行政書士の資格は、難易度の高い国家試験に合格しなければ取得することができません。行政書士の資格試験は出題範囲が広く、独学では取得が難しいといわれています。しかし一部ではありますが、独学で見事合格を果たしている人もいます。
この記事では独学で行政書士試験に挑戦したいという人のために、必要な勉強時間からテキスト等教材、具体的な勉強方法までを解説しています。
「独学で資格を取得する」と決めている人はもちろん、独学すべきかどうか迷っている人も、ぜひ参考にしてみてください。
行政書士は行政に関わる様々な書類を作成し、依頼者に代わって申請きを行う許可手続きの専門家です。個人の遺言書から、会社設立のための定款まで様々な法的書類の作成に関わる「国民と行政をつなぐ存在」といえます。
行政書士になるには、行政書士の国家試験に合格し、資格を取得する必要があります。資格を得ることで転職や就職のアピールに使えるほか、独立開業を狙うこともできます。なお、行政書士試験の受験資格は特に設定されておらず、誰でも受験することが可能です。
このように魅力的な行政書士の資格ですが、国家試験というだけあり難易度は高めです。ここ10年の合格率を見てみると、最も低い時で8.3%(平成26年度)、最も高い時でも15.7%(平成29年度)となっています。
行政書士の合格率は、大体10%前後で推移している状態です。さらに合格者の中には司法試験の受験生が含まれているので、法律の予備知識がない受験生の合格率はより低くなると推定されます。
参照:行政書士試験研究センター『最近10年間における行政書士試験結果の推移』
行政書士の資格は、独学の難易度が高いといわれています。独学が厳しい理由を具体的に見てみましょう。
行政書士の資格試験では、択一式の他40字程度の記述式問題も出題されます。択一式の問題なら、正解と不正解がはっきり分かるので問題集を見ていても対策がしやすいです。しかし、記述式だと自分の解答があっているのかどうか自信が持ちにくいです。そのため独学での勉強は無理だと感じてしまいがちです。
行政書士は依頼者に代わって行政書類を作成し、代理申請を行うことができる資格です。行政書士が作成できる書類の数は1万種類を超えると言われており、資格を取得するためには幅広い知識が求められます。
試験範囲は法令科目5科目+一般知識3科目=全8科目と広範囲にわたっています。さらに合格のためには得点率について「法令科目で50%以上」「一般知識で40%以上」「全体で60%以上」という3つの条件を満たさなければなりません。
行政書士は法律に関わる資格なので、様々な法律知識を勉強していくことになります。独学の勉強方法としてスタンダードなのは、参考書を読んで過去問を解いていくというスタイルです。しかし、なじみのない法律用語は頭に入りにくいものです。いくら勉強時間を費やしても、内容が身につかない危険性があります。
行政書士は昭和26年から続く歴史の長い試験です。しかし今日に至るまで2000年、2006年と二度の試験改正が行われ、そのたびに難易度が高くなってきました。特に2006年の試験改正では、理解力や思考力を重視した試験内容への改定が行われています。法律に関する表面的な知識だけではなかなか合格するのが難しいのが、近年の行政書士試験なのです。
独学において、過去問を繰り返し解くことは勉強方法の基本です。しかし、行政書士の試験においては、過去問をマスターするだけでは厳しい側面があります。問われる知識が幅広い上、それぞれの知識に対する理解力が必要とされるのです。安全圏の実力をつけるには過去問からもう一歩踏み込んだ学習が必要です。
独学の難易度が高い行政書士試験に合格するのは、どんな人たちなのでしょうか。
今までにしっかり法律の勉強をした経験がある人は、行政書士の基本となる知識が身についています。例えば弁護士を目指して勉強をしていた経験がある人や、他の法律系資格を取得している人なら、独学でも試験に受かりやすいです。
行政書士の仕事内容は行政手続きに関するものです。仮に行政書士の資格を持っていなかったとしても、仕事でこれら手続きを行っている人もいます。例えば公務員ならば行政手続きに関わることは多いはずです。このように仕事柄行政手続きに熟知している人なら、司法書士の試験内容にも戸惑うことは少ないでしょう。
独学で勉強するには、自分で教材を選定する必要があります。行政書士の教材は様々なものが出版されていますが、あれもこれもと手を出しすぎると中途半端な結果になりがちです。独学で受かる人とは、自分がこれと決めた教材を最後までやり抜くことができる人といえるでしょう。
独学での勉強は誰に強制されるわけでもないので、さぼろうと思えばいくらでもさぼれます。独学で受かる人は、「絶対に独学で合格する」と覚悟を決めている人です。独学で合格を目指すなら、自分に妥協しない強い精神力が必要です。
難易度が高い行政書士の試験に独学で挑むことはどんなメリットがあるのでしょうか。
