中高年で職種未経験者を採用するというケースは、一般的にかなり限定的と考えていいでしょう。
未経験歓迎の求人はターゲットが若手に偏っているものが多いですし、そもそも即戦力が求められるこの世代に対して、キャリアチェンジ(異職種へのキャリア変更)を受け入れる求人自体があまりありません。
だからこそ、職務経歴書の書き方にはテクニックが必要になります。
この場合を取り上げると、同業種での勤務経験があるわけですから、業界に通じている点は最高に売りになります。
業種、業界にはそれぞれに特殊性があり、一筋縄ではいかないところがあります。
たとえば、ある業界では買い手の立場が強く、納品して決済した製品であっても、使わなければ返品して返金する、というのが日常茶飯事で行われています。
このような業種、業界の商慣習、文化は何もこの例の業界が特殊なわけではなく、どこでも独特のものがありますから、これを熟知しているだけでも充分アドバンテージがありますので、この点をきちんと訴求することが肝要になります。
具体的な書き方ですが、下の事例のように、「貴社で活かせるスキル・経験」欄で業界での豊富な業務経験を謳うのが、定石になります。
「職務詳細」の中の「転職志望理由」欄や「自己PR」欄で、その業界での経験を詳細に語る、またキャリアチェンジする背景や応募職種への想いを熱く語るのも有益でしょう。
その他の項目である「職務要約」欄、「職務詳細」欄(「転職志望理由」欄を除く)は、特段いじることなく基本どおりに書けば、その業界経験の豊富さは証明できますので、特に細工は不要です。
なお、その未経験の応募職種に関して、自身のキャリアの中から、少しでも役立ちそうなものをピックアップしてPRしておかないといけません。
たとえば、汎用的なビジネススキルはこの年代なら必ず身につけているはずです。
書類作成力、プレゼン能力、コミュニケーション術、マネジメントスキル、人材育成術など、この年代ならば未経験職種に対しても、何らかの訴えるべきスキルが絶対にあります。
ここは応募先企業、応募職種をしっかりと研究して、少しでも採用人事に響くものを選択して記述します。
<同業種・異職種に応募する人 応募者プロフィール例>
38歳男性。大学卒業後、約16年間、総務職一筋でキャリアを積み上げる。
今回は自社ブランドLSI製品の提案営業職への応募。 |
ここがポイント!
ここは職歴を「一気通貫記述法」を用いて簡単にまとめておいた後に、応募職種に合わせた内容を盛り込んでおきます。
経験社数が2社なので、「編年式」・「逆年代順形式」で書きます。
「転職志望理由」欄がキモです。多少ボリュームが多くなっても、納得できる理由を書いておきます。
「システムLSIの設計業界の経験(12年)」や「システムLSIの製品知識、受注から開発、納品といった一連の業務フローの造詣」といったように、業界経験を前面に打ち出すのは、非常に効果的です。
その他、応募職種にマッチした「交渉力・調整力」、「プレゼン書類作成能力」といったビジネススキルをPRするのも、有益です。
現場主義、フットワークの軽さといった点をPRすることにより、営業としての資質があることを感じさせます。
バックオフィスを知り尽くしているから、フロントラインでも活躍できる、という独自の視点、発想は、採用人事の関心を惹くでしょう。
※画像をクリックすると、フォーマットのダウンロードが出来ます。
業界も未経験、職種も未経験となると、(歩合制の色が濃い新規開拓営業職は旺盛に募集していますが、)一般的には中高年を受け入れる求人の存在自体が稀有です。
しかし他方で応募者側にとっては、今までのキャリアをこのまま然と続けるのではなく、これが本当にやりたい、残りの職業人生はこれで食っていきたい、と考える人は結構多いのです。
この場合の効果的な作成方法についてですが、なぜ今までのキャリアを投げ打ってでも未知の領域でチャレンジするのか、という理由説明、そのためには給与等の労働条件が下がっても構わないという確固たる覚悟、そして応募先企業でやっていきたいという熱い志望動機などを織り交ぜて語ることが大切です。
これは「自己PR」欄を使って書きましょう。
そして応募内容に合致したビジネススキル、ヒューマンスキルをPRしていく、というのがポイントです。
たとえば、下の実例は、生命保険の営業職に応募するケースですが、応募資格は「営業経験者が望ましいがやる気があれば未経験でも応募可能」とだけあります。
それを受けて自身のキャリアの中で営業で活かせるスキルはないか、を考えて選択していきます。
