和元年度試験では29点
※合格点は試験ごとに異なるが、主に20点台(約7割)を推移

合格率

36.8%(令和元年度)

講習制度について

賃貸不動産経営管理士試験では事前に「賃貸不動産経営管理士講習」が開講されます。講習の修了者は試験中5問が免除されますので、合格率を高めるのに役立ちます。

受講は任意で、講習を受けなくても資格試験を受講することができます。

【受講要件】
なし

【受講時間】
9:00~17:30(令和2年度)×2日間

【受講料】
18,150円(税込)
別途公式テキスト料4,054円(税込)が必要

登録制度について

賃貸不動産経営管理士試験合格後、登録手続きを行うことで資格が認定されます。

【登録要件】
宅地建物取引士である者、又は協議会が認める賃貸不動産関連業務に2年以上従事している又は従事していた者。
(引用元:賃貸不動産経営管理士公式ホームページhttps://www.chintaikanrishi.jp/exam/register/)
※実務経験が足りない場合は、登録要件を満たした時点で登録が可能。試験合格の有効期限は無し。

【登録料】
6,600円(税込)

【有効期限】
5年

国家資格化を見据え、賃貸不動産経営管理士の試験が難化

賃貸不動産経営管理士は受験者数が増え、試験が軟化する傾向にあります。

国家資格化を目指す動き

2020年8月現時点で、賃貸不動産経営管理士は国家資格ではありません。しかし、国家資格化に向けた取り組みは少しずつ進んでいます。

賃貸不動産経営管理士の資格ができた4年後には賃貸住宅管理業者登録制度がスタートし、その3年後には賃貸不動産経営管理士の国家資格化を検討する会議が開催されています。さらに2016年、賃貸住宅管理業者登録制度が一部改正され、賃貸不動産経営管理士の専門業務や登録事業者への設置義務が定められます。

2018年に国土交通省の「今後の賃貸住宅管理業のあり方に関する提言」の中では「賃貸住宅管理業者登録制度の法制化」を進めるべきとされています。
現時点で賃貸住宅管理業者登録制度は任意の制度です。しかし、上で見たように法律で登録制度を義務化を目指す動きが起こってきています。それに伴って賃貸不動産経営管理士が、宅地建物取引士などと同じく国家資格化される期待が高まっているのです。

受験者の増加と合格率の低下

賃貸住宅管理業者登録制度での役割が大きくなり、国家資格化の可能性が高くなるにつれ、賃貸不動産経営管理士の受験者数も年々増えています。受験者数は初回で3,946名、第7回で23,605名ですから、受験者は7年で約6倍に伸びたことになります。

と同時に、賃貸不動産経営管理士の資格は年々合格率が低くなっています。

賃貸不動産経営管理士の合格率は、最初85.8%もありました。しかし、第3回試験の合格率は54.6%、令和元年の第7回試験では36.8%と非常に低く、試験が年々難化していることが分かります。今後国家資格となれば、より受験者数が増え、難易度が上がる可能性があるでしょう。

国家資格化を見据えた試験内容の変更

賃貸不動産経営管理士の国家資格化を見据えて、試験内容も変化しています。令和元年は40問、90分の試験でしたが、令和2年からは50問120分の試験に変更されました(これに伴い、賃貸不動産経営管理士講習で免除される問題数も4問から5問に変わっています)。

この問題数と試験時間は国家資格の宅地建物取引士や管理業務主任者と同じものです。

賃貸不動産経営管理士の勉強方法

賃貸不動産経営管理士の資格を取るための具体的な勉強方法について見ていきましょう。

勉強時間はどのぐらい必要?

