世の中には色々なハラスメントがあります。元々はパワハラやセクハラ程度しかありませんでしたが、近年ではモラハラ、アルハラ、マタハラなどあらゆるハラスメントがフォーカスされ、都度問題視されています。
そのなかで、本編では最近問題視されてきたパタニティハラスメント、通称パタハラについて、その実態と対策についてお話をいたします。
まずは、日本人男性の育児休暇取得率についてご覧いただきたいとおもいます。
今、日本では日本人男性の育児休暇取得率は増加傾向になっています。では、どれくらいの日本人男性が育児休暇を取得しているのかというと、2018年の厚生労働相の調査結果を見るとわずか5%程度です。
それでも10年前は1%程度しか育児休暇を取得する方がいなかったので、その時代から考えたらかなりの変化だと言えます。
しかし、裏を返せば、10年という期間を要してもこの程度の変化しか産み出さないということも言えます。
次に、パタニティハラスメントの定義についてお話をいたします。
パタニティとは日本語訳をすると「父性」と訳され、転じて育児休暇を取得する男性に対する嫌がらせやいじめのことを指します。
マタニティハラスメント、通称マタハラは就業中の女性が妊娠・出産・子育て等をきっかけにしたいじめやいやがらせとなることは、ご認識されていることと思いますが、まさに男性版マタハラがこのパタハラに該当するとお考えください。
では、なぜパタハラが発生するのかという点について説明したいと思います。
パタハラが発生する背景は一言で言えば時代の変化とこれまでの価値観がぶつかり合った結果であると言えます。
元々日本にあった労働観として、男性が働き、女性は結婚したら家庭に入るものだという価値観が日本にはありました。
近年になって、共働きの家庭が増え、女性が結婚後にも働くことは当たり前になってきました。
さらに政府は男性の育児休暇を取得を奨励するようになり、さらに世の中は変わろうとしています。
しかし、これまで積み重ねた常識が簡単には変えるのは難しいことです。
政府が推進している、育児休暇を男性に取得させようという風な世論だったとしても、今官僚クラスの世代の方は、男性が育児休暇を取得するなんてあり得ないという固定観念があるため、育児休暇を取得する男性はけしからんという発想になります。
加えて、これはマタハラにも同じことが言えますが、育児休暇を取得するということは社内における業務の穴を産み出すこととなり、またその穴をカバーした人材がいたとなれば、育児休暇から復帰したところに配置することが難しくなります。
結果、会社側はやむを得ない措置と考えていたとしても、育児休暇取得した方にとっては不利な配置転換だ、パタハラ、マタハラだとと認識することもあります。
つまり、パタハラは社会的背景、また社内の人々が持っている感情が産み出しているものだと言えます。
そして、上述で男性の育児休暇の取得率の変化をお伝えしましたが、この結果からも人の意識は劇的には変わらないということも同時に分かります。
パタハラの問題でよく発生する問題は、人事配置の問題です。
育児休暇を会社のルールに基づき、育児休暇を取得したは良いのですが、育児休暇から復帰したら、労働者に対する著しく不利な人事配置を受けたという事例をご紹介します。
カネカは日本有数の化学メーカーで「カガクでネガイをかなえる会社」というキャッチコピーを耳にした方も多いでしょう。
このカネカにおいて2019年、育児休暇を取得した男性が復帰にあたって、関東から関西への転勤を命じられたという事実があることをSNSから発覚しました。
この男性社員は家族と共に転居し、新居を構えたばかりであること、またお子さんの保育園入園が決定していたことを会社側で把握されていたにもにもかかわらず、このような人事を行ったカネカに対して裁判にはならなかったものの、ネット上で「炎上」したということがありました。
一方で、この男性社員は独立準備のために育児休暇を取得したのではないかという疑惑も、カネカ側はそれを察知したため、意趣返しとしてこのような措置を取ったのではないかとも見られています。
いずれにしろ、育児休暇取得明けの配置転換はパタハラとは必ずしも認定しがたいということもありますが、カネカは男性の育休取得に対して積極的な会社であることからもインパクトの強い事件であると言えます。
カネカで発生した男性の育児休暇取得に伴う配置転換のトラブルはアシックスでも発生しています。
