「引きこもり歴が長いから就職は無理かもしれない」
「引きこもりのまま30代になったが今からでも就職したい」
引きこもりの生活を抜け出し、社会復帰を果たしたいと考えている方も多いかと思います。
引きこもりになる理由は人それぞれですが、社会復帰につなげた方も実際にいるため、諦めることはありません。
本記事では引きこもりの実態がどうなっているか、社会復帰につなげる方法や利用できる就職支援サービスなどを詳しく解説します。
実際に精神科デイケアで4年の勤務経験がある筆者が、実際の体験談も交えつつご紹介します。
日本における引きこもりの実態、社会復帰がどのような状況にあるかなどをご紹介します。
引きこもりになる方は、ほとんどがどこにでもいる普通の人です。10代は学校に通い、20代は社会人として働く人もたくさんいます。
しかし、人生で起きた事件や出来事をきっかけに、引きこもりになってしまいます。
内閣府の調査によると、引きこもりの方の53.2%は「35歳以上で無職」との回答です。(*)
引きこもりは非常に長い経過をたどるため、学生時代に引きこもりになり、そのまま30代まで続く人も少なくありません。
社会人経験の少なさも、引きこもりに影響を及ぼしている可能性はあるでしょう。
*参照:内閣府『「生活に関する調査(平成30年度)」P28』
日本における引きこもりの方の人数について、内閣府は令和5年(2023年)3月に調査結果を発表しています。
その結果によると、15~39歳の2.05%、40~64歳の2.02%が引きこもりであり、全国では約146万人が引きこもりの状態にあると推計しています。
参照:内閣府『「こども・若者の意識と生活に関する調査」P164』
平成30年(2018年)の調査では61.3万人と推計されていたため、5年間で倍以上の増加です。
今後も引きこもりの方が増加する可能性があり、早期の対応が必要な状況です。
内閣府によると、引きこもりの定義は学校や就職などの社会参加を避け、6カ月以上他者と関わらずに家庭で過ごす方としています。
統合失調症や発達障害などの精神疾患に起因する場合もありますが、確定診断がされていない方も多いです。
そして、引きこもりの期間については、非常に長い経過になります。
参照:内閣府『「特集2 長期化する引きこもりの実態」(2)ひきこもりの状態になってからの期間』
引きこもりの期間は、2割以上の方が「3~5年」と答え、「30年以上」と答えた方もいます。全体で見ると、70%以上の方が3年以上の引きこもり状態でした。
支援がなければ引きこもりが長期化し、就職が困難になると予想されます。
引きこもりが長期化しやすい一方で、希望もあります。
内閣府の調査の質問で「仕事をしなくても生活できるのならば、仕事はしたくない」に対し、36.2%の方が「いいえ」「どちらかといえばいいえ」と答えています。
引きこもりの状態から脱出する意欲のある方も多く、支援次第で社会復帰率を高められるでしょう。また、引きこもりの方で「現在就職活動をしている」と答えた方は13.0%で、実際に活動を進めている方もいます。
きっかけさえあれば、引きこもりを抜け出したいと考えている人も多いことがわかります。(*)
*参照:内閣府『「生活状況に関する調査(平成30年度)」P37・40』
引きこもりになる原因について、平成27年度・30年度の調査結果から解説します。
まず、平成27年度(2015年度)の調査によると、不登校、職場になじめない、就職活動の失敗、人間関係、病気などがありました。
平成30年度(2018年度)は、退職、人間関係、病気、職場になじめない、就職活動の失敗などでした。2つの結果から、仕事上での失敗、人間関係、病気による体調不良の3つが引きこもりの原因になりやすいことがわかります。
社会生活における様々なストレスにより、引きこもりになる方が多いと考えてよいでしょう。(*)
*参照:内閣府『「特集2 長期化する引きこもりの実態」(4)ひきこもりの状態になったきっかけ』
なぜ引きこもりが長期化すると社会復帰が難しくなるのか、体と心の変化から理由を解説します。
引きこもりの社会復帰を妨げる理由の1つ目は、人と関わることへの恐怖心です。引きこもりになる理由は人間関係や人生における失敗に起因するため、人との関わりを長期間絶ってしまいます。
人との関わりを失えば、自分の心の殻に閉じこもり、自己評価や自己肯定感も低下していきます。
特に人からひどく叱られた経験から引きこもりになった場合、自分を否定されたように感じ、人との関わりに恐怖を抱くのも自然なことです。
自分のためを思ったアドバイスですら否定的に捉えてしまい、社会復帰が難しくなります。
引きこもりは人間関係や仕事・学校生活での失敗が原因になるため、人生における挫折経験が関係します。挫折経験を味わうと、同じ経験をするのが怖くなり、努力する気持ちがなくなるからです。
