土地家屋調査士は、例年の合格率が10%前後の難関資格です。
難易度の高さから元々実務経験のある人以外では、独学での合格は難しいとされています。
それでも、多くの方が土地家屋調査士の独学合格を目指すのには、コストが安く、学習スケジュールも自由に組めるという点が理由です。
本記事では、土地家屋調査士の試験概要や合格が難しい理由、学習スケジュールとおすすめ教材なども徹底解説していきます。
そもそも、土地家屋調査士とはどのような仕事で、どんな役割があるのかをご紹介します。
日本土地家屋調査士会連合会は土地家屋調査士の役割について、以下のように説明しています。
土地家屋調査士の仕事は不動産に関する調査と登記、土地の境界を明確にするための筆界特定手続きなどを行うことです。
不動産登記は義務化されているため、土地家屋調査士も日頃の生活に欠かせない存在と言えます。
土地家屋調査士試験について、詳しい概要についてご紹介します。
土地家屋調査士は筆記試験が毎年10月の第3日曜日、口述試験が1月中旬に開催されます。詳しい試験科目と範囲、受験地は次の通りです。
受験科目 | ・筆記 午前の部:平面測量10問/作図1問 午後の部:①択一式 不動産登記法・民法他20問 ②書式 土地・建物から各1問 ・口述 1人15分程度の面接方式による試験 |
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試験範囲 | 不動産登記法・民法・土地家屋調査士法 |
受験地 | 東京・大阪・名古屋・広島・福岡・那覇・仙台・札幌・高松 |
願書は7月下旬から8月中旬に法務局で配布しているため、期間を過ぎてしまわないように注意してください。
参照:日本土地家屋調査士会連合会『土地家屋調査士を目指す方へ』
土地家屋調査士は難関資格の1つであり、合格率が10%未満になることも珍しくありません。直近5年間の合格率は以下の通りです。
受験者数 | 合格者数 | 合格率(%) | |
平成30年度 | 4380 | 418 | 9.54 |
令和元年度 | 4198 | 406 | 9.67 |
令和2年度 | 3785 | 392 | 10.36 |
令和3年度 | 3859 | 404 | 10.47 |
令和4年度 | 4404 | 424 | 9.63 |
上記の通り、合格率は10%前後で推移しており、試験難易度の高さが垣間見えます。
また、土地家屋調査士の試験は一部免除規定もあり、多くの方は午前の部の試験を免除されています。
試験免除を受けていない人の場合は、さらに合格率が低いと考えてよいでしょう。
土地家屋調査士の試験には、特別な受験資格はありません。
そのため、学歴や性別なども問わないため、10代からでも受験は可能です。
過去の例では、76歳で合格された方もいれば、21歳で合格された方もいます。
やる気さえあれば受験できることから、誰にでもチャンスのある資格です。
土地家屋調査士試験は、特定の資格を保有することで、午前の部の平面測量と作図試験を免除されます。
特定の資格とは、次の4つです。
試験では、多くの方が一部免除を受け、午後の部に力を入れている方が圧倒的に多いです。
そのため、土地家屋調査士を目指す方の多くは、比較的合格しやすい測量士補試験で資格を取得し、土地家屋調査士の試験を受けるパターンが多いです。
一部免除制度を利用する場合は、測量士・測量士補試験は毎年5月に行われるため、先にこちらの合格を目指しましょう。
続いて、なぜ土地家屋調査士の試験が難しい、壁に感じるとされているのか4つの理由を解説します。
土地家屋調査士試験の合格者を調査したところ、平均学習時間は1,000時間程度ということがわかっています。
働きながら学習した場合、自宅に帰宅してから毎日2時間勉強したとしても、およそ1年半弱はかかる計算です。
1カ月や2カ月程度ならスケジュールも組みやすいですが、1年以上の学習計画は綿密な計算が必要で、モチベーションの維持も課題になります。
毎日決まった時間学習し、やる気を保ち続けることは難しく、合格が難しい理由になっています。
試験には、測量図面の計算と作図が必ず入ってきます。試験では三角関数や複素数など、数学知識が必要となり、その場で計算しながら図面も作成しなければなりません。
そして、試験である以上制限時間も決められているため、焦りと緊張でミスをする人もいます。
また、正確な図面を描けなければ合格できないことから、日頃の練習も必要です。