まず独学のメリットとして、学習コストが安い点があげられます。予備校や通信講座を利用すれば、5万~20万程度のまとまった学費が必要になります。一方独学ならテキスト・問題集といった書籍代だけで学習を進めることができます。資格取得にかけるお金があまり用意できないという人にとって、独学は非常に魅力的です。
また勉強時間を自分の都合の良いように変更できるという点も、独学のメリットです。予備校の場合はカリキュラムが決まっていますし、通信講座にもサポート期間というものがあります。決められた期間内に勉強を終えて、試験を受験しなければならないというわけです。しかし受験勉強中に急に忙しくなってしまった、体調を崩してしまったなどの不測の事態が起きる可能性もあります。そんな時、独学なら試験を次回に見送るという決断もしやすくなります。
一方で自由に勉強時間を変更できるのは、さぼりやすいというデメリットにもつながります。自分で強い目標意識を持たないと、モチベーションが保てずなかなか勉強が進まないという危険性があります。
さらに独学では疑問点を質問できる相手がいなかったり、どのような勉強方法が良いのか迷ってしまうなど効率の悪さが目立つこともあります。
独学のメリット、デメリットをよく考えてから、自分が独学に向いているかどうかを判断してください。
ここからは、独学で行政書士試験を受験する人のために具体的な勉強方法を紹介していきます。
まず独学で資格試験対策をする前に、行政書士の試験内容を確認しておきましょう。
例年11月第2日曜日(年1回)
・行政書士業務関連の法令等(憲法、行政法、民法、商法及び基礎法学)
択一及び記述式(40字程度で解答) 46題
・行政書士業務関連の一般知識等(政治・経済・社会、情報通信・個人情報保護、文章理解)
3時間
独学で司法書士試験に合格するための勉強時間目安は、800~1,000時間と考えられます。
例えば平日は2時間、休みの日は5時間、週20時間勉強すると考えれば、大体1年ほどの勉強時間が必要になります。
行政書士の試験は1年に1度しか実施されません。試験日まで1年を切るようなら今年度の試験をあきらめて、次年度に標準を合わせても良いでしょう。
法律の勉強をした経験がある人なら500~600時間程度の勉強時間を目安にしてください。
独学で使えるテキスト・問題集などの教材を紹介します。
なお、行政書士の試験では試験年度の4月1日施行の法令を基準に出題されます。独学用の教材を選ぶ場合は最新の法改正に対応したものを探すようにしましょう。
フルカラーのテキストで『ハンディ行政書士試験六法』の別冊付き。一問一答の確認問題+QRコードからアクセスできるWeb問題で知識固めができます。オールインワンの人気書ですが、分厚く取り扱いづらいというデメリットもあります。
通信講座「資格スクエア」発のテキストです。語呂合わせなどで記憶の定着を図る工夫がされています。ページ数はやや少なめです。
フルカラーと親しみやすいイラストで人気の「みんなが欲しかった!」シリーズ行政書士版です。5分冊形式をとっているので気になる部分だけを持ち運ぶことができます。赤シートで重要部分が隠れる『ミニ行政書士試験六法』が付いています。ただし、やや情報量が少ないというレビューも見られます。
情報量が多めのフルカラーテキストです。初心者から学習経験者までを幅広くフォローしており、独学で合格を目指す受験生に向けた作りも意識されています。分冊ができないので、通勤中に持ち運びにくいのがデメリットです。
図やイラストが多いフルカラーテキストです。5分冊形式で持ち運びが楽な点や、重要事項が隠れる『合格六法』など「みんなが欲しかった!」シリーズとの共通点が多いです。また本書には、書籍購入者限定の無料講義動画(全15回)を見ることができる特典もついています。
上記で紹介したテキストが難しく感じられる法律学習の初心者は、こちらから学習を始めてみましょう。
『うかる!行政書士 総合テキスト』の入門版です。学習のモデルプランや学習進捗表付きです。
『合格革命 行政書士 基本テキスト』の入門版です。再頻出の重要42テーマをまとめているので、学習スタート時だけでなく、試験直前の振り返りテキストとして使える点もポイントです。
行政書士試験対策に特化した本というわけではないですが、法律に初めて触れる人が法律を読むための基本を身に着けるための本です。後の学習を効率よく進めたいという人は、学習を始める前に読んでみてはどうでしょうか。
過去5年分の本試験(多肢選択問題と記述式に関しては過去14年分)を収録した過去問集です。解説が充実していると評判が高い一冊です。
こちらは法令科目の過去問を1問1答形式で解いていく問題集です。過去問をすべて解いていく時間がなかなか取れない人、スキマ時間に学習を進めたい人向けです。なお、同シリーズでは、本試験形式の過去問集『みんなが欲しかった! 行政書士の5年過去問題集』もあります。
重要箇所のまとめ
行政書士の資格試験合格に必要な115の項目についてまとめた本です。『うかる!行政書士 総合テキスト』の補助教材として便利です。コンパクトなので持ち歩きも可能です。
記述式対策
