中高年の採用の場合は、キャリアを買うわけですから、入社後すぐにそのキャリアとは別の部門に行かせるのは、組織運営上、無駄で現実的ではありません。
だから「将来」と「可能性」という言葉を用いて、会社の意向を受け入れる柔軟性があるかをチェックしたいと思っています。
だから、もちろん、言うまでもなく「そのような異動はお受けできません」はNG。
受け入れるのは前提としても、「はい、問題ありません、どこでも行きます!」という回答は、浅はかで軽い。今までのキャリアにプライドがないのか、という話になります。
だからここは、問題ない旨を伝えた後に、問題がないことを証明する、会社の状況、社会・経営環境の変化に基づいた自身の心境や覚悟などを説明する必要があります。
たとえば
といった具合です。
これにとどまらず、さらに応募企業への入社意欲を語るチャンスでもあります。
といった感じです。
事例の前提となる人についての情報
37歳男性、大卒。
今まで新卒入社した会社1社に勤務中。 今回は2社目の転職で同業種・異職種への応募。 |
NGな受け答え例
「はい、そのような異動命令でも喜んでお受けします。」
「この歳よりさらに先に新天地で経験が薄い仕事に就くのは、率直に申し上げて、不安がありますが、やるしかないと思います。」
寸評:ここはイエスでいいのですが、この後フォローしないと、軽薄な回答になってしまいます。
また、本音でしょうが採用する側も不安になるような回答は差し控えておきましょう。
OKな受け答え例
「はい、問題ありません。事業会社で働く以上、どこでも何でもやる覚悟でおります。
私の先輩や友人なども、自分のキャリアとは違う部門に行っていたり、子会社へ出向になっていたりなど、入社当時と働く場所が違っていますし、組織を回していく以上、このような異動は当然のことと考えます。
ただしまずは将来のことよりも今です。
リスクをとって転職をするわけですから、私自身後悔はしたくありません。
希望する御社への入社を果たし、即戦力として期待されている以上の結果を出さないと、と意気込んでおります。
その後に、組織最適化の視点から見て、私が役立てる部門が別にあるのでしたら、その異動を甘んじてお受けしたいと思います。」
寸評:問題ないと伝えた後に、周りの状況や会社組織の役割などを語ることで、このような異動を、ごく一般的な話であるととらえている旨を伝えるのは最善と言えます。
これに加えて、入社への希望や先の見通しに触れておくことで、入社意欲も伝わることでしょう。
ここは、若手であろうと中高年であろうと回答ポイントは同じです。
事前の業界研究に基づいて、自分の意見・考えをきちんと主張できるか、という点と、それをわかりやすく伝える説明力が備わっているか、という点の、2点をチェックしたいと思っています。
1点目の留意点ですが、ただ単にメディアや評論家の受け売りを披露するだけでは、満足いく回答とは言えません。必ず応募者自身の見通しを入れないとダメです。
たとえば証券業界。
といった一般論で終わってしまっては、何の考えもないことになりますので、この後に
と自分の考えを付加してください。
次に2点目。
できるだけ具体的な数字や客観的事実、事例を交えて、論理的にわかりやすく話を展開しないといけません。
ここはたとえば、
だけではダメです。同じことを伝えるにも、
と、きちんと正しいデータに基づいて持論を論理的に展開するようにしてください。
事例の前提となる人についての情報
38歳男性、大卒。
今まで新卒入社した新薬メーカー会社1社にMRとして勤務。 今回は2社目の転職で同業種・同職種への応募。 |
NGな受け答え例
「この先、この業界は凄く大変になると予測されます。今や主装置もコモディティ化が進み、世界規模でのコストダウン競争が激しく、どこも生き残りをかけて必死です。~」
「内需は少子高齢化の影響もあり、毎年5%程度減少していくとのことですが、新興国、特に東南アジアの需要は毎年20%増と旺盛のようです。」
寸評:「凄い」、「大変」といった抽象的な形容詞の連発だと、説明力が不足している、と一蹴されてしまいます。
また調査した事実を伝聞推定のかたちで語るのは、不十分。
自分の意見ははっきりと言うべきです。
OKな受け答え例
「はい、まず新薬の市場を見ますと、新薬メーカーとして生き残るには約1, 000億円の研究開発費が必要とされていて、日本のトップメーカーの武田でもやっと世界のベストテン入りする状況ですから、メガファーマーと言われる外資系製薬メーカーとの体力差が大きく、国内メーカーは今以上にM&Aや合併などの動きが加速することでしょう。
その一方で、後発医薬品の市場は、国は医療費抑制のために後発医薬品の普及を進めていることもあって、今後の成長が期待されるため、体力的に厳しい新薬メーカーも後発医薬品に積極的に参入してきています。
厚生労働省は「平成24年度までに、後発医薬品の数量シェアを30%以上にする」という目標を掲げていますが、思ったより進んでいないし、今後もそう浸透しないであろう、というのが私の見通しです。
