限定正社員はどんな人に向いている制度?利用するメリットとは

限定正社員という制度があるのを知っていますか?あまり耳慣れない言葉だと感じる人も多いのではないでしょうか。

一般的な雇用としては正社員(正規雇用)かアルバイト・パート・派遣社員などの非正規雇用とで分けられるわけですが、限定正社員は正規雇用と非正規雇用のどちらに分けられるのでしょうか。

SNSではネガティブな意見も多いように感じる『限定正社員』。一体どんな人のために作られた制度なのか、どんな企業が導入しているのか、実際の導入状況は…?

限定正社員についての疑問に答えていきましょう。

限定正社員とは

限定正社員の概要

限定正社員とは、職務内容、勤務地、労働時間などのいずれか、または複合して働き方を限定し働く正社員の事をいいます。

「多様な正社員」や「ジョブ型正社員」ともいいます。

平成25年4月に施行された『改正労働契約法』によって、有期雇用契約で働く非正規労働者は、5年以上の契約更新ができなくなりました。

雇用を継続するには正規雇用に切り替えなければならず、フルタイムで働く事が難しい場合失業するしかなくなります。

そんな問題に対して対応するために、限定正社員という制度によって雇用の継続や安定を見込めるとして取り入れられました。

限定正社員の種類

限定正社員には大きく分けて3つの種類があります。厚生労働省のサイトをもとに、それぞれについて説明していきます。

*参照:厚労省『多様な働き方の実現応援サイト』

職務限定正社員

高度な専門性を必要とする業務や、資格が必要な職務などにおいて、担当する職務内容が限定される正社員です。職務例としては、以下のようなものになります。

狙いとしては、ジェネラリストよりもスペシャリストの人材育成やキャリア形成も目的の一つとしています。

  • 金融業(証券アナリストなど)
  • 情報サービス業(データサイエンティストなど)
  • 医療、福祉業
  • 教育業
  • 運輸業 など

勤務地限定正社員

転勤がない、転勤があっても自宅から通勤可能な範囲に限定されるなど、転勤によって生活や家庭に影響がない勤務地に限定した正社員です。

結婚、育児、介護などの家庭の事情で転勤に対応できない人、地元で働き転勤を望まない人などのための制度であり、より地域に合った地域振興や地域貢献などのサービス向上も狙いの一つです。

勤務時間限定正社員

育児や介護などの家庭の事情、健康上の問題などでフルタイム勤務が難しい人のため、勤務時間や勤務日数を減らして勤務する正社員制度です。

昨今注目されるワーク・ライフ・バランスの実現にも活用できる制度であり、無理なく仕事も私生活も充実させることを目的としています。

限定正社員・正社員・派遣社員それぞれの違い

限定正社員は正社員と言われつつも、一般正社員とどう違っているのでしょうか?

また、形態がよく似ている派遣社員との違いも気になりますね。それぞれの違いについて、分かりやすく表にまとめてみました。

限定正社員 正社員 派遣社員
雇用形態 正規雇用 正規雇用 非正規雇用
雇用主 直接雇用 直接雇用 派遣会社
雇用期間 無期限 無期限 更新制、最長5年
給料 月給制 月給制 派遣会社による
福利厚生 社内規定通り 社内規定通り 派遣会社による
勤務地 勤務地限定正社員なら固定 社内規定による、辞令に従う 派遣期間によって変わる
残業・休日出勤 勤務時間限定正社員ならなし あり 基本はなし
仕事内容 職務限定正社員なら限定される 上司指示に従う、掛け持ちする場合が多い 雇用時の条件に従う、限定される場合が多い
勤務時間 勤務時間限定正社員なら時短・勤務日数限定制、他はフルタイム フルタイム フルタイム・時短など、雇用時の条件に従う
ボーナス 基本あり あり 派遣会社による、ない場合も多い

正社員と限定正社員は雇用や収入が安定しており、限定正社員と派遣社員は働き方として自由度が高いというイメージでしょうか。

そう考えれば、限定正社員は正社員と派遣社員のいいとこ取りといった感じかもしれませんね。

限定正社員制度は実際に活用されている?