記述式問題対策に使えるオリジナル問題集です。独学で記述式対策に悩んだら、使ってみてください。
こちらも記述式対策用のオリジナル問題集ですが、レベルが高めです。試験対策を万全にしたい上級者向けといえます。
オリジナル問題集
独学者に使いやすい学習のヒントや応援コメント付きの問題集です。直前に解くべき問題には印があるので、全部解く時間がない人にも無理のない構成になっています。
では、行政書士資格試験勉強方法の一例を具体的に紹介します。
独学に最低限必要なのは知識をインプットするテキストと過去問です。上記で紹介したように、テキストには様々な種類があります。分量や読みやすさなどを比較し、自分に合った物を選んでください。過去問集もいろいろな出版社が発売していますが、解説がなるべく詳しいものを選びましょう。過去問は必ずしもテキストと同シリーズの物を揃える必要はありません。
補助教材やオリジナル問題集などは、自分の学習進度に合わせて揃えていきます。
次に行政書士試験までの日数を計算し、学習スケジュールを立てていきます。入門用のテキストで試験の内容をざっと把握してから、学習スケジュールを作っても良いでしょう。
なお「〇日には何をする」のような細かい予定は、あまり望ましくありません。スケジュール通りに進まないとき、柔軟に対応できるのが独学のメリットです。1か月単位、週単位といった大まかな達成目標を作っていくと、不測の事態が起きても修正もしやすくなります。
できるだけ余裕をもって、突発的な事態にも対応できるような無理のないスケジュールを組みましょう。
学習の流れの基本は、次のようになります。
一度目に過去問を解いたときは分からない部分が大半だと思いますが、解説を読み込み、何周も繰り返します。苦手な問題を割り出すために、正解不正解の印をつけることを忘れないでください。
行政書士試験の試験範囲は法令等科目と一般知識等に大別されます。まずは法令等科目から勉強を始めましょう。
法令等科目は5科目に分けられます。この中でも配点が高いのが行政法と民法です。この2つを完璧にするだけで、最低合格ラインを突破できるのです。特に民法は行政書士試験の基本となる内容が詰まっていますので、最初に民法を理解できれば、後の学習が分かりやすくなります。
なお行政書士の試験範囲は広いので、最初からテキストを全部読むのは難しいです。分野ごとに区切って2~3回ほど繰り返し読み、次にその範囲の過去問を解いていくという方法をとってみましょう。
一般知識等で出題される問題は、非常に幅広くなっています。特に「政治・経済・社会」は一般教養の側面が強く、出題予想をすることは無理と考えてください。また「文章理解」は空語補充や文章の並び替えなど国語力が試される内容なので、勉強すればすぐに成績が上がる分野ではありません。
一般知識等の勉強をするなら、攻略しやすい「情報通信・個人情報保護」に集中した勉強が効率的です。
過去問の内容が定着したら、オリジナル問題集や予想問題集に進みます。さらに余裕があれば記述式対策などの試験形式別問題集に取り組みましょう。
行政書士の試験では、過去問集に出てこないような新しい側面からの問題が出題されることがあります。幅広い問題になれて対応力をつけておくと、合格にぐっと近づけます。
ある程度勉強が進んで手ごたえを感じたら、各スクールが行っている模試を受けてみましょう。
模試を受けることは、次のようにメリットがたくさんあります。
ここまで、独学の勉強法について紹介してきました。しかし受験生の中には、独学で何度も試験に挑んだにもかかわらず、合格できないという人もいます。独学での学習に限界を感じたら、通信教育の併用を検討してみましょう。通信教育なら、自宅で好きな時間に試験対策をすることができます。
行政書士の試験対策ができる通信教育には、以下のようなスクールがあります。
アガルートアカデミー
STUDYing
フォーサイト
どれも動画で講義を受講することができるので、タブレットやスマホを利用して受験勉強が可能です。独学でテキストを読んでいても内容が難しく頭に入らないという人は、通信教育で効率の良い学習をする方が早く合格にたどり着けるでしょう。
行政書士試験は1年に1回しか受験のチャンスがありません。
独学で合格を狙うならまずは1年でどのように勉強を進めていくのか、しっかり学習計画を立てましょう。行政書士試験向けのテキストや問題集はたくさん発売されていますので、自分の読みやすいものを探します。テキストが難しく感じられる場合は、行政書士試験の入門書で全体像をつかみましょう。
勉強では得点配分が大きく、対策がしやすい分野を集中して抑えていくと効率が良いです。例えば法令等科目なら行政法と民法、一般知識等なら情報通信・個人情報保護を中心に勉強していきます。一通り知識が身についたら、公開模試で試験形式に慣れていくようにします。
行政書士の試験は難関ですが、強い意志を持って挑めば独学での攻略が全く不可能なわけではありません。ただし独学で何度も受験に失敗するようなら、通信講座との併用を考えることをお勧めします。