リモートワークが普及した現在でも、リモートワークを継続して実施している企業は、大きく増えていません。
その理由には、リモートワーク特有のデメリットや課題があり、企業の対策が十分に行えていないことが関係しています。
リモートワークでも企業の生産性を低下させることなく、チーム内のコミュニケーション不足を解消するには、企業側からのアプローチが非常に重要です。
本記事ではリモートワークが抱えるデメリットと課題、その解決方法や失敗事例などを詳しく解説していきます。
まず、リモートワークを導入することによるデメリットをご紹介します。
リモートワーク中は上司から部下の監視がしにくく、勤怠管理が難しいというデメリットがあります。
オフィス勤務なら目の前で業務に取り組んでいるため、業務中に意識せずとも勤務状況が把握できます。
一方、リモートワーク中は勤務状況の確認方法がチャットやメール、ケースによってはオンライン通話しかありません。勤怠管理システムを導入していれば、ある程度の状況も把握できますが、導入していなければ勤怠管理が難しいです。
また、タイムカードの打刻漏れや業務時間外の労働も増えやすく、リモートワーク中の勤怠管理には注意を払う必要があります。
オフィス勤務とは違い、リモートワーク中は従業員が1人で働く状況になるため、上司と部下、同僚同士の連携が難しくなります。チャットツールを利用すれば、ある程度の改善は見込めますが、対面でのコミュニケーションには劣りやすい点がデメリットです。
小規模な企業や個人の仕事なら問題はありませんが、チームで動く仕事ならコミュニケーション不足は重大な課題です。実際に、リモート環境でのコミュニケーション不足によって、リモートワークが失敗した企業もあります。
また、コミュニケーション不足は情報共有だけでなく、課題や目標の共有にも支障を生じやすく、企業として課題解決に取り組むことが求められます。
企業にとって信頼はブランディングにも重要であり、情報漏洩が発生することは企業の価値を下げる課題です。
リモートワークを実施している企業にとって、自宅や外出先での作業はセキュリティリスクが高く、情報漏洩の可能性があります。
自宅のネットワーク環境では、パスワードや暗号化キーを知られれば情報漏洩のリスクがあり、適切な対策を施さなければなりません。
また、カフェや飲食店、街中のフリーWi-Fiは誰でも接続できるようになっており、通信の暗号化がされていないことが多いです。
つまり、誰でもネットワークにアクセスできる状態にあり、知識のある人間ならインターネット経由で社内の機密情報を抜き取ることもできます。
企業情報を保護する観点でも、リモートワークのセキュリティリスクは理解しておくべきです。
リモートワーク中は、上司が部下の働きを目視できないため、従業員がそれぞれの業務量や進捗状況を管理しなければなりません。
従業員全員が積極的に動けるわけではないため、リモートワーク中に監視の目がないと、モチベーション低下を招き、生産性も低下しやすいというデメリットがあります。
また、オフィスのようにOA機器を自由に使えないため、その点も業務効率を低下させる要因です。
実際に、リモートワーク中のさぼり問題は多くの企業で見られており、生産性をどう維持していくのかという点は重要な課題です。
生産性を高めるためには、単にリモートワークを導入するだけでなく、従業員自身が能動的に仕事へと取り組める企業環境を整備することが必要になるでしょう。
リモートワークでの働き方は、接客業や医療・介護・保育、製造業などの現場での人手が必要な仕事に向いていません。そのため、必然的にリモートワークを実施できる職種は限られてしまい、企業によっては導入しても利用する機会がないでしょう。
一方で、どのような企業でも経理や人事、事務作業はあるため、バックオフィスなら限定的にリモートワークを導入することができます。
導入するにあたっては自社の業務内容と適合するか、どの部分をリモートワークにするかを検討しましょう。
リモートワークのデメリット・問題点がわかったところで、解決方法についても解説していきます。
リモートワークの問題点を解決するには、社内でルールを決めることが最も重要です。例えば、次のようなルールを決めましょう。
