『司法試験予備試験』とは、弁護士・裁判官・検察官になるために必ず合格しなければならない『司法試験』の受験資格を得るためのルートの一つです。司法試験が国家試験であるのは当然ですが、司法試験予備試験もまた国家試験であり、司法試験と大差なく最難関試験であると言われます。
仕事をしているうちに弁護士に憧れを抱くようになった。昔の夢を叶えたくなった。生涯働ける専門職に転職したい。そのように考えて、社会人になってから予備試験に挑む方というのは、実は毎年結構な人数で一定数いらっしゃいます。
働きながら最難関と言われる予備試験に挑戦するのは無謀だろうか?周囲に絶対に無理と言われるが、諦められない…。社会人が予備試験に挑むにはどんな勉強法が最適なのか、紹介します。
正式名称は『司法試験予備試験』ですが、一般的には『予備試験』と呼ばれています。本試験である『司法試験』には受験資格があり、誰でも受験可能とはなっていません。司法試験を受験するための受験資格は2パターンあります。
1.法科大学院を卒業していること
2.司法試験予備試験を合格していること
この2つの条件のどちらかをクリアしていれば、司法試験を受験することができます。一般的には社会人で司法試験に挑もうという方は、2の予備試験合格を目指す方が多いです。
一度社会に出てからでは、大学院に入学するという選択に戸惑う方もいらっしゃるでしょう。また、今まで法律関係の勉強をしてこなかったのに、いきなり大学院なんて無理だと思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、法科大学院には法学未修者コースという3年コースがあり、門戸は広く開かれています。また社会人として働きながら勉強したいという方のために、夜間コースもあります。授業料は夜間だからと言って、通常コースよりも特別に安く済むということもなく、どこも年間およそ100万円ほどかかります。
ただし、どこの法科大学院でも奨学金などの授業料免除制度があるので、制度を利用することができればもう少し費用を低く抑えることができます。
この法科大学院を卒業すれば、そのまま司法試験の受験資格を得ることができます。独学や自主学習が苦手、強制的に勉強する時間を設定したいというタイプの方には法科大学院に入学するのが向いているかもしれません。
仕事の後に毎日法科大学院に通うのはしんどい、一人でもしっかり勉強する時間を取れるというタイプの方は、予備試験に挑戦してもいいでしょう。予備試験の内容と日程は少々複雑になっており、『短答式試験』『論文式試験』『口述試験』の3段階式の試験です。
それぞれに合格しなければ、次のステップに進むことはできません。また、短答式試験を合格したが、論文式試験で合格できなかった場合、試験免除制度がないため、また翌年短答式試験からの受験となるので、注意が必要です。
3試験の概要は以下の通りです。
(法務省『司法試験予備試験』:https://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/shikaku_saiyo_index.html)
・毎年5月中頃、1日で実施。6月頃までに合格発表
・誰でも受験可能
・札幌市又はその周辺、仙台市又はその周辺、東京都又はその周辺、名古屋市又はその周辺、大阪市又はその周辺、広島市又はその周辺、福岡市又はその周辺で実施
・合格ラインは平均して270点満点中160点前後(年によって違う)
・合格率は25%弱
・マークシート方式
・毎年7月頃までに2日間実施。10月頃までに合格発表
・短答式試験合格者のみ受験可能
・札幌市、東京都又はその周辺、大阪市又はその周辺、福岡市で実施
・合格ラインは230〜240点以上(年によって違う)
・合格率は20%弱
・毎年10月頃までに実施(受験者数によって1〜2日程度)。11月頃までに合格発表
・論文式試験合格者のみ受験可能
・東京都又はその周辺で実施
・合格ラインは毎年119点以上
・合格率は95〜98%程度
短答式試験でまず全体の25%弱までふるい落とされ、更に論文式試験でそこから更に20%弱にまで絞られるという激烈に難易度の高い試験です。しかし、論文式試験を乗り越えることができれば、あとは口述試験は受験者のほとんどが毎年受かっています。
予備試験は『論文式試験』がとにかく難しいことで有名な試験なのです。法律をしっかり理解するだけでなく、正しく運用し、それを適切に表現する能力が問われます。分析力、検証力、応用力が問われる試験です。
一般的に、予備試験のために必要な勉強時間は最低でも3000時間と言われています。とはいえ合計時間だけ言われてもピンと来ないかもしれません。毎日8時間みっちり勉強したと仮定して、1年365日で2920時間となり、それでも80時間分足りないほどの勉強時間となります。
もちろん、実際にそんな無茶な勉強はできるものではないので、それだけにかなり大変なものだと理解できるでしょう。人によっては3000時間では足りず、5000時間を目標にするという方、10000時間必要だったという方と様々です。
