病院で働く管理栄養士は何が大変?求められるスキルとは

病院や診療所で栄養面からチーム医療を支える「病院管理栄養士」。

病院管理栄養士として働きたいけれど、どんな仕事をするの?大変じゃないの?と気になっている人も多いのではないでしょうか。

今回は病院で活躍する管理栄養士の仕事内容ややりがいについて詳しく解説します。

病院で働きたい管理栄養士の方はぜひ参考にしてください。

食と栄養のエキスパート!病院管理栄養士の役割

病院で働く管理栄養士は病院内の「栄養科」や「栄養管理科」に所属します。

その役割は「食と栄養のエキスパートとして栄養面からチーム医療を支えること」です。

“食”は、患者さんにとっては病状や病態、命に直結するもの。

管理栄養士は、栄養学の専門的な知識やスキルを活用し、適切な食を提供することで患者さんの健康な生活を支える、縁の下の力持ち的な存在です。

また病気の治療や回復、予防に対して他職種で連携し、栄養管理・栄養指導などを行うチーム医療を担う職種として活躍しています。

管理栄養士の栄養指導は診療報酬の対象となるため、病院でのニーズが高い職種となります。

病院管理栄養士の仕事内容

管理栄養士の仕事内容は、勤務する職場によって異なります。

ここでは一般的な病院管理栄養士の仕事内容についてみていきましょう。

医療チームの一員として病気の治療や予防に貢献

病院で働く管理栄養士は、患者さん一人ひとりの病状や病態に合わせて治療や予防を目指し、食事の提供や栄養指導で栄養管理を行います。

医師や看護師、薬剤師、理学療法士など多職種と協働し、栄養のプロフェッショナルとして知識やスキル、栄養療法の提案から、医療チームの一員として活躍します。

管理栄養士が中心になり患者さんを支える栄養ケアマネジメント

NST(Nutrition Support Team)は管理栄養士が中心となり多職種で行う栄養サポートチームです。

栄養障害により口から十分な栄養摂取できない方やうまく嚥下ができない方など、食に関するリスクを抱えた患者さんの支援を行い、QOLの向上を目指します。

栄養状態のスクリーニングからリスクのあるアセスメントに対して、適切な栄養管理や栄養指導を行います。

例えば、褥瘡治療が必要な患者さんに対して、褥瘡部のみの治療を行うのではなく、褥瘡委員会などと協働し、食や栄養の観点から全身の栄養状態を評価し治療方針や検討を行うということです。