社会復帰についても同じく、社会復帰したい気持ちがある一方で、働きたくない気持ちも強くなり、引きこもりの期間が長引く悪循環に陥ります。
どうやって本人を挫折から立ち直らせるか、成功体験を積み重ねるかが重要です。
引きこもり生活はほとんどを家庭内で過ごし、外出もわずかしかありません。人との交流もないため、遠出や運動とも無縁の生活になり、自然と筋力・体力ともに落ちていきます。
社会復帰するには毎日働く体力が必要ですから、体力不足で働けないというケースも少なくありません。そのため、社会復帰をする前に日中の外出回数を増やし、少しずつ身体を動かす習慣を身に付けることが重要です。
両親がいきなり正社員やフルタイムでの働きを求めるケースもありますが、引きこもりで体力がない状態では、長時間の労働は挫折経験になるおそれがあります。
本人が無理なく続けられる範囲からスタートし、徐々にステップアップすることが社会復帰のポイントです。
引きこもりの経験があると、企業側から「根気が続かないのでは」と不安に思われる傾向があります。年代によっても就職の難しさは変わりますが、就職活動をしてもすぐに採用されない可能性があります。
そのため、何度も不採用通知をもらううちに気持ちが落ち込み、社会復帰を果たせないケースも珍しくありません。
しかし、中には積極的に引きこもりやニートの方を受け入れている企業もあるため、良い企業に出会うまで続けることが重要です。
就職支援にも相談しながら、自分を必要としてくれる企業を粘り強く探しましょう。
引きこもりは本人の過去の体験だけでなく、家族が原因で長く続いてしまうこともあります。
筆者の経験を例に出すと、高校時代に引きこもりになり、30代で社会復帰支援プログラムを受けに来た方がいました。
ご本人は上手く言葉が話せず、コミュニケーションと外出がストレスになっている状態です。一方、ケアをしているご両親は非常に過保護で、身の回りの世話をすべて行っていました。
さらに、ご両親は「1カ月で正社員就職させたい」と無理にでもプログラムへ参加させようとした結果、本人はますます外出しなくなったケースがありました。
極端な例ですが、引きこもりの方と家族との間には共依存関係が成り立っていることもあり、引きこもりを助長している可能性があります。
引きこもりから社会復帰を目指すには、本人だけでなく、家族へのアプローチも鍵になります。
引きこもりの状態から脱出し、社会復帰を目指すために何をすればよいのか、4つの方法をご紹介します。
引きこもりの方は、多くが自信を喪失し、働けると思えるほどの自己肯定感が足りていません。
失った自信を取り戻すには、日々の行動に小さな目標を立て、達成する度に褒めてあげることが大切です。
例えば、自室から出られない人は自室の扉を開けるだけでも構いません。扉を開けられたら、次は廊下に足を踏み出す、次は別の部屋に行くなど少しずつ目標を設定しましょう。
その日の体調によって後退することもありますが、過去に「ここまでできた」という経験は自信につながります。
小さな成功体験の積み重ねが、いずれ社会復帰につながる大きな一歩になります。
外出ができるようになったら、家族以外の人と話す練習もしましょう。友人や知人のほか、引きこもり支援をしている方でも構いません。
大切なのは人と話す意思表示をすることです。最初は「おはようございます」「こんにちは」などの挨拶から始め、気持ちの余裕ができたら会話を続けましょう。
引きこもりの定義は人との交流がないことですから、話せるようになれば引きこもりは脱出できています。
引きこもりで昼夜逆転の生活を送っている方は多いです。
しかし、社会復帰するには日中の生活に慣れる必要がありますから、生活リズムを調整しましょう。
日中眠くなっても運動や勉強で時間を過ごし、夜は毎日同じ時間に就寝することで、生活リズムは自然と整っていきます。
いきなり生活リズムを変えるのが難しい場合は、1週間毎に就寝・起床時間を1時間ずつずらす方法がおすすめです。
少しずつずらせば体の負担も少なく、無理せずに生活リズムが調整できます。
社会復帰への準備段階として、作業所や精神科デイケアに通う方法もおすすめです。
作業所とは、平日日中に軽作業を行い、就職に向けた体制と生活リズムの調整、仕事への意識が学べる施設です。
作業内容は縫物、作業着の洗濯、パンの製造・販売、小物づくりなど施設によって様々なものがあり、わずかですが給料も出ます。
精神科デイケアは社会復帰プログラム、利用者同士での交流、リハビリなどを通して社会性を育て、生活リズムの調整、基本的なパソコン操作なども学べる施設です。
デイケアには引きこもりの方だけでなく、発達障害や精神疾患の方もリハビリに訪れます。
