新型コロナウイルス感染症が猛威をふるい始め人と人の接触を極力避けるよう叫ばれる昨今、さまざまな業界で人工知能、AIの導入が急速に検討されるようになってきました。
私たちの生活を変える無限の可能性を秘めているAIは、今非常に注目されている分野です。
今後さらなる市場の拡大が予想されるAIシステムを構築するエンジニアを目指すのであれば、ぜひ取得しておきたい資格の一つが『E資格』。
今回はE資格を取得するための受験資格や勉強法などをご紹介します。
あまり聞き馴染みのない方もいらっしゃるかもしれませんが、『E資格』とは、一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)が創設・運営するエンジニア向けの資格です。
ディープラーニング(深層学習)を理解し、適切な手法を選択して実装する能力や知識を有している者に認定されます。
AI技術の向上、ならびに日本の産業競争力の底上げを図るために作られた資格で、世界中の名だたる企業が協賛しており、AIエンジニアとして就職や転職を希望する方々に人気のある資格です。
E資格は、2018年9月に初めての試験が実施された新しい資格です。試験は年に2回のペースで行われており、有資格者もまだ比較的少ない印象です。
しかし、昨今のAI業界の目覚ましい拡大も手伝って、注目されている資格です。資格認定試験がスタートした2018年は、わずか337名の受験者数でしたが、2019、2020年は各1,000名以上の受験者が資格取得にチャレンジし、累計合格者数は1,660名となりました。
日本では、AIが生活に溶け込んでいる、という印象はまだないかもしれません。
そのため、e資格を取得しても将来性が見込めないのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、結論から申し上げるとAI関連市場は日本のみならず世界中で着実に成長を続けていくことが予想されています。
「AI市場は2019年、着実なペースで成長を続け、来年以降もこの勢いが続く見通し、AIが及ぼす破壊的な影響力は、今後10年にわたって産業全体を変貌させていくものと予測している」という米国IDCのリサーチディレクターの言葉からもわかります。
今後AIシステムが積極的に導入・活用されていく業界として、特に注目されているのが小売業です。実際に、アメリカや日本の一部スーパー、コンビニなどでは、すでにAI技術が活用されており、在庫管理、物品補充はAIで実施されている店舗や、完全に無人で営業している店舗も登場していることはご存じの方も多いかもしれません。
この他にも、銀行、組立製造、ヘルスケアなどあらゆる場面でAI技術へ投資する動きが強まっていますし、アメリカに限らず、全世界で同様の動きが見られています。中でも日本は最も市場拡大が予測される国の一つといわれているほどです。
さらに、内閣府は2050年までにAIのテクノロジーを用いて人間の持つ能力を拡張し、時間や場所、身体的問題などあらゆる問題に左右されることなく各々が多様なライフスタイルを追求できる社会を目指すとしています。
これらのことから、大変将来性のある業界であり、E資格は先行投資する価値のある資格だということが伺えるでしょう。
E資格が役立つ職業には、どのようなものがあるのでしょうか?その一つにAIエンジニアがあります。急速に市場が拡大しているAI関連市場は、人員不足の影響もあり、比較的好条件の求人が多いようです。
実務経験ありの場合では年収600万円以上が平均で、外資系企業になると800〜1200万円という高待遇の求人もあるほど。各種エンジニアの中でもAIエンジニアは特に年収が高い職種といえるでしょう。
未経験OKの求人もありますが、条件面は本人の能力に準ずる場合が多く、年収としては300〜400万円がほとんどです。実務経験があり、なおかつE資格保持者が優遇されるというのが市場の動向のようです。
またE資格を取得するメリットとしても、市場価値の向上や高い年収が期待できる点があります。
この他にも、E資格合格者専用のコミュニティ『CDLE(Community of Deep Learning Evangelists)』に招待されたり、勉強会や合格者同士の交流会に参加しスキルのブラッシュアップや情報交換、業界での人脈を増やしたりすることもできるでしょう。
また、E資格試験の合格者には合格証と認定ロゴが配布されます。認定ロゴは名刺などに載せることができるため、ディープラーニングに関する知識・スキルの持ち主であることの証明になります。
E資格取得を目指すことを決めたら、早速試験対策に取り掛かりましょう。
