農学部は他の学部に比べて、就職先が限られているというイメージを持たれることが多いです。
「農学部=農業」という固定観念があることから、就職に不利とこれまでは考えられてきました。
しかし、近年は技術の進歩によって農業や食に関する技術も飛躍的に進歩し、農学部が活躍するフィールドは大きく広がりました。
今回は、農学部はどのような業界に就職できるのか、人気の高い就職先について詳しく解説します。
農学部出身でも、農業系以外の企業に就職するケースは多数あります。
農学部出身者は幅広い業界で必要とされており、自分のやりたいことを仕事にしやすい学部と言えるでしょう。
農業系だけに就職先が限られるなら、就職率も低くなってしまいます。
ですが、大学通信ONLINEの「2022年学部系統別実就職率ランキング(農学系)」を見ると、実就職率は平均90%を超えています。
一部は大学院に進学する人もいますが、多くの方が大学卒業と共に就職していることがわかる結果です。
また、近年は食の安全やSDGsが意識されるようになり、食品の製造・加工、農畜産物の生産にも注目が集まっています。
農学部では農業だけでなく、自然界のエコシステムやバイオテクノロジーを学んでおり、農業系以外にも就職先が増えていることが考えられます。
参考:大学通信ONLINE 「2022年学部系統別実就職率ランキング(農学系)」
近年は国内でも食品偽装の問題が発生し、食の安全に対する意識が高まっています。
また、環境に配慮したSDGsや、食料の大量廃棄によるフードロス問題、技術革新による新たな食の革命であるフードテック・アグリテックなど、環境・技術によって多くの人が食を意識するようになりました。
大企業・ベンチャー企業ともにフードテックに取り組んでおり、将来的に予想される食糧難に備えようと日々開発を行っています。
こうした技術革新を進めていくには、農学部の農業・工学の知識は欠かせません。
時代と共に技術が進歩し、今後も農学部の就職先が広がっていくと考えてよいでしょう。
先ほど説明したとおり、農学部だからと言って農業系だけが就職先とは限りません。
実際に、農学部出身者であっても、IT企業やインフラ系、金融業界に就職する人はいます。
人気が高いのは食品系や農業系ですが、農学部には色々な選択肢があることは間違いありません。
そのため、就職で「農学部出身だけど就職できるだろうか」、「就職先が見つかりにくいのでは」と不安になることはありません。
農学部で学んだ知識を活かせる企業は意外と多く、視野を広げていけば就職できる企業は見つかります。
農業は国内の企業だけでなく、海外で活躍するチャンスにも繋がります。
農学部の代表的な就職先の1つである農業協同組合(JA)では、海外勤務というキャリアもあります。
また、研究開発職として働くのであれば、海外の研究機関に就職することもできるでしょう。
日本に比べると、海外は食糧難や水不足に困っている国が多いため、食品や農業分野で先進技術を開発できる技術者を多く求めているからです。
国内だけでなく、海外で働くことまで選択肢に入るため、農学部出身者は多くの企業・組織で必要とされるでしょう。
農学部出身者に人気の就職先を紹介します。農学部の学生がどのような企業に就職しているかを知り、将来の就職先の参考にしてください。
参照:dodaキャンパス 農学部の人気の就職先とは?おすすめの資格や面接での回答例も紹介
参照:キャリアパーク!就職エージェント 農学部におすすめの就職先はここだ!就活を有利に進める資格も紹介
参照:就活の教科書 【就活悪い?】「農学部」就職先ランキング一覧|高収入、就職に強い資格も
参照:ハタラクティブ 農学部の経験が活かせる職業13選!海外進出も紹介
農学部に人気の就職先の1つが、食品メーカーです。
食品メーカーにも色々なところがあり、調味料や加工食品、生鮮食品、清涼飲料水など就職先は様々です。
食品メーカーは単に食品を加工・販売するだけでなく、新商品の開発、衛生面と安全性を意識した調理、新しい販路の構築など、働く部署によっても仕事内容は大きく変わります。
研究開発を行うなら新しいフレーバーの開発、営業職なら新規契約の獲得やマーケティング戦略の立案、品質管理ならHACCPに基づいた安全の確保など、農学部で学んだ知識を最大限活かせます。
農学部での経験を最大限に発揮できることから、食品メーカーは農学部出身者の主な就職先の1つです。
農業機器・用品メーカーは、農業に必要な農機具や資材、ビニールハウスの骨組み、梱包用の資材などを製造・販売するメーカーです。
