会社が社員を不当に解雇する「不当解雇」、不当解雇を訴えたとしても慰謝料を認められるケースはあまり高くないのが現状です。
どんな場合が不当解雇と認められるのか、不当解雇の相談場所などについてご紹介します。
またコロナ禍により会社の利益が大幅に下がったため、人件費削減などで解雇を言い渡されるケースが増えると予測されますので、不当解雇への対処法を覚えておきましょう。
最後に不当解雇かもしれないという方への相談場所もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
冒頭で説明した通り、不当解雇とは“会社が社員を不当に解雇する”ことです。
これらで定められたルールや手続きに違反されて解雇されたものが不当解雇となりますが、この解雇が不当なものか正当なものかは裁判所が判断します。
また、会社の経営が存続できない場合など正当な解雇であっても労働基準第20条により少なくとも解雇の30日前に解雇の予告を行わなければいけないと決められています。やむを得ず解雇の予告が30日前に満たなかった場合は、はその不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければいけません。
労働契約法第16条によって「使用者がいつでも自由に行えるというものではなく、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者をやめさせることはできない」と定められています。
よほど労働者に落ち度がある、例えば職務・業務命令違反や勤務態度の内容や損害の重大性、故意的なものかなど様々な事情が考慮され判断されます。
参照:厚生労働省 労働契約の終了に関するルール
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html
不当解雇が認められるのは正社員だけ、と思っている方もいらっしゃいますがアルバイトの方も労働基準法の保護となる労働者に含まれるため不当に解雇されることは許されません。
労働者の保護は、正社員だけでなく契約社員、アルバイト、パートなどの非正規雇用者も含まれますので、正当な理由が認められない解雇を伝えられた場合は不当解雇として認められる可能性が高いでしょう。
企業や上司によって「解雇だ」明確に解雇を告げる場合もありますが、日本では労働者保護の観点から解雇は簡単には認められていません。
そのため、「解雇」というキーワードを出さずと遠回しに自発的に辞めるよう仕向けるケースもあります。
「明日から来なくていいよ」
「辞めてほしい」
「君は退職になるよ」
「退職届を出せ」
突然解雇通知書で通告された
こんなことを言われたら「辞めます」と、つい退職届を出してしまいますよね。しかし労働者が自発的に退職届を提出したとしても、それまでのプロセスに問題があり会社の対応が退職を迫ったと判断された場合は解雇とされるケースがあります。
労働者の勤務態度が悪い、よほどの業務・職務違反、健康上の理由によって損害が重大な場合以外は解雇が認められませんので、不当解雇ということになります。
労働者が会社から解雇を告げられた場合、「解雇を認めた」「解雇を承認した」と判断されないために争う姿勢を示すことが重要です。
(退職証明書には解雇の理由を記す必要があるため)
(この際も日時、告げた人の名前、発言内容を記録する)
解雇を告げられたあと精神的にも落ち込み投げやりな気分になりがちですが、争わない姿勢は解雇を受け入れたと判断されますので、泣き寝入りしないようにしましょう。
不当解雇をめぐって会社と争った結果、当事者間での和解は難しいため訴訟に持ち込まれるケースが多くみられます。
裁判所が不当解雇と認めた場合は慰謝料請求が認められますが、実際の判例から不当解雇の事例をみていきましょう。
無期雇用として働いていた労働者が事業運営上の理由から整理解雇を告げられ、他の職務に転換させることが困難として解雇予告により解雇した。
Aさんが退職金規定や健康相談室廃止に対して外部機関に相談したことから、正当な整理解雇の理由がなく解雇とした。
会社側は、Aさんの妊娠を知った上で不当に解雇を行い、Aさんが解雇を撤回し復帰要求するも拒否。