こうしたルールを設定することで、生産性の低下を防ぐとともに、リモートワーク中の従業員のモチベーション低下を防げます。
リモートワークによって一部の従業員が不公平感を抱かないように、しっかりとしたルールを作ることが大事です。
リモートワークで失敗した企業は、部署内でのコミュニケーション不足で生産性が低下し、従業員のモチベーション低下を招いたケースが多いです。
リモートワークの特性上、通常のオフィス勤務のようなコミュニケーションは難しいですが、社員同士がスピーディな交流を行う方法はあります。
その代表例がビジネスチャットツールの存在です。ビジネスチャットツールはリアルタイムでのやりとりが可能で、文書・動画・画像ファイル共有、ToDoリストの設定、複数人でのグループチャットもできます。
また、オンライン会議ができるビジネスチャットツールもあり、リモートワーク中のコミュニケーション促進に効果的です。
リモートワーク中は従業員が自宅、またはオフィス外で仕事をすることになります。
しかし、社外での仕事はネットワークが不安定だったり、セキュリティリスクが高かったりするため、作業環境の整備が必須です。
リモートワークを導入するのであれば、企業としてPC・スマホ・タブレットの支給、デスクや椅子の準備、ネットワーク環境の整備などを積極的に支援しましょう。
また、リモートワークに掛かる光熱費や通信費、消耗品の費用なども支援すべきです。
細かい内容については、厚生労働省でもリモートワーク導入・実施のためのガイドラインを公開しています。
*参照:厚生労働省『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』
一般的にオフィス勤務なら午前9時頃から夕方5時30分頃まで、休憩を含めて8時間30分の労働です。
しかし、リモートワークは自宅で開始できるため、勤務時間が曖昧になりやすく、その点も仕事へのモチベーション低下の原因になっています。
加えて、人によっては業務時間外にも仕事を進めてしまい、過重労働になっていることもあります。時間外労働まで正しく申告してもらうには、勤怠管理システムと在籍管理システムの導入が必要です。
勤怠管理・在籍管理システムは従業員の業務従事時間を明確化し、従業員が今どんなことをしているかが可視化できるツールです。
例えば、業務中・離席中・会議中・休憩中など、現在従業員が何をしているか一目で把握できます。
従業員としても、「上司からちゃんと見てもらっている」という安心感に繋がり、孤独感を抱きにくくなる効果があります。
リモートワークで従業員の生産性とモチベーションが低下する要因には、作業環境やチームワークだけでなく、仕事における評価基準も影響しています。
この問題を解決するには、人事評価制度で成果主義の比重を高め、プロセス評価の比重を少なくすることが対策となるでしょう。
リモートワーク中は上司からの直接的な監視が難しく、上司によって部下の評価が変わってしまう問題がしばしば起こります。加えて、リモートワークでは目が行き届かないことで、人事評価に不公平感が生まれやすいです。
そのため、企業の人事評価基準を成果主義に見直すことで、従業員の不公平感を解消し、生産性向上も期待できます。
リモートワーク中は、チーム内の物理的・心理的な距離が開くため、同じチームでも目標を共有しにくいという問題があります。
また、重要な書類や稟議書などの承認と共有もしにくく、リモートワークの作業効率を落とす原因です。
この問題を解決するには、自社に合ったクラウドサービスを選択し、従業員同士の距離感を近づけるのが効果的です。クラウドサービスならネットワークを介することで、承認も素早くなり、資料や目標の共有もスムーズに進みます。
カンバン方式のサービスなら、チーム内の情報を一覧表示できるため、仕事中の一体感や連携も促進できます。また、クラウドサービスなら紙で出力する必要もないため、コスト削減にも効果的な対策です。
過去にテレワークを導入した結果、失敗した企業をご紹介します。
アメリカの大手企業IBMは、1990年代からテレワーク制度を導入していましたが、2017年に従業員に対してオフィス勤務するか、退職を選ぶかという選択を迫りました。
