簿記資格といえば経理。そんなイメージを持っている方は多いのではないでしょうか?実際、簿記資格試験を受験する方で、経理職を目指す方の割合は多いようです。しかし、簿記は経理職でしか活かせない?
世間の声を聞くと、「簿記なんて取るだけ無駄」なんて声も聞こえます。しかし同時に「簿記を持ってたら転職の役に立つ!」という声も…。一体、どっちが本当?
噂の簿記2級は、結局転職の役に立つのか、それとも取るだけ無駄なのか。経理職以外に活かせる仕事はあるのか、ないのか。本当のところを教えます!
簿記の資格といっても、いくつも資格の種類があります。特に簿記資格として名前が上げられるものが以下の3種類となります。
日本商工会議所が行う簿記資格試験
全国商業高等学校協会が行う簿記資格試験
全国経理教育協会が行う簿記資格試験
どの試験を受ければいいんだろう?と悩んだ方、転職に有利な資格が欲しいのであれば、日商簿記検定を受けるべきです。
企業が実務として評価する資格、また企業が中途採用時に簿記の資格として注目するのは日商簿記で間違いありません。他の資格は残念ながら、実務を想定した求人の場では、ほとんど評価されません。
日商簿記は上で書いた通り、『日本商工会議所』が行う簿記検定です。資格は1級・2級・3級・簿記初級・原価計算初級の5種となり、原価初級から1級の順番で検定試験の難易度が上がっていきます。
それぞれの級ごとで求められるレベルは、日商簿記HPに掲載されている以下の表の通りです。
日商簿記HP:https://www.kentei.ne.jp/bookkeeping
簿記初級と原価計算初級については、経理や会計といった専門的な業務に関わらず、ビジネスパーソンとして持っていて決して損はないレベルの簿記の基礎知識です。商業簿記や会計実務といった、経理業務レベルの知識は、3級から必要になります。2級、1級と級が進むごとに、更に専門的かつ高度なレベルになっていきます。
次に各級の過去の合格率推移について見てましょう。詳細は下記の表のようになっています。1〜3級、簿記初級・原価計算初級で受験日が異なっています。
1級 | 2級 | 3級 | 簿記初級 | 原価計算初級 | |
---|---|---|---|---|---|
2020.11.15 | 13.5% | 18.2% | 47.4% | ─ | ─ |
2019.11.17 | 9.8% | 27.1% | 43.1% | ─ | ─ |
2019.6.9 | 8.5% | 25.4% | 56.1% | ─ | ─ |
2019.4.1〜 | ─ | ─ | ─ | 59.4% | 92.3% |
2019.3.31 | ─ | ─ | ─ | 57.9% | 93.1% |
日本商工会議所HP:https://www.kentei.ne.jp/bookkeeping/candidate-data
1級で10%程度、2級で20%程度、3級で50%程度、簿記初級が60%で、原価計算初級だとほぼ受験すれば受かるくくらいの高い合格率となっています。
3級あたりなら新卒で学生のうちから取っておけば、就活に有利と言われています。
ということは、未経験からの試験勉強でも挑戦しやすいのが3級以下のレベルだとも言えるでしょう。
さて、この5種類ある級数のうち、転職のために役立てたいとしたら何級を取るべきでしょうか。
結論から言うと、日商簿記を転職に役立てるためという目的で取るのであれば、最低でも3級を取るべきです。それ以下の簿記初級・原価計算初級は取ったとしても転職活動には役立ちません。更に言えば、新卒の就活であれば3級でもアピールすることはできますが、転職活動となれば3級は職種によっては「持っていて当たり前」と相手にされない場合があります。
簿記資格といえば、やはり咄嗟に思い浮かぶのが経理職。経理職に転職したいから簿記資格を取る。取れたら採用!かといえば、残念ながらそんなに簡単な話ではありません。
経理職では簿記資格は持っていて当たり前。中途採用ともなれば求められるのは即戦力なので、資格よりも経験が求められます。
率直に言えば、例えば日商簿記2級を持っている未経験者よりも、日商簿記3級を持っている経験者のほうが、転職市場では価値があるとみなされるということです。
未経験者ばかりが揃った場でなら、3級でも日商簿記資格を持っている人がもちろん圧倒的に有利ではありますが、中途採用枠であればそんな場面はほとんどありません。というわけで、もしも経験がない、または経験が浅いから転職活動のために簿記資格を取得するのであれば、せめて2級は欲しいところです。
それじゃあ転職活動のために簿記資格を取る必要性やメリットはないということ?となれば、そう判断するには早計です。簿記資格がどれほど必要性を持つのか、また取得することでどれくらいのメリットがあるのかについては、転職を希望する職種によっても違ってきます。
例えば、『経理職』では、簿記資格は取得するメリットがどうとかと言うよりも、必要性について考えるべきです。経理職にとっては必須条件といって差し支えありません。日商簿記2級くらいの必要性はあるということです。