やはり、コストよりも品質や情報提供、安定供給に対する不安が払拭されていませんし、アムロジピンのように数十社から同じ後発医薬品が創出されると、医療現場も何を選べばよいか、迷うでしょう。
だからこそ我々新薬MRは、情報提供に存在価値を見出し、ドクター等との信頼関係を一層強化する必要があります。」
寸評:一般的な業界動向などに触れつつも、現場で感じたことなどを引き合いに出す、客観的データを交えていく、といった表現方法を用いると、論理的かつ円滑に話が進みます。
そして最後に自分の意見や想いをしっかりと伝えることがポイントです。
ここは、若手であろうと中高年であろうと回答ポイントは基本的に同じですが、中高年ゆえの大人の回答が求められます。
まずここで待遇面や福利厚生面(例.給与が高い、残業がない、有休がとりやすい等)を持ち出すこのがNGなのは、おわかりかと思います。
ここは応募職種に就けるかどうか、そこでやりたいことができるかどうか、という点に焦点を絞って回答してください。
たとえば、希望する仕入バイヤー職に就き、プライベート商品の企画・立案に携われるかどうか、店長候補職に就き、近い将来、店舗でのイベント企画運営といった采配を独自に揮えるのかどうか、といった、応募企業の応募職種だけでなく、仕事内容にまで触れるようにしてください。
そして、ここにフォーカスしただけでは足りません。
その後にこの選定理由や入社後の取り組み姿勢、想いをきちんとフォローする必要があります。
たとえば、約10年携わったバイヤー業務はまだまだ奥が深く、もっと極めていきたい、前職で私が店舗イベントを企画・運営した際、大盛況だったので、この経験を御社でも活かしたい、といった感じです。
これらから入社後の活躍やその仕事に就く上での覚悟を感じたいのです。
ただし、一点だけ例外が。
家族の問題等で地域限定職を希望している場合、勤務場所を重視しているといったケースのように、やむを得ない場合はそのまま伝えて問題ありません。
事例の前提となる人についての情報
40歳男性、大卒。
今まで新卒入社した銀行1社に主にリテール営業として勤務。 今回は2社目の転職で同業種・同職種への応募。 |
NGな受け答え例
「プロとして働く以上、仕事への対価にはこだわりたいと思っています。だから処遇面がいいところに惹かれますし、やはりこの点を重視しています。」
「私はM&A業務に従事できるかどうか、を軸に置いております。」
寸評:本音でしょうが、ごく一部の外資系を除いて、日本ではなかなかこの発想は受け入れられません。
また、言いっ放しではなく、この後に選定理由や業務への想いなどをきちんとフォローを入れるようにしてください。
OKな受け答え例
「はい、私は、今まで銀行で養ってきた経験を活かすべく、リテール営業に就いて、資産運用のためのコンサルテーション業務に取り組めるかどうか、という点を最重要視しております。
約12年この業務に就いておりましたが、お客様と正面から向き合い、将来の資産形成についてのご相談を承りながら、最適な金融商品を提案する、というこの仕事に何よりもやりがいを感じております。
そして提案した商品によって、お客様の運用成果が上がりお客様が満足される姿を見ること。
また、私自身を信用・信頼してもらうことで、住宅ローンを借り替えてもらったり、生命保険を見直したり等、金融全体を任せていただくことも本職の魅力です。
お客様の満足度を向上させ、信用・信頼を勝ち得るためには、金融商品の知識習得はもちろんのこと、世界経済、社会、政治といった点にも目を配る必要があります。
昨年ファイナンシャルプランナーも1級にも合格し、「金融のコンシェルジュ」を目指し、今後も努力を続けていくつもりです。」
寸評:まず最も重視することについて、応募職種への仕事を選択するのは、常套手段だと言えます。
そして応募職種のやりがいや魅力を語るだけでなく、自身の業務に対する想いや今後の取り組みを語ると、アピールに分厚さが出ます。
ここも若手であろうと中高年であろうと回答ポイントは基本的に同じですが、中高年ゆえに注意すべき点があります。
まずここは資格がないのは事実ですから、ツベコベ言い訳をせずに、指摘を潔く受け入れる姿勢を感じたいと思っています。
取得できていない理由を必要以上にこねくりまわすのは、最悪です。
たとえば、中高年ゆえに自分の経験の豊かさをPRしようとして、
といった有資格者を蔑むような回答は厳に慎むべきです。
しかし、素直に受け入れるといっても「はい、持っていないです」だけでは、足りません。
過去にどういった取り組みをしたか、今保有していないことをどう捉えているか、をきちんと説明し、今後取得に向けてどう進めていくのか、を伝えないといけません。
また将来のことは何とでも言えますから、「今年8月には取得予定です」と高らかに宣言するのは構いません。
