新型コロナウイルスによる不況は、IT業界へも影響を与えています。以前はリモートワーク導入によるIT投資の需要でプラス影響を受けていましたが、その流れも一段落しました。現在は、不況による設備投資の控えからシステム開発案件の受注が伸び悩んでいる企業も少なくないでしょう。
ITエンジニアの中には、給与や待遇面に不満があり転職を考えている方もいるかもしれません。そこで注目される職種の一つがインフラエンジニアです。インフラエンジニアはIT基盤を支える重要な人材であり、コロナ禍であっても堅調な需要が期待できます。
今回の記事では、ITエンジニアがインフラエンジニアへの転職を目指す際、役に立つ資格について解説していきます。
インフラエンジニアの資格を知る前に、まずインフラエンジニアについて理解しておく必要があるでしょう。本章では、インフラエンジニアの仕事内容や必要なスキルについて紹介します。
インフラエンジニアのインフラとは「インフラストラクチャー」の略で、社会が経済活動を営むにあたり不可欠な基盤を意味します。インフラの例としては、電気、ガス、水道、道路、鉄道などが挙げられるでしょう。
これらをIT業界に置き換えると、インフラはシステムを導入するために必要となるサーバーやネットワーク機器、OS、ミドルウェアなどを指します。
ITインフラを設計、構築、運用、保守していくのがインフラエンジニアの役割です。具体的な業務を順番に見ていきしょう。
1.要件定義
クライアントの要望をヒアリングし、必要な機材やコストを決定する
2.設計
インフラの具体的な構成や設定を決め、設計書や仕様書を作成する
3.構築
必要なインフラ機器を調達し、機器の接続や設定を行う
4.テスト
実際に機器を動作させ、仕様書通りに稼働するか確認する
5.運用
運用開始後、システムのログや負荷を監視する
6.保守
トラブルが発生した際に、原因を特定しシステムを復旧する
インフラエンジニアの業務内容は多岐に渡るため、様々なスキルを要求されます。それらの中でも特に需要なスキルは5つに大別できるでしょう。
・ネットワーク
・セキュリティ
・サーバー
・データベース
・クラウド
ネットワークは、コンピュータやサーバーをネットワーク機器で接続し、通信環境を構築する業務を指します。単にインターネットに接続するだけでなく、通信効率やコストを考えるスキルが必要です。
セキュリティは、サイバー攻撃や社員の過失から情報漏洩を防ぐ業務です。最近では、サイバー攻撃のやり方も巧妙化しているため、ITセキュリティの最新知識を常に学ぶ必要があるでしょう。
サーバーは、メールを送受信するメールサーバーやWebサイトを表示するWebサーバー、情報を管理するデータベースサーバーなどを構築する業務です。サーバーOSである「Linux」「Unix」「Windows Server」などの知識が必要となるでしょう。
データベースは、ビジネスでデータを管理できるようにデータベースを構築・運用する業務を指します。データベース製品である「Oracle」「MySQL」「PostgreSQL」「Microsoft SQL Server」などの知識が必要となるでしょう。
クラウドは、インターネットを通じてハードウェアやソフトウェアを利用するクラウドコンピューティングサービスを導入する業務を指します。最近ではコスト削減や開発期間短縮の目的から、クラウドコンピューティングサービスを利用する企業が増えており、インフラエンジニアにもクラウドの知識が求められています。
インフラエンジニアの資格について調べた方の中には、「インフラエンジニアに資格はいらない」という意見を見かけた方もいるかもしれません。確かにインフラエンジニアの仕事は幅広く、全ての業務に対応する資格は見当たらないでしょう。
しかし、インフラエンジニアに必要な各スキルに対応する資格は存在します。各スキル別に役立つ主な資格は次の通りです。
・ネットワークスペシャリスト試験
・シスコ技術者認定
・情報処理安全確保支援士試験
・Linux技術者認定試験(LPIC、LinuC)
・ORACLE MASTER
・AWS認定資格
次章からはそれぞれの資格について概要や種類、難易度、勉強法を解説します。
ネットワークスペシャリスト試験は、IPA(情報処理推進機構)が実施する情報処理技術者試験の一区分です。経済産業省が認定する国家試験であり、2019年の受験者数は18,345人と高い人気を誇ります。
ネットワークスペシャリスト試験では、クライアントの要望に合わせてネットワークシステムを構築し運用するスキルが問われます。ネットワークエンジニアやインフラエンジニアとして活躍する方に適した資格と言えるでしょう。
IPAが定める試験制度のスキルレベルは、試験で認定される最高レベルである4に設定されており、難易度は相当高めです。2019年度の合格率は14.4%で、ネットワークエンジニアの仕事をしている方でも簡単には合格できないでしょう。
