咳や腹痛など多少の体調不良であれば、病院へ行かずドラッグストアで薬を購入して自力で治療される方も多いでしょう。最近ではコンビニでも薬を販売する店舗が出はじめ、増々気軽に薬を購入できる世の中になりそうです。
しかし、薬はどこでも誰でも自由に販売することはできません。知識を持ち、資格を有した者だけが、薬を販売することができるのです。その資格の一つが、「登録販売者」。今回は、登録販売者資格の取り方や難易度、勉強法などをご紹介します。
まずは試験の概要から難易度、勉強法についてご紹介します。
登録販売者の試験は、筆記試験のみで構成されています。内容は5項目に分かれており、「医薬品に共通する特性と基本的な知識」「人体の働きと医薬品」「薬事関連法規・制度」「医薬品の適正使用・安全対策」の4項目で各20問ずつ、「主な医薬品とその作用」で40問出題され、全て制限時間は40分です。また、全てマークシート方式で、記述問題はありません。
合格基準は、全体で原則7割以上、かつ各項目3.5割以上(都道府県によっては4割以上)と定められており、全体で7割を超えていても、いずれかの項目で正解率を下回ってしまうと不合格となってしまいます。そのため、苦手な項目を作らず、まんべんなく各項目を勉強する必要があります。
登録販売者試験の合格率は、全国平均では40~50%とされていますが、各都道府県別に見ると、非常に特徴のある試験であることがわかります。
2018年の登録販売者試験実施状況
(https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000581701.pdf)
によると、最も合格率の高い北海道では58.6%であるのに対し、最も低い福井県では19.5%と非常に大きな開きがあるのです。
これは受験者数の違いももちろんありますが、最も大きな要因は、各都道府県ブロックによって出題される問題の内容が異なる点にあります。そのため、合格率の高い都道府県は比較的難易度が低く、合格率の低い都道府県は難易度が高い傾向にあると考えられます。
登録販売者試験は、どの都道府県でも受験が可能ですし、どの都道府県で合格したとしても勤務場所が限定されるといったこともありません。この特性を利用し、合格率の高い都道府県で受験したり、複数の都道府県で受験をしたりといった対策も可能です。
登録販売者資格試験は、試験の受験料が都道府県ごとに異なります。最も安いところは関西地方で12,800円。最も高いのは北海道で、18,100円かかります。また、登録販売者として働くために必要な販売従事登録も、都道府県ごとに費用は異なりますが7,100円~10,300円かかります。
必要な費用として、頭に入れておきましょう。
試験内容がわかったら、次は勉強法です。資格取得を目指す方は、主に通信講座か独学で勉強する方が多いようです。それぞれのメリットや費用感についてご紹介します。
登録販売者の資格試験は、専門的な用語や似たようなカタカナの医薬品名が多く登場し、全くの未経験から勉強を始めるには、少々ハードルが高いかもしれません。
また出題される試験問題も年々難易度が上がっており、きちんとした試験対策を行いたいのであれば、スクールや通信講座で集中的に学ぶ方が良いでしょう。
登録販売者の試験対策講座を行っている企業やサービスは、主に下記の通りです。予算や特徴に応じて選択しましょう。
図2)主な通信・通学講座
運営企業 | コース | 特徴 | 費用 (教材費込・税込) |
期間 |
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ヒューマンアカデミー (たのまな) |
登録販売者合格講座 | 合格サポートを用意 | 37,700円 | 標準学習時間 6時間 |
登録販売者合格総合講座 | eラーニングの動画視聴や過去問題付 | 44,800円 | 標準学習時間 6時間 |
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ユーキャン | - | 添削や質問にも対応 | 49,000円 | 標準学習時間 8時間 |
三幸医療カレッジ(通信) | eラーニングコース | 場所を選ばず動画が見られる | 35,200円 | 授業時間21時間、 受講有効期間1年間 |
DVDコース | web操作が苦手な人でも受講しやすい | 47,300円 | 全21時間、 受講有効期間1年間 |
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三幸医療カレッジ(通学) | - | 休日や平日、夜間クラスなど自身の都合に合わせたクラス選択ができる | 71,280円 | 7日×6時間 (3時間×2コマ) |
登録販売者の資格試験では技術を要するものは出題されないため、暗記を苦としない方でしたら独学で勉強する方も少なくありません。その場合、かかる費用は検定試験対策のテキストや過去問といった書籍代のみで、数千~1万円ほどで揃えられます。
試験の内容は、法改正や情報の訂正により毎年更新されます。テキストや過去問を購入する際は、最新のものを選ぶようにしましょう。
独学の場合、勉強に必要な時間は人によって異なりますが、早い方で3か月、平均的に見ても6か月~1年ほどと言われています。
登録販売者と一言でいっても、具体的にどのような仕事なのかピンとこない方もいらっしゃるかもしれません。ここでは登録販売者の役割や将来性について、知識を深めましょう。
登録販売者とは、一般用医薬品の販売ができる専門家です。
医薬品はリスクに応じて「要指導医薬品・第一類医薬品・第二類医薬品・第三類医薬品」の4区分に分類され、一般用医薬品とは、医師の処方箋がなくても購入できる第一類~第三類医薬品を指します。登録販売者は、そのうちの第二類医薬品と第三類医薬品に該当する医薬品の販売を許可された人ということになります。
図1)医薬品の情報提供に関する解説