同じ悩みを抱える方同士での交流もでき、精神的なサポートも行います。
引きこもりからの社会復帰を医療・福祉面で支えるサービスですから、積極的に利用しましょう。
職歴なしでも利用できる就職支援サイトやサービスを4種類ご紹介します。
ハローワークは日本中の市区町村にある公的機関で、地域の求人を中心に取り扱っている就職支援サービスです。
登録すれば利用は無料で、アドバイザーに就職の相談もできます。
35歳未満なら、自治体によっては「わかものハローワーク」も利用可能で、正社員就職をしっかりとサポートしてくれます。
引きこもり専門の就職支援はしていませんが、豊富な求人数から自分の求める条件に合った企業が探せるのでおすすめです。
ひきこもり地域支援センターは、47都道府県と指定都市に置かれている行政が主体のひきこもり相談窓口です。
センターには社会福祉士、精神保健福祉士などのコーディネーターが在籍し、社会復帰に向けた支援や情報発信を行っています。
福祉施設や自治体の福祉窓口、病院、ハローワーク、教育機関などとも連携し、引きこもりの方が地域で居場所を作れるように支援しています。
本人だけでなく、家族からの相談も受け付けているため、公的機関のサポートがほしい方におすすめです。
就職カレッジは、20~30代のフリーターや未経験者向けに正社員就職を支援しているサービスです。
就職カレッジは厚生労働省の「職業紹介優良事業者」にも認定されており、就職支援への高い信頼が担保されたサービスです。
アドバイザーが実際に紹介企業まで足を運んで確認しており、紹介企業の雰囲気や福利厚生といった内部情報までしっかり教えてくれます。
また、フリーターや未経験者向けに無料就活講座も実施しており、就職の経験がない方でも就職カレッジなら安心して就活に取り組めます。
引きこもり期間が長く、就職できる自信がない方でも、就職カレッジで社会人への第一歩を踏み出しましょう。
社会復帰支援アウトリーチは、NPO法人として家族や社会に対して引きこもりへの理解促進、本人への在宅ワーク支援を行う就職支援サービスです。
日本各地でイベントや講演を行い、家族関係が引きこもりに与える影響、引きこもり脱出のポイントなどのお話を行っています。
また、本人向けの社会復帰サポートとして、在宅ワークの適性チェックを行い、適性に合わせた就労支援やボランティアなども紹介しています。
仕事内容は資料封入や名刺リストの作成、手書きアンケート集計などの簡単なものが中心です。
引きこもりへの理解を深め、就職活動の相談もするならアウトリーチがおすすめです。
引きこもりから社会復帰に成功した人の体験談を3つご紹介します。
会社を退職後5年ほどの引きこもり生活ののち、社会保険労務士資格を取得して正社員就職に成功した方の体験談です。ご本人は広汎性発達障害を抱えながらも、仕事で外出機会も増え、次第に引きこもりから抜け出しました。
やや特殊な例ですが、資格取得は自信につながり、困難に直面しても「私なら大丈夫」と思える精神的な支柱になります。
比較的取得しやすい資格から勉強を始め、自信をつけて引きこもり脱却を目指しましょう。
参照:YAHOO!知恵袋より
引きこもり生活は辛いもので、脱出したいと多くの方が考えています。この体験談の方も生活に苦痛を感じていましたが、働くことで人から感謝されること、働いている自分への満足感で引きこもりを脱出できています。
引きこもり生活から抜け出すには、自分が働く意味を自分なりに見つけ出すこと、他者からの言葉で仕事への価値を理解することが大切です。仕事へのやりがいにもつながるポイントですから、仕事ができる自分自身を認めてあげましょう。
参照:YAHOO!知恵袋より
自分だけの小さな目標を設定し、成功を積み重ねることで自信を深め、引きこもりを脱出した体験談です。部屋から出る、玄関から出る、仕事を探すなど、目標を細分化して達成することで「自分にもできる」という自信が持てます。
引きこもりから社会復帰を果たすには、成功体験と自信の有無が非常に重要です。成功体験がないと、ちょっとした失敗で過剰に落ち込み、挫折しやすくなるからです。
「こんなことでいいの?」と思えるほど小さな目標から、徐々にハードルを上げて社会復帰を目指しましょう。
参照:YAHOO!知恵袋より
なぜ引きこもりになるのか、どうすれば引きこもりから抜け出せるのかを解説しました。
引きこもりのまま30代になった方、就職経験がない方でも「就職なんて無理」と諦めることはありません。
引きこもりは数年、数十年に及ぶ例もありますが、社会復帰を目指す気持ちがあるなら、一日も早く行動を起こしましょう。
就職活動の空白期間を短くする意味もありますが、気持ちが前向きなうちに行動するのが大切だからです。
就職支援サイトや公的な支援も活用し、引きこもりからの社会復帰を成功させましょう。