最近、ビジネスや電化製品においてIoTという言葉を聞くことはないでしょうか。IoTとは「Internet of Things」の略でモノのインターネットを意味します。インターネットの普及と共に、IoTは現代社会にとって欠かせない技術となりつつあるでしょう。
そこで注目されている人材がIoTエンジニアです。IoTエンジニアとは、IoT製品の開発やIoTを利用したシステムのプログラミングなどを行う技術者で、企業からの需要が急速に高まりつつあります。
IoTエンジニアがIoT技術に関するスキルを証明する手段としては、資格の取得が挙げられます。そこで、今回の記事ではIoTという言葉の解説から、IoTに関する検定一覧、各IoT検定の概要について解説します。
IoTは近年になって急速に普及している技術であり、漠然としたイメージをお持ちの方もいるかもしれません。初心者の方はIoTの資格について学ぶ前に、まずIoTの理解を深める必要があるでしょう。そこで、本章ではIoTの概要や具体的な活用事例について解説します。
IoTとは、インターネットを利用してモノが相互通信する技術を指します。従来、インターネット通信を行う製品と言えばパソコンがその代表格でした。しかしIoT技術が発達するにつれ、テレビや掃除機、照明など様々な家電製品にIoTが搭載されています。
IoTを利用すると「モノの状態を知る」「離れた場所から操作する」「製品同士でデータを相互通信する」などの技術が可能となります。IoT搭載により今までにない新たな機能が生まれ、製品の利便性が大きく向上する可能性もあるでしょう。
では、家電製品にIoTを搭載すると、具体的にどのようなことができるようになるでしょうか。電化製品における機能例をいくつか紹介します。
・Blu-rayレコーダー:スマホアプリを使って外出先から録画予約
・エアコン:PM2.5や花粉飛散の気象データから空気清浄機能を自動起動
・スマートロック:外出先からスマホで施錠状態を確認
・スマートスピーカー:音声から家電を操作
・LED照明:決まった時間に照明をオンオフ
いずれの機能も有効利用することで、普段の生活がガラリと変わります。IoTの搭載により、今までにない新たなヒット商品が生まれる可能性があるでしょう。
IoT活躍の場は家電製品だけではありません。ビジネスにおいてもIoTを活用する事例が増えています。その具体例をいくつか紹介していきましょう。
・バス停で次のバスの到着時刻を知らせる
・倉庫内の在庫をIoTで管理し、物流の効率化を図る
・患者の状態をモニタリングし、医療に役立てる
・農場で日射量や土の状態を管理し、水や肥料の量を調節する
・店舗で顧客の行動データを蓄積し、マーケティングに利用する
さらに、自動車の自動運転システムや工事現場における建機の遠隔操作など、新たな活用事例を探る実証試験も既に開始されています。IoTはビジネスにおいても、大幅な利益向上を狙えるチャンスを生み出すでしょう。
ITエンジニアを細かく分類していくと、システムエンジニア、Webエンジニア、ネットワークエンジニアなど仕事内容によって様々な種類に分けられます。では、その中でIoTエンジニアはどのような業務を担当するのでしょうか。本章では、IoTエンジニアの仕事内容や、IoT技術に関する検定一覧を解説していきます。
IoTエンジニアの仕事内容としては、ソフトウェアの開発やIoTデバイスの操作、機械学習プログラムの作成などが挙げられます。IoTシステムをプログラミングする際には、モノの状態を知るためのセンサーを操作する組み込み系のスキルや、インターネットで情報を相互通信するネットワーク系のスキルを要求されるでしょう。
またプログラマの中には、ソフトウェアシステムの開発やIoTシステムの開発などプロジェクトによって業務内容を変える方も少なくありません。初めからIoTの専門エンジニアを目指すのではなく、ITエンジニアとして経験を積み、徐々にIoT技術のスキルを身に付けていくキャリアプランが一般的と言えるでしょう。
IoTが時代と共に普及していく中、IoTエンジニアのスキルを認定する資格が登場しています。代表的なIoT技術に関する検定一覧は以下の通りです。
・IoT検定
・IoTシステム技術検定試験
・エンベデッドシステムスペシャリスト試験
では、上記3つの検定にはどのような違いがあるのでしょうか。それぞれの概要や難易度、勉強法について解説します。
IoT検定は、IoT検定制度委員会が認定する資格です。IoTに関する知識やスキルを可視化し、IoTの普及が進むことを目的としています。さらに技術的な視点だけでなく、マーケティングやサービス提供などIoTを企画、開発、利用する知識も問われます。
IoT検定制度は難易度によって以下の種類に分かれています。
・IoT検定ユーザー試験(パワー・ユーザー)
・IoT検定レベル1試験(プロフェッショナル・コーディネータ)
・IoT検定レベル2試験(プロフェッショナル・エンジニア)
・IoT検定レベル3試験(プロフェッショナル・アーキテクト)
