経済産業省が公表している調査データによると、IT人材は2030年までに最高で約79万人不足*するといわれています。
*参照:経済産業省『IT人材育成の状況等について』
私が現役のITエンジニアとして転職活動をしたのは、2011年~2014年頃。当時は、そこまでITエンジニアは人手不足とされていませんでした。
どの会社も年収の割に求められるスキルが高かった記憶があります。そのため、ニュースで「ITエンジニアの人手不足」といわれても、「イマイチ実感がわかない」のが正直な感想です。
本当にITエンジニアが不足しているか、転職エージェントへの登録や大手Slerで働く現役ITエンジニアにインタビュー、公的資料から調べてみました。
私がITエンジニアの人手不足を実感したのは、転職エージェントに登録して「ブランクありの40代女性でも求人紹介できますよ。」と言われたときです。
この記事を書くにあたり、最新のITエンジニアの転職事情が知りたかったので、試しにIT業界に強い転職エージェントに登録してみました。その結果、登録から2週間足らずで20件ほど求人を紹介されました。
私は、現在フリーライターとして在宅で仕事をしていますが、2001/4~2006/1、2012/2~2017/3までは運用系ITエンジニアとしてSlerやベンダーで働いていました。
しかし、私は次の理由で、転職市場で価値のある人材とはいえません。
特に保守的な日系企業では、「大したスキルもないくせに転職を重ねるろくでなし」と嫌われる人材です。内定を獲れる見込みが低いので、不景気のときなら転職エージェントもあまり積極的に求人を紹介してくれないでしょう。
私は、2014年に同じ転職エージェントを利用しましたが、当時は今よりも5歳以上若いにもかかわらず、紹介される求人数はそこまで多くありませんでした。せいぜい10件程度です。しかも、「35歳以下の若年層で転職回数が3回以下」などの条件をつける企業が目立ちました。
2007年に雇用対策法が改正されて一部の例外をのぞき、求人の年齢制限は禁止されています。しかし、転職エージェントで紹介される求人はほとんど非公開求人です。そのせいか、当時は紹介された求人は、年齢と転職回数に制限があるものばかりでした。
しかし、2020年2月現在、「低スキル」「ブランクアリ」「40歳以上」「転職回数が多い」と不利な条件だらけの私でも、2014年の頃よりも求人を紹介してもらえます。以前と比べて、求人票に年齢や転職回数の制限も書かれていません。転職市場では不利な要素が満載の私にも、転職エージェントは求人を紹介してくれるため、「ITエンジニアの人材不足」は決して嘘ではないのでしょう。
そして転職エージェントのアドバイザーと電話で話した際に確認しましたが、コロナ禍が加速する中でも、ITエンジニアは益々需要が高まっているとのことでした。
転職エージェントが3年近くブランクのある40代女性に紹介してくれる求人の内容は、主にこんな感じです。
ヘルプデスク/テクニカルサポートは、あまり技術力を必要としないのでITエンジニアの中でも未経験者の募集が比較的多い求人です。そのため、300~450万円の年収は妥当な金額といえます。
一方、社内SEは会社で求めるスキルが異なるため、紹介される求人の年収の幅が広い傾向にありました。全体的に応募要件スキルが「年収の割に高いかも?」と思ったのが率直な感想です。
非公開求人なので詳細は紹介できませんが、年収300万~400万円でPM/SE/プログラマーのいずれかの経験を求める求人もありました。
業務内容は、アプリケーションの開発やインフラ構築と多岐に渡っています。おそらく、年収の幅から若手社員を希望する求人でしょう。しかし、「年収400万が上限でPM経験の人は応募しないだろう」と突っ込みを入れたくなりました。
私は在宅でのフリーライターとして働く生活が快適なので、今のところITエンジニアとして就職するつもりはありません。しかし、今回、転職エージェントに紹介してもらった求人を見て、「ITエンジニアの求人の数は増えても、企業が求めるスキルが高い」ことに変わりないと思いました。
求人の数は多くても、転職の難易度は不景気のときとほとんど変わらない可能性が高いでしょう。AWSやAzureなどの最新技術やセキュリティといった難易度の高い分野のスキルを求める求人が目立ちました。そのため、以前と比べて今のほうが転職の難易度は高いと思っています。
転職エージェントが求人をたくさん紹介してくれても、実際に内定が出るかはまた別の話。大手Slerでインフラエンジニアとして働く知人がいます。彼は中途採用の面接も行っているので、今どんな求人を必要としているのか話を聞いてみました。
今、ITエンジニアが人手不足でどの企業も採用に苦戦しているようだけど、実際どうなの?
40代後半のおじさんばかりくる。うちとしては28~35歳ぐらいまでの若手社員が欲しいんだけどね
なぜ40代後半の人がダメなの?スキルが高くてできる人なら大歓迎でしょ
古い技術に対するスキルは高いけど、新しい技術を積極的に覚えようとしない人が多いかな
新しい技術を積極的に取り入れる人もなかにはいるけど、前の現場のやり方にこだわる人が多いから若手と比べて扱いづらい
会社によって仕事の進め方は違うから、柔軟に対応してくれないと困るね
うん、技術力はあってもプライドは高いから、こっちの指示に従ってくれない。半年足らずでプロジェクトをクビになって別の現場に回される人も結構いる
若い人は全く応募しないの?
開発は若手の応募があるようだけど、インフラは本当にいないね。理由はよくわからないけど、たぶん、夜勤がイヤなんじゃないかな
これは日系の大手Slerのあるインフラチームの話。すべてのIT企業で当てはまるとは限りません。しかし、私が現役のITエンジニアとして働いていたときから、現場のプロジェクトマネージャーやリーダーは、自分より年齢の若い人を採用する傾向にありました。
日本の企業はいまだに年功序列の考えが根強く浸透しています。そのため、自分より年上の人は、いくら技術力があっても扱いづらいのでしょう。ベテランエンジニアも長年の経験とプライドがあります。自分より経験の浅い若手の指示に従うのは、彼らのプライドが許さないようです。
Point新しい技術の習得が欠かせないエンジニアは柔軟に対応できる人材が重宝される
実際に転職エージェントに登録してみて、「低スキル」「40代」「ブランクアリ」の私でも求人は紹介してくれるので、ITエンジニアは人手不足といえます。
しかし、紹介してくれた求人は全体的に高度なスキルを求めるものが目立ちました。大手Slerでも人手不足を補うため、新卒採用だけでなく中途採用の募集を行っています。
しかし、企業側が欲しいのはスキルの高い20代後半から35歳までの若手エンジニア。レガシーなスキルを持つ40代以上のベテランエンジニアではありません。
ITエンジニアの人材不足が叫ばれていますが、特に不足しているのはAIやビッグデータ、IoT、セキュリティ、パブリッククラウドなど最新技術に精通した先端人材です。現在、AIやIoT、ロボットの普及で産業構造が大きな変化を遂げています。
産業構造の変化に伴い、従来のSlerが得意とする課題解決型のIT人材の需要は今後減るか可能性が高いです。時代遅れのスキルを持つ人材にならないよう、今のうちから最新技術を身に着けて、どの企業でも必要とされるIT人材を目指しましょう。