受験資格は設けられていませんが、スキルレベル4であることから「ITパスポート試験」「基本情報技術者試験」「応用情報技術者試験」と順番に受験した後、「ネットワークスペシャリスト試験」の合格を目指すことをおすすめします。
ネットワークスペシャリスト試験の受験では、まず午前問題を攻略するために基礎的なネットワークの知識を身に付けましょう。ネットワークスペシャリスト試験は有名な資格であり、対応テキストが販売されているので、購入して読みこみます。
続いて、午後問題を攻略するために専門知識に重点対策した問題集を解いていきます。もしも分からない問題があれば、対応テキストに戻り該当分野を復習しましょう。
最後に過去問題を解き、試験対策に特化した学習を行います。過去問題はIPAのWebサイトに無料で公開されているので、参考にしてみましょう。ただし解答のみで解説はないので、分からない箇所があれば過去問解説の書籍購入をおすすめします。
シスコ技術者認定は、世界最大のネットワーク機器開発会社であるシスコシステムズが認定する資格です。認定資格の体系は2020年2月に大幅改定され、現在19種類のカテゴリーに分かれています。各カテゴリーには5種類のレベルが設けられており「エントリー」「アソシエイト」「プロフェッショナル」「エキスパート」「アーキテクト」の順番で難易度が上がります。
一番簡単な「エントリー」レベルは、インフラエンジニアの資格としては物足りません。初めてシスコ技術者認定を受験する場合であっても、ネットワークの基礎的スキルを問う「アソシエイト」レベルの資格から受験しましょう。
「アソシエイト」レベルには、3つの受験カテゴリーがありますが、インフラエンジニアの資格としては幅広い業務に対応している「CCNA」の受験がおすすめです。
CCNAの合格ラインや合格率は非公開ですが、受験者の体験談によると合格ラインは8~9割程度、合格率は60%程度と予想されているようです。CCNAはネットワークエンジニアの新人研修の最終テストに指定されることもあり、現役のITエンジニアにとって難易度は高くないと言えるでしょう。
CCNAには基礎的な知識を学ぶための専門テキストや認定教科書、問題集が販売されているため、独学で勉強していくことが可能です。ただし、ネットワーク設定のスキルを学ぶための環境作りは、個人では難しいでしょう。ITエンジニアの養成を専門とする学校の中には、ネットワークエンジニアに特化した講座を開設するスクールもあるため、より実践的な技能を身に付けられます。
情報処理安全確保支援士試験は、IPA(情報処理推進機構)が実施する情報処理技術者試験の一区分で、「登録セキスペ」とも呼ばれます。経済産業省が認定する国家試験であり、2019年の受験者数は43,412人です。
情報処理安全確保支援士試験では、クライアントのセキュリティリスクを分析し、システムの安全を確保するスキルが問われます。セキュリティエンジニアやインフラエンジニアとして活躍する方に適した資格と言えるでしょう。
IPAが定める試験制度のスキルレベルは試験で認定される最高レベルである4に設定されています。2019年度の合格率は19.1%で、例年と比較すると若干難易度が下がりました。しかし、他の情報処理技術者試験と比較すると難易度は高く、セキュリティエンジニアの仕事をしている方でも簡単には合格できないでしょう。
受験資格は設けられていませんが、スキルレベル4であることから「ITパスポート試験」「基本情報技術者試験」「応用情報技術者試験」と順番に受験した後、「情報処理安全確保支援士試験」の合格を目指すことをおすすめします。
まずは、午前問題対策として情報処理安全確保支援士試験専門の教科書を購入しましょう。試験に必要なセキュリティの知識を身に付けられます。
さらに、午後問題を攻略するために過去問の問題解説に特化したテキストを読みこみます。該当する書籍としては「情報処理安全確保支援士『専門知識+午後問題』の重点対策」がおすすめです。
Linux技術者認定試験は、多くの企業サーバーのOSとして使われるLinuxの技術力を証明する資格です。Linux技術者認定試験にはカナダの非営利組織「LPI」が認定する「LPIC」と、日本のNPO団体「LPI-Japan」が認定する「LinuC」の2種類がありますが、試験内容や難易度はほとんど変わりません。
転職先の企業から特に指定されることがなければ、国際標準の資格であり知名度が高い「LPIC」の受験をおすすめします。
LPIC、LinuC共にレベル1~3まで3段階のレベルが用意されています。レベル1はLinuxに関する基礎知識が問われる試験であり、インフラエンジニアへの転職を目指す方にとっては物足りない印象です。Linux実務経験者向けの試験であるレベル2以上の資格取得が望ましいでしょう。
ただし、受験条件として下位レベルの保有が指定されているため、まずはレベル1に合格する必要があります。