これは「貴社で活かせるスキル・経験」欄、「自己PR」欄を使って書きます。
なお、異業種・異職種ですので、長々と詳細に今までのキャリアを書いたとしても、応募先企業にの応募職種との接点がないため、効果的とは言えません。
それなので、「職務要約」欄、「職務詳細」欄のボリュームは抑えて、A4サイズ1枚にコンパクトにまとめておきましょう。
これでは書きたいことが書けない、自身のPRが足りないと感じるのであれば、後述する「自己PR書」や「志望動機書」を新たに作成して、応募書類に添付するというやり方も前向きに検討すべきです。
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異業種・同職種に応募するというのは、たとえば同じ経理職でも、サービス業界での経理経験が長いけれども、今回はメーカーの経理にチャレンジするといったケースです。
経理としてのスキル・経験は兼ね備えていることになりますから、要はそれぞれの業界の違い、特殊さに焦点を合わせて、それに対応できることをきちんと証明することが一番の鍵になります。
ただ何の根拠のない「できます」宣言をしても、採用人事には何にも伝わりません。
ましてこの年代であれば、説得力のない表現をすることについて、そのビジネスセンス自体を疑われてしまいます。
ここはやれる!という宣言とともに、きちんとわかりやすい根拠を示さないといけません。
たとえば先ほどの経理の例で言うと、メーカーでは原価計算スキルが必要になってきますから、これが今までのサービス業界との違い、特殊さだと言えます。
この差異に着目してキャッチアップできる根拠を示さないと納得感がでないということです。
具体的な書き方ですが、この経理の例を用いて4つの項目ごとに見ていきましょう。
「貴社で活かせるスキル・経験」にて、経理業務については十二分に経験とスキルがある旨を記述した後、複数の業種、業界経験で培った「幅広い守備範囲と業務適応能力」や「経理ソフトリテラシー」をプラスアルファで盛り込むのは非常に有効です。
そして「自己PR」欄を使って、自身が不足しているスキルをキャッチアップするために、(原価計算の科目が追加される)日商簿記1級資格の習得チャレンジや経理実務セミナーへの参加などを謳うのもいいでしょう
(下の実例では、「自己PR」欄にこの取り組みを盛り込んであります)。
資格やセミナー参加はオフィシャルなものですから、一定の知識やスキルを兼ね備えている証左になり、未経験の領域を埋めるいい常套手段です。
だからその取り組みがあれば、堂々とPRして構いません。
この2つの欄をうまく活用して、未経験業界の差を埋めるノウハウや埋める力があることを記述して、採用人事に対して、異業種の当社であっても十分やれるという安心感・安定感を提供することが肝要です。
なお、同職種ですから、ここは捻りを加えずに基本どおり書いておけば、その経験・スキルを保有していることは伝わります。
それなので、「職務要約」欄と「職務詳細」欄については、粛々と積み上げてきたキャリアを記述しておけば大丈夫です。
<異業種・同職種に応募する人 応募者プロフィール例>
41歳男性。大学卒業後販売職を経て経理・総務職でキャリアを積む。
今回は同じ経理職で異業界のメーカーの経理・総務職(マネージャー候補)への応募。 |
ここがポイント!
年齢と転職回数の多さから、ここは「一気通貫記述法」を用いてまとめておきます。
経験社数が6社と多いので、「キャリア式」で書きます。
「職歴年表」をこの「職務詳細」の前に入れておくと、経理経験の遷移見えてわかりやすくなります。
経理職でのスキル・経験が充分であることをPRした上で、「幅広い守備範囲と業務適応能力」と記述して、業界が変わっても対応できることをさりげなくPRしておきます。
自身が一番頑張った時代のことに光を当てて、際立たせる方法は有効です。
特に課長に昇格できた背景がこれでしっかりとつかめます。
最後に「柔軟性と協調性」、「適合」というキーワードをちりばめながら、入社意欲を語ることで、業種が変わっても経理職としてやれる可能性を感じさせることに成功しています。
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第14回「職務経歴書の書き方14~大企業・中小企業編~」 へ続く
転職コンサルタント(中谷充宏)講師プロフィール
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