解雇期間中の賃金の支払いとともに精神的苦痛の大きさから100万円の慰謝料が認められた。
Bさんが入社後、人材教育課に配属されたが的確な業務遂行ができず他課に配置転換された。その後人事考課の結果が不良で就業規則の労働能力が劣り向上の見込みがないと判断され解雇となった。
裁判所は、人事考課の平均水準に達していないだけで就業規則の解雇事由に該当するとはいえない、労働能力が著しく劣る、向上の見込みがないと評価できないと判断。
また、陳述書に記載されたBさんの業務態度は問題点が多く記載されていたが、具体的な事実事項に欠けるとして採用されず、雇用者は労働能力向上のための指導や教育を図る余地があるとして解雇は無効となった。
育休明けからの復職直前に解雇された保育士Cさん、保育園側はCさんの業務態度に問題点がある等とする解雇理由を述べるも裁判所は具体的な事実がない判断。
解雇期間中の賃金の支払いとともに精神的苦痛による30万円の慰謝料が認められ、解雇は無効となった。
男女雇用機会均等法第9条第3項、育児・介護休業法第 10 条等では、妊娠・出産、育児休業等を理由として不利益取扱いを行うことを禁止されている。
参照:厚生労働省 福井労働局
https://jsite.mhlw.go.jp/fukui-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/koyou_kintou/hourei_seido/2011628-3.html
新型コロナウイルスは、感染症による健康問題以外に雇用問題にも大きな影響があり、多くの企業が休業や自粛に追い込まれ、幅広い業界において業績へ大きなダメージを負っています。
厚生労働省によると、新型コロナウイルス感染拡大に関連した解雇や雇い止めは見込みを含めて2万4660人と発表され、特に非正規雇用においては約半数近くに上ります。
コロナ解雇には以下のケースがあります。
と、コロナ解雇の影響を受けやすいフリーランスや非正規社員だけでなく、雇用が保障されているはずの正社員にまでコロナ禍による解雇に悩む人が急増しています。
新型コロナウイルスによるリ解雇、労働者の人生に関わる問題ですがやむを得ない事情として受け入れなければいけないのでしょうか。
会社の事業悪化などに伴うリストラは一般的に「整理解雇」と呼ばれていますが、整理解雇は、4つのルールにより判断されます。
新型コロナウイルスによる業績の悪化や経営継続の困難は労働者には全く責任のない解雇であり、企業の業績状況、助成金の活用状況などにより不当解雇となる可能性も少なくありません。
日本労働弁護団では、新型コロナウイルスの影響による労働問題について詳しく紹介され、いわゆるコロナ解雇は厳格に制限されるとしています。
コロナウイルスの影響により業績悪化や人員削減による解雇は整理解雇のルールに基づき無効とされる可能性が高く、会社が倒産してしまう等の事情がない限り認められません。
また、解雇の基準が不明確で労働者を選定もせず、社員全員に突然「みんな解雇だ」と告げることも不当解雇にあたり、その解雇は無効となります。
解雇が無効と判断されれば雇用継続や未払い賃金の支払い請求ができる可能性が高いとされています。
また、新型コロナウイルスは現在雇用されている労働者の解雇だけでなく内定を得てこれから働こうとする新入社員にも影響があります。
新型コロナウイルスによる業績悪化により人員削減、事業縮小による内定取り消しも話題となりました。
内定の取消しは、まだ入社していないから解雇とは異なると考えられていますが、“採用内定”を受けたことにより労働契約は成立しています。
そのため会社が自由に取り消せるわけではなく、解雇の事由と同様に扱われます。
いくらコロナ禍の影響だからといっても安易な内定取り消しは認められず無効になる可能性は高いでしょう。
参照:日本労働弁護団 新型コロナウイルス労働問題
http://roudou-bengodan.org/covid_19/
会社から解雇されたけれど納得できず訴訟に持ち込み不当解雇と認められるケースも多いですが、裁判所から「不当解雇である」と判断されたらどうなるのでしょうか。