法律知識だけでなく、実際に計算と作図を行う能力も必要となる点が、試験難易度を高くしています。
土地家屋調査士の試験は、試験時間が短い点も難易度を高くしている理由です。
例えば、午後の部は2時間半という試験時間で、法律知識を問う択一問題20問、2問の書式問題を解かなければなりません。
特に書式問題では、申請書に必要な座標値、辺長、面積などを求め、図面に落とし込むことになります。
いかに素早く問題を解き、迅速かつ正確に図面を描けるかが合格の分かれ道です。
日頃からスピーディに問題を解き、図面を描く練習をしていなければ、合格は難しいでしょう。
土地家屋調査士試験における民法の範囲は、総則・物権・相続の3分野のみです。
しかし、民法は私たちの生活に密接に関わる法律であることから、1,000を超える条文があります。
行政書士や司法書士資格を持っている人は別として、法律を専門的に学んだ経験がなければ、かなり苦労する分野になるでしょう。
3問しか出題されない範囲でもあるため、どの程度の学習時間を割くべきかわからず、試験でも時間を取られやすい範囲です。
土地家屋調査士試験に合格する人の中でも、独学に向いている人の特徴をご紹介します。
土地家屋調査士資格を保有していなくても、土地家屋調査士の補佐や身近で業務経験を積んでいれば、作図や申請書などの具体的なイメージを持ちやすくなります。
また、大きなメリットとして、試験勉強で分からないところがあれば、土地家屋調査士の先輩に相談できる点もあります。
実務的な知識になりますが、実際に働いている人の考え方やアドバイスに触れられるため、独学でも合格しやすく恵まれた環境です。
土地家屋調査士の試験では、計算と作図も必ず試験問題にあるため、数学知識のある人や数学が得意な人の方が独学には向いています。数学が苦手な人では公式の時点でつまずきやすく、試験勉強の障害になるでしょう。
また、定規を使って正確な作図をするためには、知識とイメージを連動させる能力も必要です。数学が得意な人は論理的な思考力が高く、知識とイメージを連動させ、作図に落とし込む能力も高い傾向があります。
土地家屋調査士だけでなく、資格を独学で取得するには、綿密なスケジュール計画と計画通りに実行する能力が欠かせません。
試験勉強の期間が長引くと、自然とモチベーションも低下してしまいます。
そのため、試験までのスケジュールを計画したら、その日のコンディションに関わらず予定通りに学習を進め、体調管理も徹底できる人は独学でも合格しやすいです。
独学はマイペースに進められる分、自己管理が難しいため、自分で決めた予定を着実に進められる人に向いています。
働きながら独学で土地家屋調査士試験合格を目指す方のために、試験前のどの時期にどのような勉強を行うのが効果的なのかを解説します。解説するスケジュールを参考にして、独学合格を目指してみてください。
1年~6カ月前は基礎知識をインプットする
土地家屋調査士試験は総学習時間1,000時間が必要とされているため、受験予定の1年程度前から学習をスタートすべきです。
試験合格に向けて、1年~6カ月前は土地家屋調査士試験の基礎知識のインプットからスタートしましょう。
この時期は勉強の習慣を身に付ける意味でも、平日は2時間程度、休日は4時間程度勉強し、民法・不動産登記法・土地家屋調査士法について学習してください。
基本はテキストを読みながら、ノートに書き写す、法律の条文をすき間時間に暗記するなどの方法がよいでしょう。また、通勤時間には法律の条文をカーステレオやスマホで流し、覚える方法がおすすめです。
6カ月~3カ月前からは曖昧な内容を重点に学習する
試験6カ月前頃からは、それまでインプットしてきた内容の中で、曖昧にしている内容や理解不足になっているポイントを明らかにしましょう。
土地家屋調査士試験は毎年基準点が変動するため、苦手な部分はできる限り減らし、満遍なく理解することが大切です。
また、知識が曖昧なままで試験に臨むと、回答する際に「これはどっちだっけ」と悩む時間が増え、ただでさえ短い試験時間を浪費してしまいます。
その解決策として、6カ月前頃からわからない部分はテキストを10回以上読み返し、問題集で間違った部分は、何を間違えていたのか分析してください。
3カ月~1カ月前は問題集の比重を増やす
試験3カ月前からはテキスト学習よりも、問題集を解く割合を増やし、アウトプットのトレーニングを進めましょう。試験に落ちる人の典型例として、テキスト学習でインプットを中心に学習した結果、試験問題を解けずに時間を掛けてしまうことです。