当事者である男性社員、スポーツプロモーションや人材開発といった業務を担当してきた方で、2015年に1ヶ月半、また同年から翌年に1年間の育児休暇を取得しました。
そして、復職すると子会社への出向を命じられ、倉庫勤務に従事させられ、力仕事がメインになりました。
これに対し、弁護士を介して会社と交渉したところ、人事に戻ることができましたが、雑務がメインとなり、当事者の社員は「干された」と事実上の左遷であると感じました。
また、同社員は2018年にも育児休暇を取得し、復帰後にも雑務ばかりをやらされるようになり、現在当社員は提訴をし、賠償金と地位確認を訴えています。
三菱東京UFJモルガン・スタンレー証券の特命部長である外国人男性は会社に男性の育児休暇制度の取得を巡って対立しました。
この男性はパートナーの女性との婚姻関係がなく、同社は、母子手帳を所持していないことなどを理由に当初は育児休暇の申請を却下しました。
しかし、父子関係の証明のためのDNA鑑定書の提出を経て、育児休暇を取得することができました。
その後復職をするも、仕事を経営から回されないよう社内に圧力をかけられ、かつパワハラで精神的な苦痛を与えられた結果、うつ病を発症してしまい、休職することになりました。
医師からは回復し、復帰許可がでているものの、現在も復帰できていない状況です。
それに対して、地位確認、賃金支払いと損害賠償を求めて東京地裁に提訴し、現在も係争中となっています。
では、パタハラ被害に遭わないようにどうすれば良いのかですが、残念ながらパタハラ被害に遭わないための決定的な方法というものはありません。
敢えていうなら、男性が育児休暇を取得しないという本末転倒なことしか考えられません。
しかし、いくつかパタハラ被害に遭わない可能性を上げる方法はあります。
ではどんな方法かというと以下の通りです。
結局、パタハラに遭う方は全員とは言わないまでも就業中に業務のパフォーマンスが高くなかったため、上司や同僚から戻って来なくてもいいと判断されたことは想定されます。
少なくとも復職してもウェルカムなくらいのパフォーマンスを上げておくというのは重要だとお考えください。
パフォーマンスも大事ですが、人間的に一緒に働きたくないと判断された場合、育児休暇を皮切りに追い出されるような形にもなります。
そうならないためにも部署内、また関係部署とも良好な人間関係を構築しておくことで、パタハラを受けにくくなると言えます。
会社人事が男性の育児休暇を取得してどのような采配をするのかというのは知っておく必要があります。
人事権のある人の采配傾向を掴むために、人事と良い関係を構築し、情報収集をすることをお勧めいたします。
一度決定した人事を覆すことは簡単ではありませんし、人の気持ちを変えることもまた難度の高いことです。
大事なのはいざ育児休暇を取得した際にパタハラを受けないようなパフォーマンスと人間関係、また情報収集というのかパタハラを未然に防ぐ方法だと言えます。
いろんな事前準備を行ってもパタハラに遭ってしまったら、結局人事や労働基準監督署などの当局に駆け込む、交渉して少しでも良い状況を作り出す他ありません。
ただし、上記の事例のように、人事や当局に依頼しても何も変わらない、改善されても微修正程度ということも充分にあり得ます。
もし、会社の雰囲気がパタハラを受けそうだと感じるなら早めの転職をするというのも一つの手段とはいえますが、転職してすぐ男性が育児休暇を取得するというのめまたハードルが高い行為と言えます。
上述の通り、パタハラが発生する社会背景は根が深いものです。
できることであれば、可能な限り未然に手を打っておきたいものです。
今は政府を中心に働き方改革が打ち出され、その流れで男性の育児休暇取得も推進されています。
しかし、だからといってそう簡単に男性が育児休暇を取得することが定着するかといえば別の問題で、その定着を阻害するのはこれまでそれぞれの関係者が積み上げてきた常識や固定観念です。
そして、その固定観念を打ち破るには長期的な取り組みと時間そのものです。
もし、今、または近い将来に男性労働者で育児休暇を取得したいて考えるのならば、自らが変わり、工夫しながらパタハラを受けずに育児休暇を取得するための行動を取れるかにかかってきます。
もし、今パタハラを受けずに安心して育児休暇を取得できないかもしれないと考えているのなら、その課題は何なのかを明確にしましょう。
また、何も考えていなくて育児休暇を取得しようと考えているのならパタハラを受けることを想定し、どうすれば可能性がなくなるのかを考えて行動をしていきましょう。