元々基礎的な法知識を持っていたという方と、今まで法律に触れたこともないという方では、当然必要な勉強時間は大きく変わってきます。あくまで目安として、自分にはどれだけの勉強量が必要なのか見極め、それに対しての目標時間を無理なく算出することが大事です。
残業続きで勉強時間が取れない!というのは論外なので、まずはできるだけ定時で帰ってまとまった時間を確保することを前提にしてください。仕事で疲れて帰って、頭が働かないよ!という方は開き直って早め就寝を心がけ、早起きして出社前に勉強するというプランでも勿論構いません。
勉強時間を取ればいいという考えで睡眠時間を削ってしまう方もいますが、それは逆効果なので止めたほうがいいです。疲れた頭は働きが鈍ります。集中力や記憶力に欠け、ただ「勉強した」という満足感に浸るだけで効率は下がります。勉強も仕事も中途半端になりかねません。勉強する時はする、休む時はしっかり休む。メリハリを付けて勉強することに気をつけてみてください。
また、予備試験に実際合格した方の多くは『スキマ時間』を有効的に使っています。出勤中、休憩時間、入浴中などの何もせずにボンヤリしがちな時間を勉強に当てています。
社会人で予備試験に挑む方が心がけるべきポイントは、時間をどれだけ上手に使えるかという点です。ダラダラ長々続けるのではなく、しっかり集中できる時間を確保し、たまにはストレス発散に出かけるのも集中力持続に役立ちます。移動時間やティータイムは勉強に当てれば「遊んでいる」という罪悪感も薄れるでしょう。
ストレスなく、上手に勉強時間を確保しましょう。
予備試験のための勉強法には『独学』『スクールに通う』『通信教育』などがあります。項目別に比較してみましょう。
独学 | スクール | 通信教育 | |
---|---|---|---|
費用 | テキスト代のみ | 60万円~90万円ほど | 8万円~100万円以上 |
通学 | なし | あり | なし |
勉強時間 | 自由が利く | 決められた日時で勉強 | 自由が利く |
分からない点の質問 | できない | できる | できる |
勉強のスケジューリング | すべて自分で決める | 講師が組んだカリキュラムで進める | 要点をまとめたテキストで効率よく学べる |
費用面で考えれば、やはり圧倒的に独学が安く抑えられるという魅力があります。スクールや、特に通信教育で大きく金額に差が出てしまうのは、予備試験という超難関国家試験であることが原因にあります。
基礎的な分野のみであったり、ただテキストを送ってもらって自分で進める独学に近いレベルの通信教育なら、8万円程度の最安値で受講することができます。ただし、予備試験はただ知識を入れただけでは確実に合格することができません。
基礎的な法知識を理解し、運用し、表現する。そこまでできることが大前提であり、逆にそこまでできなければ合格は無理と考えてください。専門性と講師によるフォローの度合いが段階的に上がるほど、スクールや通信教育の金額が上がっていくので、その差が表に表れています。
特に通信教育では、一般的に以下のように段階式に金額が上がっていく傾向があります、
・テキストと添削のみ、または基礎学習レベルで8万円〜15万円ほど
・講師の動画付きカリキュラムや、オンライン講習、応用編など総範囲学習レベルで30万円〜50万円ほど
・1年で最短合格、マンツーマン指導などの徹底指導となると100万円〜150万円ほど
自分がどのレベルの教育が必要なのか、それによって選択していくことになるでしょう。
実際に金額を見れば、やはりどうしても「できるだけ出費は安く抑えたい」と考えてしまう気持ちは分かります。独学でできるものであれば、誰でもそれを選択するでしょう。
しかし、予備試験は一般的な資格試験とは一線を画しています。まず、法知識は日常生活で触れる機会はそうはありません。触れざるを得ない状況や、積極的に触れようと動かなければ触れることはない専門分野です。それを運用しろと言われても、なんの事やら分からないとなりませんか?
また、論文式試験では独特の言い回しが多く、書き方を知らなければ解答することすらできないと言われる表現手法を、まず身につける必要があります。独学ではそんな根本的な点から躓いてしまうことになるでしょう。
今まで法学にはまったく触れる機会が無かったが、予備試験に挑戦したいという人ほど、独学ではなくスクールや通信教育を利用することをおすすめします。予備試験に関しては、基本的には独学は現在法律関係の大学に通っている、または現在法律関係に携わる職場で働いているという方向けの勉強法と見ても差し支えないでしょう。
元々、働きながら予備試験合格を目指す社会人の方々は、現役の大学生に比べて勉強時間の確保が難しいというハンデがあります。その上で費用面でも低コストを考えてしまうと、圧倒的に効率の悪化を招くことになりかねません。
社会人は働いている分、学生よりも経済力がある点が強みです。金額だけ見れば少々手痛い出費に見えるかもしれませんが、司法試験に合格することで得られる将来性を考えれば決して高くない金額だと思います。
未来の自分への投資だと思って、自分のペースと懐に合った勉強法を探して利用することも検討してみてください。