Linux技術者認定試験レベル2は、Linuxを使用したシステム設計やネットワーク構築の能力が問われる試験です。試験には201試験と202試験の2種類があり、5年以内に両方取得することで合格となります。Linux技術者認定試験レベル2の合格率は15~20%程度と言われており、ITエンジニアとして経験を積んでいる方であっても相当の勉強量が必要です。
Linux技術者認定試験レベル2では、試験に対応した教科書や問題集が販売されているため独学でも学習を進められます。ただし試験では専門的な知識が求められるため、実務経験がある方が内容を理解しやすくなります。
Linuxを対象とした講座は多くのパソコンスクールやオンラインスクールで開講されているため、より効率的に学習を進めたい方は講座の受講をおすすめします。
ORACLE MASTERは、日本オラクル社が認定する試験です。試験ではデータベースの構築・運用スキルや、SQLの知識が問われます。海外で実施されるOCP(Oracle Certification Program)とも連携しており、国際的に認められる資格でもあります。
ORACLE MASTERには2020年9月現在「Bronze DBA」「Silver DBA」「Gold DBA」「Silver SQL」と4つのカテゴリーが存在します。
このうち「Bronze DBA」は、データベースの基礎知識を問うITエンジニア全体を対象とした資格であるため、インフラエンジニアを目指す方には物足りません。
データベースエンジニアの実務経験を持つ方向けである「Silver」の資格取得を目指しましょう。「Silver」には2種類の資格がありますが、「Silver SQL」は試験範囲がSQLの知識に絞られているため、データベースとSQLの両方を試験範囲とした「Silver DBA」の受験がおすすめです。
2020年1月から導入された新資格体系により、「ORACLE MASTER Silver DBA」では前提条件となる資格が必要なくなりました。しかし実務でデータベースを扱う方向けの資格であるため、現職のITエンジニアの方でも試験対策に特化した勉強が必要でしょう。
ORACLE MASTERには試験対策を専門としたテキストや問題集が販売されており、独学でも合格は可能です。ただし、データベースのスキルを習得するためには実践的な勉強が必要です。データベースを構築する環境がない方は、プログラミングスクールで学習することをおすすめします。
クラウドのスキルを証明する資格としては、大きく分けて「AWS認定資格」「Google Cloud認定資格」「Microsoft Azure認定試験」の3種類が挙げられます。転職の際には、希望の企業が利用するクラウドコンピューティングサービスに対応した資格を取得すると良いでしょう。
もしも転職希望先が決まっておらず、一からクラウドの勉強を始める場合には、日本におけるクラウドコンピューティングサービスのシェア率が最も高い「AWS認定資格」を取得することをおすすめします。
AWS認定資格は2020年9月現在、全部で12種類のカテゴリーがあります。最も入門的なカテゴリーはベーシックレベルである「クラウドプラクティショナー」ですが、インフラエンジニアの資格としては物足りません。インフラエンジニアとして評価されるためには、まず「ソリューションアーキテクト(アソシエイト)」の合格を目指すと良いでしょう。
ソリューションアーキテクト(アソシエイト)は、クラウドエンジニアとして1年以上の実務経験がある方を対象としています。クラウド業務未経験で合格を目指す場合には、クラウドの設計や構築などのスキルを身に付ける必要があるでしょう。
独学で勉強する場合は、まず「AWS認定資格試験テキスト AWS認定ソリューションアーキテクト-アソシエイト」を読みこむことをおすすめします。認定試験に向けた学習の進め方が解説されているため、クラウド未経験の方でも合格を目指しやすいはずです。
さらにUdemy等の動画によるオンライン学習プラットフォームを利用することで、AWSを利用したことがない方でも実際の画面を見ながら理解を進められます。そうして資格受験へのモチベーションを高めてから書籍の勉強に進むことで、効率よく学習を進められるはずです。
インフラエンジニアへの転職に向けた資格について解説してきましたがいかがでしたでしょうか。各資格の取得すべきカテゴリーや勉強法についてご理解いただけたかと思います。
ただしインフラエンジニアの業務は幅広く、全ての資格を取得するのは時間的にも金銭的にも非現実的と言えるでしょう。そこでおすすめしたい資格が「ネットワークスペシャリスト」です。
「ネットワークスペシャリスト」は国家資格であり知名度も高く、インフラエンジニアに不可欠なネットワークのスキルを証明できます。転職活動においても、自身をアピールする大きな武器となるはずです。