限定正社員は懐かしのアベノミクスの一環で取り上げられた制度ですが、現在において実際にどれくらい広まり、活用されているのでしょうか。

厚労省による『令和2年度雇用機会均等基本調査』による、『多様な正社員制度の有無別事業所割合』の統計表から抜粋して分かりやすくグラフにしました。

限定正社員

参照:厚労省『令和2年度雇用機会均等基本調査』

残念ながら、現在制度を利用している企業の割合は3種合わせても20%ほどしか導入されていません。

この背景としては、中小企業やベンチャー企業など社員数や事業規模がそれほど大きくないところでは、勤務を限定した人員を雇う余裕がなく、マルチに働ける人材が重宝されるという理由が大きいと思われます。

同表の事業規模別導入状況を見ても、制度ありの割合は500人以上の事業所が40.2%であるのを最大に、規模が下がるごとに導入割合も下がっていきます。

限定正社員

限定正社員を利用するメリット・デメリットとは

限定正社員で働くメリット・デメリット

導入している企業が少ないだけに、実際に限定社員として働いている人が周囲に居なくて生の声が聞けない。

どんなメリットとデメリットがあるのか、まったく見えてこなくて自分が利用していいのか不安という人も多いのではないでしょうか。

実際に限定正社員として働くことによって、どんなメリットとデメリットがあるのか比較してみましょう。

職務限定正社員のメリット

  • 自分のやりたい仕事に集中して勤務できる
  • 多様な仕事による慌ただしさや雑多さに惑わされずに仕事ができる
  • スキルアップに集中できる

勤務地限定正社員のメリット

  • 配偶者や同居家族に転居の不安や負担をさせずに済む
  • 単身赴任など家庭に影響を与えずに済む
  • 自分の住みたい環境に安定して居住できる
  • 地域貢献や地域のサービス向上がしやすい

勤務時間限定正社員のメリット

  • 家事や育児、介護など家庭の事情に影響せず、安定した雇用も実現できる
  • 趣味や副業など、他にやりたい事と仕事の両立に活かせる
  • ワーク・ライフ・バランスの実現

職務限定正社員・勤務地限定正社員・勤務時間限定正社員のデメリット

  • 雇用条件が限定的になっているため、社内変革やプロジェクト終了、支所の撤退などの変化があった際に、異動や転勤に対応できず一般正社員よりも雇用の安定性は低い
  • 一般正社員との差別化を図るため、収入面や各種査定などの条件が低く設定されている場合は多い
  • 一般正社員に比べて、業務や雇用条件が限定的であるため、責任ある仕事を任されにくい
  • 年収・条件の交渉策

正社員なので、非正規雇用に比べれば雇用は安定しています。

しかし条件が限定されている限りは、会社としては一般正社員に比べてしまうと使い勝手はよくないと思われるのは仕方がありません。

また限定された条件を運用できない状況になった際には、限定正社員である本人が条件の変更を了承しなければ企業としては解雇するしかありません。一般正社員との差がそのままデメリットになります。

限定正社員を雇う企業のメリット・デメリット

従業員としてのメリットとデメリットは確認しましたが、企業としては限定正社員を雇うことにどんな意味があるのかについても一緒に考えてみると、理解が深まるのではないでしょうか。企業にとってのメリットとデメリットについても見ていきましょう。

メリット

  • 結婚や出産、介護や健康の問題などでフルタイム勤務ができなくなった正社員を、希望条件で雇用継続がしやすくなる
  • 一般正社員として働くことに抵抗がある優秀な人材を、希望条件のもとで雇用しやすくなる
  • 有期雇用で雇用していた優秀な人材を、そのままの条件で正社員として雇用継続することができる
  • 職務限定正社員制度によって、社内のスキルアップがしやすくなる

デメリット

  • 社内の雇用形態が多様になることによって、管理がややこしくなる
  • 正社員とはいうものの、一般正社員に比べると残業や休日出勤、勤務時間、転勤などに対して優遇されるために、社内の人間関係にリスクが伴う
  • 一般正社員からの不満解消のために、差別化として給与などで差別化を測るなどの対策を練る必要がある
  • 限定正社員求人において明示しなければならないことなど、事務処理に手間がかかる

企業側も雇用条件を限定することで、雇用しやすい様々なメリットがある反面、社内の人事や事務処理が煩雑になりやすくなり、社内の人間関係においてもリスクを抱えることになります。

対応する人材が必要になったり、対策を立てるための会議が必要になったりなどコストがかかる可能性もあるため、余計に中小企業やベンチャー企業では制度を取り入れることの旨味が薄いともいえます。

限定正社員に向いている人・向いていない人

ここまでの情報を踏まえて、実際に限定正社員に向いている人・向いていない人とはそれぞれどんなタイプなのでしょうか。限定正社員は気になるけど、あなたにとってはメリットになるのか、それともデメリットになるのか参考にしてください。