また短期入院の患者さんに対しても、必要な食事や栄養補給の提案を行うことで、退院後の生活や食生活の改善につながる役目を持っています。

適切な栄養管理によって早期回復や入院日数の短縮、医療費の削減につながるため、NSTを行う病院は増加傾向です。

患者さんの病状や病態に合った食の提供

病院で働く管理栄養士は、医師の指示のもと病状や病態に合った食事を提供します。

例えば減塩食や腎臓病食、糖尿病食、流動食などです。

肥満や高血圧、糖尿病などの治療のため外来通院されている方に対しては、改善を目指した食生活や栄養指導を行います。

患者さんの生活をサポート

いい食事をしたからといって薬のような即効性はありませんが、美味しい食事や楽しい食事をすることは生活の活性化につながります。

特に入院中の食事は毎日の楽しみの一つになっている方も多いでしょう。

とはいえ、万人に受け入れられる食事を提供するのは難しいことです。

これまでの食習慣と病院での食事の変化に順応できない方もいらっしゃいます。

それでも途中でやめることなく、「患者さんの人生を支える」といった思いで向き合い、個別的な栄養指導やケアを行います。

身体面だけじゃない!食を通じた心のケア

院外に出る機会がなく季節を感じることが少ない患者さんに対して、旬の食材を使ったり、クリスマスやひな祭りなどのイベントを通じて季節感のあるメニューを提供します。

こういったサポートは栄養面だけでなく心のケアとなります。

ストレスのない入院生活を送るため、楽しみのある食事を提供することも管理栄養士の仕事のひとつです。

退院後の食と栄養の個別ケア

管理栄養士の主な仕事は、栄養指導と栄養管理、適切な献立作成などです。

そして一人ひとりの入院患者さんの病状や栄養状態を把握し、栄養計画を立てることです。

患者さんから食事や栄養面で気になることや不安なことがあると訴えがあれば、直接栄養指導を受けることができます。

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父が最近胃がんにより胃を切除しました。

切除後は、体に合った食べ方に変える必要がありました。また一度に食べられる量が少なくなったため、少量でも効率的に栄養を摂らなければなりません。

退院前には食生活について栄養指導を受けましたが、それは父本人だけでなく、退院後に療養生活を支える家族に対しても行われました。

胃に負担のない食べ方や料理方法、積極的に摂取するべき栄養素、食べてはいけない食材など・・・気を付けるべきことはたくさんありました。

食事によって体調不良になる恐れもあったため、最初は「食事を作ることが怖い」「ちゃんと作れるか」と不安もありましたが、負担のない調理法や市販品の活用方法なども教えていただけたため、安心して退院することができました。

また退院後1週間後、1カ月後、3カ月後のメニュー例などもいただいたので、しばらくは管理栄養士さんのレシピを参考に調理していました。

このように管理栄養士は、患者さん個々によってライフスタイルや嗜好、仕事の有無など様々ですが、一人ひとりに合わせた食のアドバイスを行います。

やはり“食”は生活の中で大きなウエイトを占めるので、患者さんだけでなく療養生活を支える家族にとっても、心強い存在です。

給食管理を担う場合もある

管理栄養士の仕事は、職場によって栄養指導や栄養管理といった臨床部門のほかに給食管理を行う場合があります。

給食管理では、以下の業務を行います。

  • 献立作成
  • 発注・調理
  • 医師の食事箋から食札の作成・食数管理
  • 発注業者や加工食品などの選定
  • 帳票類作成・給食委員会の運営
  • 衛生管理

病院の方針や委託業者によって業務内容が異なるため、給食管理を全て委託するのか、あるいは一部のみ委託するのかは病院によって様々で、職場によって厨房業務を行うところもあります。

また、患者さんに安全で美味しい食事を提供するため、食中毒や異物混入などを防ぐため適切な衛生管理を行うのも管理栄養士の重要な仕事です。

病院管理栄養士に求められるスキル

病院管理栄養士になるには、どんなスキルが求められるのでしょうか。

ここでは管理栄養士が病院で働く際に役立つスキルについてみていきましょう。

コミュニケーションスキル

病院で働く管理栄養士は、幅広い年代や様々な疾患を抱えた方へのヒアリングから適切な栄養指導を行います。

また、NSTとして栄養ケアマネジメントをスムーズに進めるためには、多職種間のチームアプローチが重要です。

そのためお互いの専門性を理解し、広い視野をもち協働する姿勢が求められ、寄り添った対応ができることは日常の病棟ラウンドでも活かせるスキルです。

患者さんだけでなく円滑なチーム構築のためにコミュニケーションスキル、対話力がある方は病院で活躍できる管理栄養士になるでしょう。

臨床栄養学の知識

病院管理栄養士は、医師や看護師、薬剤師などとともに医療チームの一員として活躍しますので、患者さんの病態や栄養状態の適切なアセスメントを行い、栄養学の観点から治療や再発防止、予防につながる支援を行う臨床栄養学の知識は不可欠です。

また、NSTとして活躍する場合は医師や薬剤師と対話できるように、薬の知識も必要となるでしょう。

病院管理栄養士は、対象者が怪我や病気、高齢の方などケアが必要な方となるため、人体の構造や機能、病態生理学など幅広い知識が求められます。

+αのキャリアアップ資格

管理栄養士としての専門性を高めることも病院で働く管理栄養士にとって大切なことです。

例えば「糖尿病病態栄養専門管理栄養士」という資格があります。

一般社団法人日本病態栄養学会と公益社団法人日本栄養士会が共同認定する資格で、糖尿病に関連する病態と栄養の知識および専門的技術を習得し、臨床経験を積むことで取得できます。