土地家屋調査士試験では、短い時間の中で多くの問題を解くことになるため、1秒でも早く問題を解くスピードが重要です。それこそ、問題を見た瞬間に「この問題は過去問のあの問題と同じ」と理解し、即座に答えをはじき出せる反射神経がなければなりません。
特に、択一問題は過去問を少しアレンジしたものが再度出題されることがあるため、過去問を理解することが合格には非常に重要です。
問題集でアウトプットのトレーニングを行い、試験本番で本領発揮できるように調整してください。
1カ月前からは模試と問題集を中心に学習する
試験の1カ月前は直前期にあたるため、模試や問題集を何度も繰り返し解く時期です。
試験の1カ月前頃からは、通信講座でも試験問題を予想した模試が実施されるため、本番を想定して模試を行いましょう。
午前の部と午後の部と同じ時間、同じ所要時間で模試を解き、本番と同じ環境を想定してトレーニングすることが重要です。
テキストについては、模試や問題集を解く中で疑問に思ったところ、曖昧になっている部分を読み返すのに利用するだけで十分です。
2週間前からは振り返りとコンディションを整える
試験2週間前からは、勉強もしながら、試験に向けてコンディションを整えてください。
試験は午前の部と午後の部という長丁場になるため、疲労を溜めた状態や寝不足状態では力を発揮できません。
本番の時間に本領発揮できるように、寝起きの時間を調整し、体を慣らしておきましょう。
試験に合格するためには、体調を調整しておくことを徹底してください。
土地家屋調査士試験の独学合格を目指す方のために、おすすめのテキストと通信講座をご紹介します。
土地家屋調査士試験を独学で進める場合に、おすすめのテキストは次のものです。
他にも土地家屋調査士試験に関するテキストはありますが、この5種類が特におすすめです。
中でも、「土地家屋調査士受験 100講」は、必要な法律知識を全て網羅しており、サイズもコンパクトで持ち運びしやすく独学に最適です。
また、書式編では基本問題から応用問題まで幅広く掲載されているため、基礎・応用の両面で隙がありません。
次に、土地家屋調査士試験の独学におすすめの通信講座も紹介します。
上記の3社が行っている通信講座がおすすめです。
中でも、合格率を重視するなら東京法経学院、充実したカリキュラムとオンラインサポートを求めるならLEC東京リーガルマインドがよいでしょう。
日建学院の通信講座もありますが、こちらは費用が他の通信講座よりも10万円以上高く、毎年の合格率も発表していないため、あまりおすすめできません。
自分のライフスタイルや目的に応じて選ぶのがよいですが、まずはお試し講座を受けてから決めるのがよいでしょう。
通信講座はいずれも20万~30万円程度必要になるため、自分が利用しやすく、フォロー体制が充実したものを選ぶべきです。
お試しで学習してみて、その中から学びやすく、利用しやすい通信講座を選んでください。
独学で土地家屋調査士試験に合格するには、通信講座を受講するのが短期合格への道です。
テキストでの学習も有効ですが、大きな欠点もあるからです。
通信講座で学べる内容は、「合格に必要な知識を身に付ける」ということにフォーカスしています。
例えば、60%正解で十分合格できる試験のために、90%正解できるように知識を身に付けるのとでは、学ぶ範囲と深さも大きく変わってしまうことはわかるはずです。
通信講座で学べるのは、合格に必要な知識であって、それ以外の余分な知識は省かれています。
そのため、通信講座で学ぶ内容を8割以上理解できれば、試験では合格できる設計です。
テキスト学習は試験に必要のない知識も入ってしまうため、学習効率が大幅に落ちてしまいます。
短期間で土地家屋調査士試験に合格したいなら、自分に合った通信講座で徹底した学習を行いましょう。
本記事では、土地家屋調査士試験についての概要と、合格するためのスケジュールなどを解説しました。
土地家屋調査士試験は、日本の国家資格でも高難易度の試験であり、多くの時間を勉強に費やす必要があります。
不合格になりやすい人の特徴として、色々なテキスト・通信講座に手を広げすぎて、同じ内容を色々な言い回しで覚えてしまう点があります。同じ内容でも別の説明がされれば、知識にブレが出てしまい、上手く知識をインプットできません。
独学で土地家屋調査士試験合格を目指すなら、1つのテキスト・通信講座を完璧に理解できるようになるまで、何十回もやり続けることを意識しましょう。