限定正社員に向いている人

限定正社員は、職務・勤務地・勤務時間の3種類で条件が限定された雇用形態だと説明しました。単純にこれらの雇用形態が希望に当てはまる人が向いている人です。

中でも、正社員としての安定した雇用と収入が必要で、でも一般正社員に比べて多少収入が下がったとしてもプライベートの自由度も必要であるという人が1番向いています。

理想のワーク・ライフ・バランスを実現したい人。正社員でも派遣社員でもそれぞれのデメリットが気になり、いいとこ取りできたらいいのに…と悩んでいた人にはぜひおすすめです。

限定正社員に向いていない人

正社員という名前がついているものの、限定正社員は働き方自体は派遣社員に似ています。

雇用や収入などの正社員の旨味をそのままに、働き方は派遣社員のままと言われてしまえば、一般正社員からの不満が出るのは仕方がないことといえますよね。

そのため、一般正社員との均衡をはかるために、給与や福利厚生、ボーナスや昇進査定などで企業は差をつけている事が多いです。

一般正社員同等の待遇が必要で、できるだけ楽して働きたいという理由で安易に限定正社員として働くのはおすすめできません。

勤務が限定されているだけに、責任ある立場や仕事を任せてもらえない事も多く、一般正社員から軽視されてしまうこともないとはいえず、いざ働いてみたら不満ばかりが積もってしまうことにもなりかねません。

限定正社員の求人はどこにある?

いざ限定正社員として働きたいけど、実際に限定正社員の求人はどこで探せるでしょうか。

元々制度を取り入れている企業は多くなく、媒体によっては選択肢が狭まってしまうことにもなりかねないので、まずは求人を探す媒体から気を付けたほうがいいでしょう。

まず、ハローワークは各自治体の中小企業求人が多い傾向にあります。

大企業が多い限定正社員求人は、ハローワークではそもそも求人数が少ない傾向にあります。

求人サイトは大手企業の求人も多く、限定正社員求人も一定数取り扱っているかもしれません。

しかし、少々特殊な条件だけに、社内の実働性や限定正社員の割合、人間関係などは求人サイトではまったく測ることができず、自分でネットで調べる必要があるため、転職活動の難易度は上がります。

その点で言えば、転職エージェントであれば大企業求人を多く取り扱っていますし、企業の内情も把握しており教えてくれるので、利用がおすすめです。

正社員と派遣社員のいいとこ取りしたい人におすすめの限定正社員

「一般正社員と派遣社員のいいとこ取り」を強調してきましたが、もちろん全てにおいていいところしかないというわけではありません。

非正規雇用に比べて雇用が安定しているとはいえ、一般正社員ほどの安定はありませんし、収入面でも一般正社員よりも条件が低い場合が圧倒的に多いです。

実際の運用を見る限り、社内の待遇としても正社員の割に軽視されているところはあると聞きます。

とはいえ、家事や育児、介護などの問題で日本ではまだまだ女性のキャリア形成が難しい現実があります。

また、身体的・精神的な問題によりフルタイム勤務が難しい人が非正規雇用でしか働けず、安定した収入が得られず生活に困窮する事も少なくありません。

そんな人達にとって、限定正社員は安定した雇用と収入が得られるチャンスになるでしょうし、また社会復帰の足がかりにもなるでしょう。多様な状況に合った働き方の一つとして、限定正社員という選択肢があるのもいいことではないでしょうか。


おすすめ関連記事

知らないと損する!?退職日の決め方ガイド
転職する際に設定する退職日。いつが損でいつが得するのか知っていますか?
女性が一生食べていける、ゼロから取れる資格は?
女性におすすめの様々な資格を紹介!現代では、自分の価値を高め、女性磨きの為資格を取得する人が増加中。転職の時や周りの人の為に活かせる資格取ってみませんか?
履歴書でも使える特技ストック10選
履歴書を書くときに悩む項目といえば「趣味・特技」の項目ではないでしょうか。「当たり障りないものを書いておけばいいや」と適当に書いている方はいませんか?
あなたのそばにもいる?無能な上司
無駄に部下の足を引っ張る能力が高い上司=無能な上司。ダメ上司チェックリストを使った特徴と対策方法をご紹介します。
40代の転職失敗は地獄。なぜ?
残酷なことに転職にチャレンジした40代が転職に失敗し後悔する人が後を絶ちません。転職で年収136万円ダウンした例も!ここでは40代の転職で勝つヒントをご紹介します。

参考サイト
厚生労働省
内閣府
ハローワーク
職業情報提供サイト
日本経済連合会
転職コンサルタント
中谷 充宏
梅田 幸子
伊藤 真哉
上田 晶美
ケニー・奥谷