基本的にはメーカーによって専門性がわかれており、コンバインや脱穀機はヤンマーやクボタ、ビニールハウスなら積水樹脂など、専門分野でわかれています。
農学部では工学や経済の学科もあり、就職先としては代表的です。直接農業に関わるわけではありませんが、農家として働く人を支える仕事として欠かせない存在です。
農学部で工学・化学・経済学などを学んだ人は、農業機器・用品メーカーを選択肢に入れてみましょう。
現代の農業において、農薬や肥料は質の良い野菜を栽培するために欠かせません。
農作物の質と量を高めるだけでなく、生物濃縮を起こさないか、農薬の残留によって生態系や次期の栽培に悪影響を及ぼさないかなども大事なことです。
農薬・肥料メーカーでも、人体に影響がなく安全・安心な農薬・肥料の開発に日夜取り組んでいます。
日本の農業を守るという観点でも必要な仕事であり、農学部で得た知識を活かせます。
食の安全、環境への配慮を通して、持続可能な社会に貢献するなら、農薬・肥料メーカーへの就職がおすすめです。
農学部と化粧品メーカーは、イメージとして結び付きにくいかと思います。
ですが、化粧品にはバイオサイエンスの知識が活用されており、農学部で応用生命科学を学んだ人におすすめの就職先です。
化粧品は人体に直接触れるものだからこそ、副作用を少なく、効果の持続と安全性が必要とされます。化粧品はいずれも大手企業が参入しているため、収入と安定した仕事という点でも魅力的です。
種苗メーカーは、ホームセンターや農業資材の専門店で売られている種や苗を生産・開発する企業です。
種苗メーカーにも色々な専門性があり、花や果物、野菜などメーカーによって強みが違います。
いずれのメーカーでも、新たな品種の開発を行う研究職は農学部出身者に人気の職種です。
冬でも枯れない花や病原菌や害虫に強い果物・野菜など、様々な品種を交配したり、遺伝子操作をしたりすることで開発しています。
日本の品種改良技術は世界でもトップレベルですから、農学部出身者が就職するなら、やりがいにも繋がるでしょう。
製薬会社は化粧品メーカーと同様、バイオサイエンスの知識を活用できる企業です。
研究開発は大学院まで進学することが条件になりますが、営業や品質管理、製造は大学卒業でも十分活躍できます。
また、病院で医薬品の効果・品質などのプレゼンテーションをするMRは、給与も非常に高いことから農学部の学生から人気の高い職種です。
生物機能科学や応用生命科学、生物資源科学などを専攻してきた人なら、製薬会社への就職もおすすめできます。
農学部と言えば農業が最もイメージしやすく、就職先も農家に選ぶ学生が多くいます。
例えば、大規模農家の従業員として働く道も、農学部では一般的です。
また、実家が何らかの農家をしている人なら、家業を引き継ぐこともあります。
近年はスマート農業が普及しており、少人数でも大量生産が実現可能になりました。
初期投資こそ必要ですが、天候の影響をあまり受けずに大量生産が可能になれば、安定した収益が見込めます。
AIを利用した農業は今後主流になっていくと予測できることから、農家に就職するのもおすすめの選択肢です。
獣医師は街にある動物病院で働き、ペットの病気や怪我を治療するイメージが強いかと思います。
しかし、獣医師は動物病院で働く人よりも、家畜の飼育・衛生管理、鳥インフルエンザなどの伝染病の予防、品種改良の分野で働く人の方が多いです。
また、動物園や水族館で働く獣医師もおり、獣医師は動物に関わるあらゆる場面で活躍する仕事です。
日本には獣医学部のある学校は限られていますが、農学部の1つとして獣医師を目指す若者は少なくありません。
農学部を卒業したら、農業協同組合(JA)で働くという道も代表的です。
JAは全国組織として34の都道府県にそれぞれ本部が置かれています。
他にも、農業の盛んな地域では地方のJAもあるため、非常に本部と支部が多い組織です。
JAは農畜産物の加工や販売、農家への種まき時期の指導とスキル指導、個人・大規模農家への経営サポートなどを行っています。
また、近年はドローンを利用した農薬散布の指導なども行っており、日本の農畜産物生産を支える大事な仕事です。
他にも金融部門や共済事業などもあるため、総合商社に近い役割があり、やりがいを求めるならおすすめの就職先です。
農学部から公務員の道を選ぶ人も少なくありません。国家公務員として農林水産省や国土交通省、環境庁、水産庁などに就職する方も多いです。
地方公務員として働く場合は、農産物を取り扱う部署に配属されることが多く、自治体の特産物のPRや品種改良、マーケティングなどを行っています。