ただし、下2つの試験については2020年8月現在準備中であり、まだ開催されていません。
「IoT検定ユーザー試験(パワー・ユーザー)」は、IoTユーザー向けの試験であり、かなり難易度が低く設定されています。問題は三肢択一形式で出題されるため、初心者にとっても回答しやすいでしょう。評価方法はグレード制となっており、正答率が66~75%でグレードC、76~85%でグレードB、86%以上でグレードAが認定されます。
「IoT検定レベル1試験(プロフェッショナル・コーディネータ)」は、IoTエンジニア向けの試験です。問題は四肢択一形式で、60%以上の正解で合格となります。受験者数や合格率は公表されていませんが、合格ラインや模擬問題を見ると難易度はさほど高くないでしょう。ITエンジニアであれば、公式テキストを一通り学習することで合格できるはずです。
IoTシステム技術検定試験は、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)が実施する資格です。IoTに関する基本的知識の習得や、高付加価値化の創造を生み出す技術者の育成を目的としています。
IoTシステム技術検定試験は難易度によって以下の種類に分かれています。
・基礎検定(IoTアドバイザ)
・中級検定(IoTエキスパート)
・上級検定(IoTプロフェッショナル)
それぞれの検定に受験資格はないため、どのグレードからでも受験が可能です。
「基礎検定(IoTアドバイザ)」では、IoTに関する基礎知識を問われます。IoT構成要素の基本的な用語を問う問題が多く、対応テキスト「IoTシステム技術検定[基礎]」を一通り学習することで、初心者でも合格できるでしょう。
「中級検定(IoTエキスパート)」では、IoTシステム全体の基本技術を問われます。データ活用やセキュリティ対策など、幅広いスキルが求められるため、IoTエンジニアを目指す方に適した資格と言えるでしょう。
「上級検定(IoTプロフェッショナル)」では、IoTシステムに関する実践的な専門技術を問われます。顧客の要求を理解し、戦略的な提案を行うスキルが求められるため、既にIoTエンジニアとして活躍する方に適した資格と言えるでしょう。
エンベデッドシステムスペシャリスト試験は、IPA(情報処理推進機構)が実施する資格です。IoTを利用する組み込みシステム開発の知識や技能を問われます。経済産業省が認定する国家資格であり、IoTに関する資格の中では最も知名度が高い試験と言えるでしょう。
2019年の実績では、応募者数4,858人に対して合格率は16.0%です。試験制度のスキルレベルは最高のレベル4であり、難易度は相当高くなっています。IoTエンジニアとして経験を積んでいる方でも、しっかりと試験対策の学習を行わなければ合格は難しいでしょう。
もしも初心者が合格を目指す場合には、まず下位区分の「ITパスポート試験」「基本情報技術者試験」「応用情報技術者試験」を順番に受験していくことをおすすめします。ただし、一番簡単な「ITパスポート試験」でも初学者は100~200時間の勉強時間が必要と言われており、「エンベデッドシステムスペシャリスト試験」に合格するのは大変な道のりです。
エンベデッドシステムスペシャリスト試験の難易度が高い理由として、出題範囲の広さが挙げられます。出題内容は法務、経営戦略、プログラミング、ネットワーク、セキュリティなど多岐に渡るため、幅広い知識やスキルが要求されるでしょう。
独学で学習する場合は、試験対策に特化した参考書が少なく苦労するかもしれません。IPAの公式サイトに過去問や解答が公開されているので、問題を見ながら理解できなかった内容を勉強していくと良いでしょう。
資格取得の専門予備校の中には、エンベデッドシステムスペシャリスト試験の通信講座を開講するスクールもあります。試験対策に特化したテキストや問題集が用意されており、幅広い出題範囲の学習を効率良く進められるはずです。
未経験からIoTエンジニアを目指すために役立つ資格について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。IoT技術の将来性が高いことや、IoTエンジニアが取得すべき資格についてご理解いただけたかと思います。
IoTに関する資格の中でも、特に初心者におすすめしたい資格が「IoTシステム技術検定試験」です。基礎検定、中級検定、上級検定と難易度別に分かれているため、自分のスキルに合わせてステップアップしていけるでしょう。
また、最初からIoTエンジニアを目指すのではなく、ITエンジニアとして就職してからIoTの技術を身に付けていく方法もあります。その場合には、プログラミングやシステム設計に役立つ「基本情報技術者試験」「応用情報技術者試験」などの資格を取得すると良いでしょう。将来的にIoTエンジニアとしての経験を積めば、「エンベデッドシステムスペシャリスト試験」など難易度が高い資格の取得も視野に入るはずです。