リスク分類 | 対応する専門家 | 薬事法上の規定 | 購入者から質問がなくても積極的に行う情報提供 | 購入者側から相談があった場合の応答 |
---|---|---|---|---|
要指導医薬品 | 薬剤師 | 医師の処方箋が必要 | 書面を用いて、適正使用のために必要な情報提供を行わなければならない。購入者が使用者本人以外でないか確認。本人以外の場合は正当な理由の有無を確認。正当な理由がない場合には販売してはならない。 | 義務 |
第一類医薬品 | 薬剤師 | その副作用などにより日常生活に支障を来すおそれがある医薬品であってその使用に関し特に注意が必要なものとして厚生労働大臣が指定するもの | 書面を用いて、適正使用のために必要な情報提供を行わなければならない。購入者から情報提供を要しない意思があった場合でも、薬剤師が適正に使用されると認められると判断した場合でなければ情報提供は免除されない。 | 義務 |
第二類医薬品 | 薬剤師 又は 登録販売者 |
その副作用などにより日常生活に支援を来す程度の健康被害を生ずる恐れがある医薬品であって厚生労働大臣が指定するもの | 適正使用のために必要な情報提供に努めなければならない。 指定第二類医薬品は禁忌の確認や専門家への相談を促す掲示・表示を行うとともに、購入者にその内容が適切に伝わる取り組みを行う。 |
義務 |
第三類医薬品 | 第一類及び第二類以外の一般用医薬品 | 義務 |
ちなみに第二類医薬品と第三類医薬品は一般用医薬品の9割以上を占めるといわれ、限定されているとはいえ、殆どの医薬品の販売を許されているといっても過言ではありません。
医薬品の専門家として、薬局やドラッグストアなどにおいては薬剤師と同じくらい重要な役割を担っているといえるでしょう。
また、日本チェーンドラッグストア協会は2019年に登録販売者の名称を「医薬品登録販売者」へ変更することを決定しました。今後は「医薬品登録販売者」という呼称に変わっていくかもしれません。
登録販売者は、文部科学省が発行する国家資格一覧の中に「都道府県が試験を行う国家資格」として記載されていますが、厚生労働省の国家資格一覧には記載されていません。法律で認められた公的資格であることは間違いないものの、正しくは『国家資格ではない』ようです。
昨今、日本の政府は、軽微な病状であれば病院に行かず市販薬で治療に努める『セルフメディケーション』の推奨を進めています。そのためドラッグストアの増加はもちろん、24時間医薬品が購入できるようコンビニや24時間営業の量販店でも市販薬が購入できるようになるなど、登録販売者のニーズは増加が見込まれています。
実際、2013年には2万8527人だった受験者も、2018年には6万5500人と倍以上に増加。
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000086214.html:厚生労働省HPより)
セルフメディケーションの推奨により、今後も更なる増加が見込まれると予測できます。
では登録販売者になるためには、どうすればよいのでしょうか。必要な資格や、資格を取得するメリットなどについてご紹介します。
まずは登録販売者資格の取得が必須です。受験資格の条件は設けられておらず、誰でも受験することができるため、チャレンジしやすい資格といえるでしょう。
資格試験は年に1度の開催ですが、各都道府県のブロックごとに試験日と申し込み期間が異なります。受験を希望する方は、各都道府県の試験実施日を確認してください。
また資格を取得しただけでは、登録販売者として働くことはできません。実際に働くためには、資格取得後に勤務先の都道府県で『販売従事登録』を行う必要があります。
更に、この『販売従事登録』を行うためには、実務経験を2年以上こなし『実務(業務)従事証明書』を取得しなければなりません。もちろん実務経験を2年以上積んだ後に資格を取得しても構いませんが、登録販売者として実際に勤務するための大まかな流れは、下記の通りです。
加えて登録販売者は、その立場で働き続けるためには気を付けなければならない点があります。それは『ブランク』です。
登録販売者の資格は、医薬品の販売をし続けることで維持される資格です。資格自体がなくなることはありませんが、登録販売者として働くためには、常に現時点より過去5年間の間に通算2年以上の実務経験を有する必要があるのです。
また実務経験には、雇用形態の条件はありませんが「月80時間以上」「原則、同じ店舗で累計2年以上」という細かい決まりがあります。働く際には注意しましょう。
実際に働けるまでの道のりが長く、難しそうな印象を持たれるかもしれませんが、資格を保有すれば、それだけのメリットがあることは間違いありません。
特にドラッグストアなどの店舗で働く場合、資格を持たないスタッフに比べて、時給であれば200~300円ほど、月給であれば1~2万円ほど高くなるなど、給与の面で大きく差が出ます。雇用形態も、無資格の場合はパートやアルバイトでの採用が多くなりますが、登録販売者の資格があれば正社員として雇用される可能性も高まります。
また登録販売者の経験や知識が活かせる場所は、医薬品を販売する店舗に限りません。実際に出されている求人にも、登録販売者を優遇する業種や職種は下記のようなものがあります。
このように、医薬品に関する知識は様々な業界で必要とされています。こうした職場で働く場合、登録販売者資格を持っていれば資格手当が支給されることもありますし、やはり資格保有者は優遇されるでしょう。資格の取得は、自身のキャリアの幅を広げることにも繋がります。
いかがでしたでしょうか。登録販売者として働くためには、資格取得と実務経験が必要となります。どちらが先でも全く問題ありませんが、実務経験を積みながら資格取得の勉強ができれば、非常に効率はよいかもしれません。
今回ご紹介した内容を参考に、ご自身の予算や費やせる時間に応じた勉強法で知識を習得し、登録販売者としてキャリアアップできることを願っています。