IBMは38万6,000人の従業員を抱え、その40%ほどがリモートワークを利用していました。
オフィス勤務と退職を迫るに至った背景には、テレワーク・リモートワークによって、コミュニケーション不足が発生し、生産性の低下をきたしたことがあります。
IBMは現在でもテレワークを禁止しています。
同じくアメリカの大手IT企業Yahoo!では、従業員の25%がテレワークを行っていました。しかし、在宅勤務の社員は上司からの監視がないため、ルールを無視した働き方をしていました。
一例として、居眠り、無断外出、副業などです。その他にも様々な問題が発生した結果、生産性は大きく低下し、2013年にテレワーク禁止という決断に至りました。
また、Yahoo!もIBMと同様、テレワーク・リモートワークによるコミュニケーション不足という課題を抱えていたと言われています。
リモートワークでは従業員の生産性やモチベーションの維持、コミュニケーション不足など色々な課題があります。
こうした問題を解決するため、ビジネス向けに利用されているITツールをご紹介します。
リモートワークはオフィスまで来る必要がないため、勤務時間とプライベートの時間が曖昧になりがちです。そもそも、実際に従業員が業務に従事しているのか把握しにくく、企業としてもどこで仕事をしているのかわかりにくいという問題がありました。
この問題を解決できるのが、勤怠管理・在籍管理システムです。勤怠管理システムでは、仕事開始時に「出勤」、仕事終了時に「退勤」を選ぶだけで、労働時間がデータとして残って明確になります。
また、在籍管理システムも組み合わせれば、仕事開始後に従業員がどこにいて、何をしているのかまで細かく把握できます。監視が行き届きにくいリモートワークだからこそ、勤怠管理・在籍管理システムは必須ツールです。
ビジネスチャットツールとは、LINEのようなチャットツールをビジネス向けにしたものです。リアルタイムで個人間やグループ内でのやりとりが可能で、各種ファイルの共有、オンライン会議機能、在籍状況なども表示され、オフィス勤務と近いやりとりができます。
グループウェアのようにスケジュール管理機能やタスク管理機能はついたものも多く、チャットツール以外の機能を備えたものもあります。
クラウドサービスは大きな枠組みですが、PC・スマホ・タブレットなどのインターネットに接続できるデバイスを利用して、請求書や納品書、稟議書などを送信、保存できるサービスを言います。
電子契約書サービスの中にも、クラウドサービスのものがあり、リモートワーク環境下での情報共有で非常に便利です。どこからでも社内ネットワークに接続できるため、リモートワークに最適なツールです。
会議室でしか会議ができないと、リモートワーク環境下では不便なことが多いです。
リモートワークを採用するのであれば、会議もオンライン会議にすれば、複数人で同時に情報共有できます。
また、Web会議システムを利用すれば、ファイルの送受信だけでなく、画面を共有して相互の進捗状況を目視で確認できます。
共有できるファイルにも制限がほとんどないため、大容量のデータでも簡単にリアルタイム共有可能です。
企業情報や個人情報の漏洩を防ぐという観点では、リモートワークにおいてセキュリティソフトの導入は必須です。まず、ウイルスの検出率が高く、未知のウイルスに対しても異常を検知できる高性能なセキュリティソフトを導入しましょう。
また、ハッキングやマルウェア対策のほか、マルチデバイスに利用可能なセキュリティソフトもおすすめです。
ただし、企業の規模によってコストが大幅に増加するため、コストパフォーマンスまで考慮したセキュリティソフトを選んでください。
リモートワークには様々なデメリットもありますが、導入前に明確なルールを作れば効率的に運用できます。逆に、運用ルールが不明確では従業員のモチベーションが低下し、通常のオフィス勤務よりも生産性が低下してしまうでしょう。
従業員がリモートワークでの働き方を理解するためにも、企業側がルールを作り、リモートワークに取り組みやすい環境を整えてあげることが重要です。
リモートワークが社会的に認知されたことで、今や有用なツールは豊富にあります。それぞれの企業の課題を明確化し、自社に最適なツールを採用してください。