農学部出身者は最新の知識を持つことから、自治体の農業政策においては必要な人材として高く評価されます。
自治体の農産物をアピールし、全国で有名にしていく仕事は、非常にやりがいのある仕事と言えるでしょう。
農学部出身者が知識を活かしつつ、就職で強み・有利になる資格を紹介します。
食の分野への就職で有利になる資格は次の通りです。
栄養士と管理栄養士は、飲食店や病院、学校の給食など栄養学の知識を活かしてメニューを考案する資格です。
管理栄養士は栄養士の上位資格で、医療機関や教育機関で働くなら取得するとアピールになります。
HACCP管理者は食品製造の工場などで衛生管理や品質の点検を行う資格です。
工場では必須の資格ですから、食品メーカーへの就職を希望するなら取得を目指しましょう。
食品衛生管理者・食品衛生監視員は国家資格です。
食品工場で働くなら食品衛生管理者、港や空港で公務員として輸入食品の安全をチェックするなら食品衛生監視者を取得してください。
家畜や自然再生分野で働く際に有利になる資格は次の通りです。
家畜人工授精師は名前の通り、家畜の人工授精、受精卵の移植、体外受精を行える農林水産省認定の国家資格です。
飼料製造管理者は、家畜用の飼料の製造に関する資格で、飼料向けの添加物製造や動物の栄養管理を酪・畜産農家に指導できる資格です。
樹木医補は、樹木の管理と治療を行う樹木医の前提資格と言える立ち位置で、基礎となる樹木学や病虫学を学んだことを証明してくれます。
自然再生士補も、自然再生事業を行う自然再生士の前提資格の立ち位置で、特定の内容を履修した人が取得できます。
医療分野への就職で有利になる資格は次の通りです。
医療施設や福祉施設において、植物セラピーでリラクゼーションや精神の安定を促すとともに、利用者の心を豊かにすることを目的とした資格です。
専門認定登録園芸療法士は上位資格で、植物セラピーだけでなく、研究や論文作成などを行う高度な専門資格です。
土木・造園分野で有利になる資格は次のものです。
オフィスビルの屋上の庭園や、大型施設の造園作成の計画・作業管理・安全管理を行う資格です。
専門性が高いことから、造園業に就職する際に取得していると非常に有利になります。
土木施工管理技士は、道路や河川工事を行う際に責任者の立場になることができる資格です。土木業界でキャリアアップを目指すなら、取得しておきたい資格です。
測量士補を取得すると、工事現場で活躍する測量士の助手として働けます。将来的に測量士になるなら、まずは測量士補を取得しましょう。
農学部学生が就職で面接を受ける際、よくある質問の例を紹介します。
よくある質問の1つ目が、「なぜ農学部を選んだのですか」というものです。
農学部を選ぶ人のほとんどは、農業への関心の高さや実家が農業を営んでいるなど、それまでの人生に農業が身近にあったはずです。
その点を素直に答えれば問題ありません。その他に理由をつけるなら、次のような答えもよいでしょう。
上記のように答えれば、そこから自分自身のエピソードにも繋げていけます。
次によくある質問が、「農学部で何を学んだのか、研究してきたのか」というものです。
ここも大学でどんな分野を専攻してきたのか、何を専門にしてきたのかをアピールしましょう。
また、ここで伝える際に注意したいのは、学んできたことから、なぜその企業を志望しているのかという点に繋げていくことです。
例えば、大学で畜産業の研究をしていたにもかかわらず、金融業界を志望するのでは関連性が薄くなってしまいます。
そして、学びを通してどんな苦労があったのか、どう工夫して乗り越えたのかを伝え、成長に繋がったことをアピールしてください。
3つ目が、「なぜ弊社を志望したのか」という質問です。
これはまず間違いなく尋ねられますから、しっかりと言語化して伝える練習をしておきましょう。
就職して自分が何をしたいのか、農学部での学びをどう活かし、企業に貢献してくれるのかを語れれば高い評価を得られます。
1つ目・2つ目の質問とも関連付けて、1つのエピソードで伝えられれば効果的です。
日本では古くは縄文時代から稲作が始まっており、現代まで続いています。
どれだけ時代が過ぎても人間の身体は食物からできており、農業は人が生きていくうえで欠かせません。
農学部で学んだからと言って農業だけが将来の道ではなく、今や様々な分野で知識を活かせます。
一昔前までは就職で不利とも言われていましたが、むしろ今は農学部こそ就職で有利になっています。
専攻分野によってどんな業界・職種で活躍できるか考え、有利になる資格取得も目指しましょう。