試験概要や勉強法、受験に必要な資格などをご紹介します。
試験内容
試験時間は120分、知識問題が102〜108問程度出題されます。E資格の試験範囲は、「応用数学」「機械学習」「深層学習」「開発・運用環境」の4つの分野に分かれており、日本ディープラーニング協会のシラバスによると、以下のように分野ごとに細分化されます。
・線形代数
・確率
・統計
・情報理論
・機械学習の基礎
・実用的な方法論
・順伝播型ネットワーク
・深層モデルのための正規化
・深層モデルのための最適化
・畳み込みネットワーク
・回帰結合型ニューラルネットワークと再帰的ネットワーク
・生成モデル
・強化学習
・深層学習の適応方法
・ミドルウェア
・軽量化
・高速化技術
全て多肢選択式で、記述問題はありません。幅広い範囲から出題され、基礎から応用、より実践的な知識の有無を問う試験となっています。
試験は全国各地指定の会場で行われますが、申込時に希望会場を選択、予約するシステムです。受験申込者の多い首都圏の会場はすぐ埋まってしまうこともあるので、早めの手続きがよいでしょう。
試験料
E資格の試験料は、一般33,000円、学生22,000円です。AIエンジニアを将来的に目指すという方は、学生のうちから取り組むと試験料が抑えられます。
この他にも、勤務している会社がディープラーニング協会の賛助会員の場合は、27,500円で受験することができます。
一般の申込とは異なり、専用フォームに会社の情報など必要事項の記入などが別途必要です。
それぞれ申込の種別により、申込期限も異なるため、事前によく確認しておきましょう。
受験に必要な資格
資格試験は本を購入して独学、という方もいらっしゃると思いますが、E資格は独学では試験を受けることができません。
E資格受験には、『JDLA認定プログラムを試験日の過去2年以内に修了していること』という条件があるためです。
すなわち、たとえ業界未経験であっても、JDLA認定プログラムを修了し、試験に合格すれば資格取得可能ということです。
『JDLA認定プログラム』とは、高等教育機関や民間事業者が提供する教育プログラムで、ディープラーニング協会が定める基準およびシラバスを満たすものです。
28の企業・教育機関が資格取得に向けての講座を行なっています。 各講座は、それぞれ異なる特徴があります。
対面授業やオンラインで動画を見ながら学習するもの、講師にチャットで質問できるサポートが充実しているコースや、合格後に会社を通して就業した場合、受講料無料というものも。
平均的な受講料は、30万円前後〜高額なものは70万円前後のものもあります。修了までに要する期間も講座ごとに異なります。基本的なことはすでに業務で実践している方向けの講座であれば、数日から1ヶ月程度のものもあります。
基礎からしっかりと学ぶ講座は修了まで半年程度かかるので、試験日から逆算して計画的に受講したいものです。ご自身の学習スタイルや予算にあったものを選択しましょう。
おすすめの勉強法
E資格は、これまでの過去問が一切公表されておらず、受験者は受験内容を発表することを禁止されています。
合格点の公表もされておらず、どのような問題が出題されるのか予想しにくいといえます。
また日々最新技術が生まれ、新しい研究が行われている分野であるため、最新の研究や文献にもアンテナを張り、情報収集していかなければなりません。
膨大な試験範囲に加え、最新情報もカバーする試験対策が必要です。
合格に向けて勉強していくためには、JDLA認定プログラムの講座選びが非常に重要というわけですが、おすすめはeラーニングで学習する講座です。
動画を見ながら勉強できるeラーニング講座は、対面授業やライブ配信のものと比べ、費用を抑えることができます。
さらに時間や場所の制限もないため、好きな時間に学習でき、苦手な箇所は繰り返し見直すなど、自分のペースで試験対策を進めていくことができます。
最新情報を得るためにも、リアルタイムで講師に質問ができる講座を選ぶとよいでしょう。
E資格を取得すると、急拡大中のAI業界への就職に活用できたり、転職に有利であったり、非常に将来性があるということがわかりました。
もちろん現時点で必須資格ではないので、実務経験だけでも就労可能ではありますが、より実践的で専門知識を持っているという証明にもなりますし、年収アップにも役立つかもしれません。
今回ご紹介した内容を参考に、『AIにとって変わられることのない、これからも存在し続ける職業』に就くため、AI業界での就職や転職をお考えの方はE資格取得を目指してみるのも一考かもしれません。