この資格があると、院内の糖尿病チームでの活躍が期待できます。

糖尿病療養指導士は「糖尿病透析予防指導管理料」の加算につながる資格なので、診療報酬加算において病院への貢献度もアップします。

また、専門資格を取得することで自身の経歴に+αの価値をつけることができるので、自身のスキルアップやキャリアアップにつながりますね。

各専門チームへの選抜など活躍の場を広げるチャンスにもなるでしょう。

病院管理栄養士の大変さや悩み

病院で働く管理栄養士は“管理栄養士の花形”ともいわれる職場ですが、「仕事がきつい」とネガティブな感情や仕事に対する悩みもあります。

では、病院管理栄養士が抱える大変さや悩みを3つみていきましょう。

専門性が理解されにくい

生活に欠かせない“食”をサポートする仕事でありながら、医療チームの一員として栄養学からのアプローチを訴えても、なかなか受け入れられないことがあります。

管理栄養士として専門的な知識やスキルを活かしてアプローチできるNSTが稼働していない職場では、「自身の存在意義を感じられない」ということがストレスとなってしまうケースもあるようです。

ラウンドの時間がとれない

規模の大きい病院では患者数も多いため、全員と十分に関わる時間が取れないことが少なくありません。

そのため、食事摂取量が低下している方や、低栄養の患者さんを優先的にラウンドすることとなります。

より多くの患者さんのリアルな声を聴きたいと思っていても、栄養指導や給食管理などの業務に追われ、ラウンドする時間がとれないことが管理栄養士の悩みのひとつです。

病院管理栄養士のやりがいや魅力

では、病院管理栄養士のやりがいや魅力はどういうときに感じられるのでしょうか。

栄養指導が改善に結び付いたとき

栄養指導では、生活習慣や生活歴などをふまえ一人ひとりに合わせて指導を行います。

また低栄養や食事制限のある方など様々な疾患や病状の方に寄り添います。

このような食のサポートが必要な方に対して、適切な栄養指導を行い食生活や健康状態の改善がみられたとき、患者さんをサポートできた!という大きなやりがいを感じるでしょう。

患者さんからの「美味しい」の声

患者さんの中には、急な入院で不安いっぱいの人、長期入院で趣味の時間がとれない人などもたくさんいます。

そんな中、1日3食の食事は毎日の楽しみや生きがいにもつながります。

制限食であっても、美味しい味付けや食べやすい形状、彩りなど、一人ひとりに合わせて調整することが可能です。

病院管理栄養士としてのスキルを最大限に活かした食事に対して、患者さんから「美味しかった」という声をもらうことは大きなやりがいにつながるでしょう。

スキルアップできる

病院では勉強会やセミナーが積極的に行われています。

また急性期、慢性期、回復期など、色々な分野があるので、スキルアップのチャンスが充実しています。

他職種との関わりによってそれぞれの専門性を学ぶことができるほか、業務の幅が広いため管理栄養士として成長できる環境が整っています。

特に臨床栄養学を深めたい方にとっては、最適な職場といえるでしょう。

【まとめ】病院管理栄養士は食を通じて患者さんの人生をサポートする

病院で活躍する管理栄養士の仕事について説明しました。

医療法で管理栄養士の配置基準が定められたことや、健康意識の高まり、高齢化の進行により、管理栄養士のニーズは高まっています。

病院には、食事制限のある人や上手く食事を摂れない人など、食への悩みを抱えた方がたくさんいます。

そのような人たちに寄り添い、適切な栄養指導をすることで、病気の改善や予防に役立ち患者さんの人生を助けることにつながります。

大変なこともありますが、やりがいが多く自身のスキルアップにもつながる仕事です。

向上心のある方や栄養学を通じて人の役に立ちたいという方は、病院管理栄養士に向いているでしょう。

医療分野で活躍したいと思っている方は、知識とスキルを活かし病院管理栄養士にチャレンジしてみてくださいね。

参考サイト
厚生労働省
内閣府
ハローワーク
職業情報提供サイト
日本経済連合会
転職コンサルタント
中谷 充宏
梅田 幸子
伊藤 真哉
上田 晶美
ケニー・奥谷