また会計業務に関わる職種についても、簿記資格は極めて必要性の高い資格です。経理・会計に関わる職種の転職活動では、同じく転職活動を行うライバルは日商簿記3級くらいはほとんどの人が取得していると思われます。なぜなら、簿記資格を持っていることが有利になるのではなく、持っていないことが不利になる業界だからです。
それくらい『日商簿記』は今や経理・会計といった職種にとって、「持っていて当たり前」となっているのです。
しかしながら、簿記資格は経理・会計関係職種のためだけの資格ではありません。商業簿記・工業簿記の知識などを学ぶことで、原価計算・経営などといった分野にも明るくなり、ビジネスにも大きく活かすことができます。あなたのビジネスパーソンとしての幅を広げられるというメリットもある資格なのです。
また、何度も言う通り、日商簿記3級までは多くの人が取得しています。合格率を見ても、3級は毎年10万人くらいの受験者が居る中で、50%という高い合格率です。対して日商簿記2級は毎年5〜6万人ほどの受験者数で、合格率は30%未満。年によっては20%を切ります。
それくらい日商簿記2級は、難易度が高い資格となっています。その分、資格取得者の希少価値は高いということですから、取得することで当然、あなたの市場価値を上げることができるというわけです。
しかし、資格はあくまで転職活動を有利にするための『ツール』である、ということを理解しておかなければなりません。ツールは使わなければただの飾りです。例えばあなたがハサミを持って歩いていたとして、目の前に道を塞ぐロープがあります。ハサミを使えば難なく先に進むことができますが、ハサミを使わなければ宝の持ち腐れです。
このように、資格は持っているだけでは効力を発揮しません。持っているものをいかに有効に使うか。自己アピールを抜きん出たものにするためにどのように工夫して利用するかが、あなたの市場価値に大きく作用することを認識してください。
簿記2級ともなれば、より専門性の高い知識を求められる資格です。商業簿記だけでなく、工業簿記の範囲にまで踏み込み、原価計算などの知識を習得し、また財務諸表の作成など経営分野にまで範囲が及ぶレベルです。
経理職はもちろんですが、会計事務所や税理士事務所、銀行員、財務や監査などといった幅広い分野で知識を活かすことができるようになります。
また、原価計算や経営などの知識は、法人営業などでも能力を発揮できるでしょうし、起業家としても活用できるはずです。工業簿記で得た知識は、メーカーの企画や営業で商品開発のコスト計算にも役立てられるでしょう。
簿記2級ともなれば、広い視野で見ると、このようにあらゆる分野で可能性を広げることができるのです。
簿記2級を取得した人の就職先といえば、やはり経理。その他では、財務や監査といった部門で働く方も。これらの職場で経験を積むことで、業務への理解は自然と深まっていきますし、その後簿記1級に挑むという方もいます。
実際のところ、経理職のまま、管理職まで行ければいい。経理の仕事が好きなので、このまま続けたい。という方には簿記1級まで取る必要性というのはあまりありません。自身で更に突き詰めたいというのであれば、もちろん不要ではないですし、持っていて損をすることはありません。ただし、経理で働く限りは簿記1級レベルの業務を行うことはほとんどありません。
しかし、キャリアアップを目指すのであれば、簿記1級を取って、会計コンサルタントといったコンサルティングファームへの転職。簿記一級のコストを考えるなら、むしろ税理士や公認会計士といった国家資格を取れば、独立も視野にいれることができます。
簿記2級を足がかりに、キャリアアップの奥行きも広がることでしょう。
日商簿記2級を取るには、まず該当地域の商工会議所を探してください。総括しているのは日本商工会議所になりますが、検定試験を実施しているのは各地域の商工会議所です。実施日は全国一律で年3回行っていますが、申込日や申込方法は各地域で異なる場合があるため、該当地区の商工会議所の概要に従ってください。
2級の受験料は4,720円(税込み)となります。試験科目は『商業簿記』『工業簿記』。試験時間は120分。合格基準は70%以上です。
2級までは独学でもできると言う声は多く聞かれます。ただし、人によって勉強法の合う、合わないはありますから、仕事をしながら勉強のポテンシャルを保つのは存外難しいことですし、無理をせずにスクールや通信教育に頼るのも手です。
また、独学で挑む場合には日商簿記のHPにサンプル問題や公式のテキストも紹介されているので、ぜひ利用してください。
経理・会計業界ではマスト資格である簿記資格。3級であれば目新しい資格としては弱いですが、2級であればアピールの幅も確実に広がります。また、財務・監査・営業・企画など、柔軟な発想で職種の幅も広げられるでしょう。
ネットでよく見かける「今更簿記は転職に役に立たない」という意見は、簿記2級を持っているからといって即採用されるほど甘くない。という意味だと思います。
それは実際にその通りで、人気資格であるだけに持っている人は決して少なくはありません。
しかし、日商簿記2級ともなれば、試験の難易度は20〜30%と高め。取得のために知識はしっかりと蓄えたわけですから、それを入社後にどのように活かすか、熱意を持ってアピールしましょう!