しかし、では取得に向けて具体的にどうしようとしているのか、という点まで触れて説明しないと、「軽口を叩く人」とみなされて終わりでしょう。
だからここは後述のOK例のように、脚色することなく、実直に現況を語ってほしいと思っています。
事例の前提となる人についての情報
39歳男性、大卒。
今まで新卒入社した人材紹介会社1社に勤務。 今回は2社目の転職で同業種・同職種への応募。 |
NGな受け答え例
「いや、次回の試験にチャレンジして必ず取得したいと思います。」
「今までの職務遂行上、この資格の必要性を感じたことはありませんが、御社で必要ならば取得を前向きに検討したいと思います。」
寸評:取得宣言はいいのですが、言い切りではなく、この後に具体的な学習計画を話しましょう。
またこのように言い訳がましく、潔さを感じない発言では、面接官からいい印象を持ってもらえません。
OKな受け答え例
「確かにおっしゃるとおりで、今回の求人で御社が求めるキャリア・コンサルタント資格を取得しておりません。
この資格制度が発足したのは比較的最近で、私はこの前から転職支援業務や職業相談業務に従事しており、資格がなくても業務遂行上、何ら支障がなかった、というのが取得しなかった最大の理由になります。
ただし、今や業務経験の豊富さだけでは足りずに、官庁や企業などの再就職支援事業等の入札や提案営業時にも、有資格者の数が一定数を満たさないと見積もりにすら参加できない旨を聞きます。
この業界で食っていく以上、この資格は必要であると、今回の御社の応募でも改めて認識させられました。
それなので、遅ればせながら、今パンフを取り寄せて、通学先を検討している最中です。」
寸評:今まで取得しなかった理由をわかりやすく述べて、その後に取得する方向に持っていく構成がベストでしょう。
ここでまだ検討中なのにもかかわらず、「既に講座に申し込んだ」、「来週から通う予定です」と勇み足にならぬようにしてください。
この「独特さ」は、応募者によって感じ方は違うでしょう。
企業研究する中で、「独特さ」が求人情報に表記されている等で事前につかんでいたならば、それに適合「できる」と回答するのが大前提になります。
一方で何が「独特」なのか、面接官の言っている意図がよくわからない、という場合。
困惑する中で、いかに臨機応変さをPRできるか、面接官はそれをはかりたいと思っています。
もちろん、このケースであっても、「できる」と回答するのが大前提ですが、中高年ですから「独特であっても対応できます。全力で頑張ります!」といった「やる気」だけのPRに終始してしまっては、臨機応変さのPRについては弱くなります。
これよりも、今までの豊富な業務経験や養ってきたスキル・能力のエピソード等を用いて、なぜ「できる」か、をきちんと証明する必要があります。
たとえば、
といった回答です。
いずれの場合も要は「できる」ということを、相手の独自性を見出し、または推測しながら、自身の経験・スキルを用いて、証明していく。
これが最適な回答策になります。
事例の前提となる人についての情報
40歳男性、大卒。
今まで会社3社に勤務経験あり。 今回は4社目の転職で同業種・同職種への応募。 |
NGな受け答え例
「はい、対応したいと思います。今やどこも厳しい経営環境ですから、何事も柔軟に一生懸命やらないといけないと肝に銘じています。」
「独特というのはどういった点が独特なのか明確に把握できていませんが、そういった状況に置かれましたら、何とかしたいと思います。」
寸評:いずれもやる気だけのPRに終始していますので、経験やスキルなどを用いてこれを証明することに比重を置いて話し、臨機応変さをPRするようにしてください。
OKな受け答え例
「はい、対応できます。
私は今まで3社での勤務経験がありますが、どの企業も同業他社とは違うオリジナル感にあふれたやり方でした。
自ら行動しないと全く仕事が回ってこない職場だったり、その逆で、自己判断で動くとそれを強く咎められる職場だったり、指示系統がいきなり変更になったり等、いろいろな環境にとまどいながらも、その場を読んできちんとフィットしてきたつもりです。
御社はセルフスターターを求めていて、自ら考え行動する、自分のポジションは自分で創る、ということを掲げております。
私はこのような経験ありますし、元々どこでもフレキシブルに柔軟に対応できる性格です。
だから独特と言われる御社のやり方に合わせながらも、自分の力を発揮して着実に成果を上げることができると自負しております。」
寸評:「できる」の後に、企業研究の成果やその証明のための詳細説明をするのは必須です。
同じもしくは類似の経験や性格上の強みなどでその証左を語るのは、非常に納得性が高くなります。
第13回「中高年の面接対策13~前職を辞めた理由~」 へ続く
転職コンサルタント(中谷充宏)講師プロフィール
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