“大卒(学部卒)”として就職するのか?大学院に進学して学び“院卒”として就職するのか?
どちらを選択するか悩む学生も多いのではないですか?
「院卒は大卒よりも就職活動で不利になる」と言われることがある一方で、「院卒の方が大卒よりも給料が高い」とも言われています。
院卒の就職事情はどのようになっているでしょうか?
ここでは、院卒の就職にスポットをあて初任給・手取り・平均年収をはじめ、院卒で就職することのメリット・デメリットなども詳しく解説していきたいと思います。
大卒か?院卒か?と考える前に、まずはどのくらいの割合の人が大学院に進学しているのかを見てみましょう。
※参照:文部科学省「大学院の現状を示す基本的なデータ」
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2017/07/24/1386653_05.pdf
このグラフは文部科学省の学校基本統計の大学院進学率(分野別)を元に作られたものです。
平成28年度では大学院への進学率は全体で11.0%と1割程度ですが、分野別で見てみるとこのようになっています。
この調査結果を見ると「理学」「工学」「農学」と理系学部の学生が大学院に進学する割合が多いことが分かります。
理工系学部では大学院進学を前提としたカリキュラムを組んでいるところが多いので、「大学院への進学が当たり前」と思っている学生が一定数いるためこのような割合になっていることにも頷けます。
そして、理系と文系とでは同じ院卒でも就職事情が異なるとも言われており、「院卒は大卒よりも就職活動で不利になる」と言われている理由も少し分かるかもしれません。
院卒は就活で不利になると言われる理由として考えられるのが、
この2点なのではないでしょうか?
理系院卒は特定の分野で研究職や技術職、開発職としてのニーズが高く院卒が優遇されるケースもあります。
一方で、文系院卒の場合は一般企業で活かせるような研究内容が少ないため、企業のニーズにマッチしづらく“就活に不利“と言われることがあります。
このような就職事情からも、大学院進学率(分野別)で理系が多く、文系が少ないことに繋がっているのでしょう。
院卒でも理系はニーズがあり、文系はやや厳しいと言われていますが院卒の就職率はどのくらいなのでしょうか?
文部科学省が発表しているデータを参考に見てみましょう。
※参照:文部科学省「学校基本調査-令和元年度結果の概要-」
https://www.mext.go.jp/content/20191220-mxt_chousa01-000003400_3.pdf
この円グラフは大学院修士課程を修了者の状況を表したものです。
就職者の割合は 78.6%(男子 82.7%、女子 69.3%)であり、そのうち正規の職員等は75.9%、正規の職員等でない者が2.7%となっています。
同じ文部科学省のデータで大学(学部)卒の就職者の割合が78.0%(男子 73.2%、女子 83.6%)であったため、院卒の方が若干就職者の割合が高いもののほぼ同じくらいであることが分かります。(※割合は同等であっても、人数は院卒が大卒の10分の1程度ほど)
母数が違うので人数の差は大きいですが、就職率として見てみると大卒(学部卒)と変わらないので、理系・文系の差があるとしても「院卒は就活が不利」とは一概に言えません。
では、院卒の具体的な就職先を理系・文系に分けて見ていきたいと思います。
就職先 理系
就職先 文系
先ほど紹介した文部科学省「学校基本調査-令和元年度結果の概要-」では、修士課程修了者の就職先として以下のように記載されています。
(うち技術者 58.8%、教員 5.2%等)
産業別では「製造業」、職業別では「専門的・技術的職業従事者」が最も高くなっていることから、院卒という専門的で高度な知識を活かせる業界・職種への就職を叶えるチャンスが広がっていることが分かります。
※()内は院卒比率
※参照:東洋経済オンライン「大学院卒の採用が多い会社」ランキングTOP200
https://toyokeizai.net/articles/-/271923
東洋経済新報社では『就職四季報2020年版』のデータから「大学院卒の採用が多い会社ランキング」を作成しています。
1位のホンダでは院卒採用数(人)が363人と断トツで多く、そのうち文系は7人。
2位のダイキン工業の院卒採用数(人)は239人、うち文系は4人。
トップ10にランクインした企業はそれぞれに130名以上の院卒を採用していますが、文系の採用者となるとトップ10全ての企業で一桁でした。
メーカーの院卒採用が多いこと、多くが理系であることが分かります。
はじめにお話しした「院卒は就活が不利になる」ともう一つの「院卒は大卒よりも給料が高い」と言うことについて見ていきたいと思います。
以下の厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況」をご覧ください。
※参照:厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/19/01.html
23万8,900円
21万200円
このように、初任給は大卒よりも院卒の方が高く約3万円の差があります。
高専・短大卒や高校卒と比較しても分かるように学歴によって初任給に差があり、大卒と院卒の約3万円であっても手取りや年収にも大きな違いが出てきます。
あくまでも平均的なデータであるため、入社した企業によってもちろん異なりますが「院卒は大卒よりも給料が高い」と言うことに関しては間違ってはいません。
大卒よりも初任給が高く設定されている理由は、院卒は大学院で専門的な知識を身につけているからこそ企業にとって即戦力となりやすいため、それに見合った対価であることが考えられます。
『院卒の手取り・平均年収』
では、院卒の初任給は23万8,900円であることが分かったところで、
・院卒の手取り
・院卒の平均年収
についても考えていきましょう。
例えとして、院卒の初任給の額面(23万8,900円)から「健康保険料」「厚生年金保険料」「雇用保険料」「所得税源泉徴収」「住民税(社会人2年目から課税)」を差し引いた金額が実際に支給される“手取り”となります。
手取りは額面の約80%と言われているので、19~20万円程でしょう。
※参照:内閣府経済社会総合研究所「大学院卒の賃金プレミアム―マイクロデータによる年齢-賃金プロファイルの分析―」
http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis310/e_dis310.pdf
この図表は入社後に転職をせず一つの企業に勤め続けた場合を表しています。
院卒が入社する24歳の時点では、学部卒の方が平均年収は高いことが分かります。
24歳の時点平均年収
しかし、25歳で院卒が逆転しその後も差が開き続けると説明されています。
ピーク時平均年収
また、生涯年収では院卒が大卒(学部卒)よりも5,000万円近く高いという結果も導かれています。
もちろん平均年収であって、勤めている企業や入社後の貢献度(仕事ができる・できない)などによって院卒・大卒関係なく年収に大きな差が出ることはあります。
学歴も大切ですが年収に見合った人材であるか否かも重要です。
それでは、最後に院卒で就職することのメリット・デメリットをそれぞれ挙げていきたいと思います。
院卒で就職することのメリット
院卒で就職することのデメリット
これから大学院に進学しようか迷っている人は、進学に対して「目的意識」をしっかりと持っているが大切です。
周りが大学院に進学するから、なんとなく進学するのが当たり前だから‥など曖昧な理由で進学しても結果がついてこない可能性もあります。
修士課程を修了する2年間でも150~300万円ほど学費が掛かるとも言われているので、中途半端な気持ちで進学するのなら大卒で就職活動をした方が良い場合もあります。
メリット・デメリットも理解した上でこれからのことをよく考えましょう。
自分がやりたいこと、目指していることはなんですか?
院卒として就職するのであれば、その肩書きに恥じないよう、期待に応えられるような活躍ができるように大学院での経験や得た知識を十二分に活かしましょう。
学歴や社会人としてスタートする年齢が違っていても、結局はその人の頑張りや仕事への向き合う姿勢次第です。
あらゆる可能性や方向性を模索し、より良い就職ができることを願っています。