解雇を告げられたことが無効になり雇用契約は継続されたまま。
労働者を復職させなければいけない。
会社が労働者を解雇した後、給料の支払いはしていません。そのため会社側は、不当解雇と判断された場合は未払いとなっている給料を労働者へ遡って支払う義務(バックペイ)があります。
不当解雇により労働者が精神的苦痛を受け、違法性が著しく不法行為であると認められた場合には損害補償(慰謝料)が請求できます。
不利益の程度や状況により異なりますが、慰謝料の相場は50万円~100万円とされています。
会社から解雇を告げられた場合、不当解雇であれば解雇の無効や未払いの賃金の請求ができますので、まずは相談を。
不当解雇についての相談場所は5つあります。
不当解雇をされたとき、多くの方が相談場所として思い浮かべるのが労働組合ではないでしょうか。
労働組合は労働者に変わって会社と交渉してくれるため、やり取りがスムーズなことがメリットですが、解雇を無効にして会社に復帰したい場合や慰謝料を請求したい場合には向いていません。
無料で相談できますので、まず相談だけでもしたい場合は会社や地域の労働組合を探してみましょう。
労働トラブルの駆け込み寺“労基”、企業の違法行為に対して指導、勧告を行います。
もちろん不当解雇にも対応し立ち入りや指導の対象となりますが、明確な労基法違反が証明できない場合は介入されないケースもあります。
また、解雇の無効に関しては判断されないため元の職場に復帰したい場合には労働基準監督署はあまりおすすめできません。
労働相談は無料で行えますので、「不当解雇かもしれない」と悩んでいる方は総合労働相談コーナーで相談してみるのも良いでしょう。
労働相談で頼りになるのはやはり弁護士。会社との交渉や労働審判、裁判の対応をしてくれるので費用はかかりますが最も納得できる結果が期待できます。
気になるのは弁護士費用、地域や対応内容、弁護士により異なりますが不当解雇の対応は40万円~80万円が相場。
最近では初回のみ、30分のみ無料相談可能という事務所も多いため弁護士の選択肢も豊富なことメリットです。
弁護士費用が不安な方は国が運営する法律の相談機関である法テラスもおすすめです。
不当解雇はじめ、セクハラやパワハラ、残業など様々な労働問題に対応し、費用は弁護士事務所よりも安くなることがメリット。
また、労働問題解決のために紹介された弁護士への費用は法テラスが立替え、相談者は分割払いできるため、経済的な負担が大きい方も相談しやすいですね。
ただし、収入や資産の制限があるため利用できる人が限られていますのでまずは利用できるかどうか相談してみるとよいでしょう。
労働者の人権を守り、ブラック企業を失くすことを目標に活動している労働組合。業種、職種、雇用形態問わず、解雇や未払い賃金の支払い、パワハラなど様々な労働トラブルへの対応を行っています。
相談は無料で、会社との団体交渉にも対応しているため会社とのやり取りがスムーズ、労働法等に基づいた適切な対応のアドバイスをしてもらえます。
最近では、コロナ解雇、退職を巡るトラブルが多く寄せられているそうです。
近くに労働組合がない、労基に行くのは大げさ、弁護士費用が負担になる…という方は総合サポートユニオンがおすすめです。
常時、メールや電話で相談できますので気になることがあれば相談してみましょう。
http://sougou-u.jp/index.html
いかがでしたでしょうか?
労働者の働く権利を侵害する不当解雇について詳しくご説明させていただきました。
突然会社からの解雇通知、高圧的な態度で退職を強要された場合、知識や対処法が分からない労働者は納得してしまい、自ら退職届を提出してしまうこともあるでしょう。
「これって不当解雇なんじゃないの?」と気付き労働者個人が会社と交渉し、解雇の無効を訴えても撤回されることは少なく、違法性があったとしても慰謝料請求ができず泣き寝入りという結果に終わってしまいます。
そんなときは、労働者の強い味方になってくれる相談機関へ相談することが賢明です。
団体交渉や未払いの賃金の請求など目的に応じて適切な相談場所を選び、サポートを受け不当解雇に立ち向かいましょう。