賃貸不動産経営管理士の資格を取るための勉強時間は、いままで不動産関係の類似資格を取得したことがあるかどうか、あるいは不動産関係の実務経験があるかどうかによって変わってきます。

宅地建物取引士やファイナンシャルプランナーの資格を持っている人、不動産業務に携わっている人の場合、すでに基礎知識が既に備わっています。その分勉強時間も短くて済む可能性が高くなります。合格するために必要な勉強時間は約1ヶ月~3か月、総勉強時間は大体40時間~100時間前後です。

一方で基礎知識が全くない人が挑戦する場合、合格するために必要な勉強時間は約3~4か月、総勉強時間は大体120時間~150時間が1つの目安です。
ただし、資格合格に必要な勉強時間は個人の特性や勉強への集中度によって変わってきます。試験前にはできるだけ余裕をもって過去問や試験範囲を確認し、自分にはだいたいどれだけの学習時間が必要かを考えることが大切です。

テキストと過去問をしっかり抑える

賃貸不動産経営管理士の試験には公式テキストがあります。試験に公式テキストから文章が(一部改変された形で)出題されたりすることもありますので、試験勉強のベースには公式テキストを使うのが王道です。

なお、公式テキストは賃貸不動産経営管理士講習でも使われるので、講習を受ける予定の人は購入必須です。宅地建物取引士の資格を持っている、など既に基礎知識がある人はどの分野の知識が足りないかを確認してから勉強し始めると効率が良いです。

ただし、公式テキストは文字が多いので、合う人、合わない人がいます。公式テキストで勉強しづらいと感じたら、非公式のテキストや問題集で勉強するのも良いでしょう。

賃貸不動産経営管理士のテキスト、問題集はいろいろな出版社から発売されています。中身を確認して自分が使いやすいものを選んでください。

テキストで知識のインプットができたら、過去問を解いて知識の定着を図りましょう。賃貸不動産経営管理士の過去問は公式サイトから5年分を閲覧することができます。ただし、サイトの過去問には解説がありません。詳しい解説が知りたいなら、市販の過去問題集を購入してください。

勉強時間がなかなか取れないなら通信講座の利用も

賃貸不動産経営管理士の資格取得は、テキストや問題集を使い、独学で合格を狙うこともできます。しかし仕事や家事が忙しく、まとまった試験勉強の時間をなかなか取れない場合は、通信講座を利用することを考えてみましょう。

賃貸不動産経営管理士の通信講座はオンラインで授業が受けられるものが多く、スキマ時間での勉強に最適です。また、テキストや過去問対策、問題集など必要な物がすぐ手に入り、自分に合った教材を探す手間が省けます。試験に出やすいところを集中して学べるよう、教材が工夫されているので効率よい学習が可能な点もメリットです。

とくに令和2年の試験からは試験問題と試験時間が増え、試験のいっそうの難化が予想されます。不安があるなら、プロの授業を受けられる通信講座を検討してみてください。

賃貸不動産経営管理士講習を受けて問題数を減らす

賃貸不動産経営管理士の合格率を上げる方法の1つは、賃貸不動産経営管理士講習を受けることです。講習を受講すれば、試験問題50問中5問が免除されます。試験難化の対策として、講習を受講しておくことは合格の大きな布石になるのでしょう。

まとめ 賃貸不動産経営管理士、受験するなら早めに

賃貸不動産経営管理士は現在は民間試験ですが、その活躍を期待する声は高まっており、国家資格化に向けた動きも進んでいます。また、賃貸住宅管理業者登録制度・民泊制度での役割の拡大で注目が集まり、受験者数も増加中です。

この流れを受け、資格試験の難易度は徐々に上がっていき、合格率は低下しています。令和2年度試験では国家資格の宅地建物取引士と同じく、120分50問の試験内容に改定されました。今後国家資格化すれば、試験が更に難化する可能性もあります。賃貸不動産経営管理士の資格を取得するかどうか迷っているなら、早めに受験の決断をした方が良いでしょう。

参考サイト
厚生労働省
内閣府
ハローワーク
職業情報提供サイト
日本経済連合会
転職コンサルタント
中谷 充宏
梅田 幸子
伊藤 真哉
上田 晶美
ケニー・奥谷