あくまで仮想の質問になりますが、ここは中高年のキャリアを感じさせるような、しっかりと地に足の着いた具現性のあるレベルの回答が求められます。
現在の応募企業の企業研究や業界研究をきちんとやれば、応募企業の経営課題がある程度は見えてくるはず。
この見出した経営課題に対して、自身が考えた課題解決の政策を、短期・中長期といった時系列に落としていく、といった要素を盛り込んで回答する必要があります。
ここに具体的な事例や数値、データを絡めて話すようにすると、より内容に説得性が出ますので、後述のOK例のように、これらを適宜用いるようにしてください。
これらの研究以外にも、競合他社の動向や社会情勢、消費者心理などの関連情報もつかんでおくと、より納得感のある回答ができるでしょう。
よくありがちな回答例ですが、応募ポジションの範囲内で対処しようとすると、非常に視野が狭い回答になってしまい、面接官が期待する回答とズレが発生する可能性があります。
たとえば商品企画職への応募の場合、自分の想いから「新しい付加価値を持った商品の開発に取り組む」と回答したとしても、会社経営の大局的な立場から見れば、もっと他に優先すべき経営課題があるかもしれない、ということです。
未経験の社長業の話ですが、話のレベルが仔細過ぎないか、という点は留意して回答してください。
事例の前提となる人についての情報
38歳男性、大卒。
今まで新卒入社した重電メーカー1社にて総合職として勤務。 今回は同業種・同職種への応募。 |
NGな受け答え例
「私ならば、競合他社との提携交渉を進めます。この業界ではスケールメリットを持たないと勝ち残れませんし、実際○○社は中国の△△社と業務提携を~」
(人事課長職への応募の場合)
「私が社長ならば、風通しのよい組織にするため、人事制度を刷新することに取り組みます。既存の日本型雇用システムを残しつつ~」
寸評:いずれも回答としては間違っていませんが、前者競合他社との提携交渉が、切迫した応募企業の経営課題なのか、それとも、他社が先行してやっていることから、何となく上げてみたレベルなのか、厳しく見定められます。
また、後者については、自分の応募分野に終始しており、ミクロ的な視点に終始し大局的に見ることができない、とみなされる可能性があります。
OKな受け答え例
はい、私が御社の社長になりましたら、2期連続の赤字の流れを変えるために、最優先に徹底的なコスト削減を行います。
なぜコストダウンから行うのか、という点ですが、売り上げや収益を上げるのは、言葉で言うのは簡単。
しかし、今はたとえ5%でも右肩上がりの成果を上げていくのは容易ではありません。
しかし、逆に5%のコストダウンなら、実現可能だからで、社員全員の意識改革にもつながるからです。
具体的には、不採算部門の廃止、支社・支店の統廃合、ローマフォーマーの人的リストラといった大規模なものから、一定金額以上の随意契約は全て廃止しコンペ方式にする、使わない電気をこまめに切るといった節電など、細部に渡って徹底的にコストの見直し・削減を断行します。
V字回復を果たした某自動車メーカーは3年間で15%のコストダウンに成功したとか。
御社でも筋肉体質にすることで収支を2年以内に黒転可能と見ます。
もちろん、黒転を果たした後、攻めの経営戦略を進めていきますが、まずは現状の悪い流れを何とか改善しないといけません。
誰もがやりたがらないことだからこそ、聖域を設けずに私情を捨て断固たる決意を持って、断行します。」
寸評:端的に応募先の課題と解決策について自分の考えを述べながらも、他社の成功事例を用いたり、数値をちりばめることで、非常に説得力を出すことができます。
また強い決意を語ることで、応募企業で頑張ってくれる期待感が持てます。
今回が全く初めての転職ならば、「今まで転職は考えたことがなかったので、応募までは至りませんでした」でOKでしょう。
問題は、何度か転職を経験された人。
過去の転職時になぜ応募しなかったのか、をきちんと釈明しながら、「今現在の、応募企業への想い」をしっかりと語るようにしてください。
この質問は、過去に当社を受けなかったことを責めたてるのが目的ではありませんので、困惑したり、焦った表情を浮かべるのはよろしくありません。
また、その当時は受験の意志がなかったのに、過去に何度か応募を検討したけれども、実際の応募までは至らなかった、といったように、はぐらかしたり、言い訳しようとすると、かえってマイナス印象。
実際に過去に受験しなかった事実は変えようがありません。
言い訳がましい話を展開するのでしたら、素直に事実をありのまま話した方が、潔くて好感が持てます。
それよりも、その事実を正直に伝えた後に、その時応募しなかった率直な理由や心境
(例.当時はまだ御社の○○業界ではなく△△業界でやっていきたいという気持ちがあり、応募には至りませんでした)
に重点を置いて話し、最後に応募企業への入社意欲や働きたい気持ちを高らかと語るようにしてください。
事例の前提となる人についての情報
42歳男性、大卒。
今まで3社とも関西ローカル企業に勤務。 今回は4社目の転職で全国展開している企業への応募。 |
NGな受け答え例
「確かに過去に一度も受験したことはありません、大変申し訳ございません。」
「転職の際にはあらゆる可能性を探るべく、ありとあらゆる企業への応募を検討しておりましたので、おそらく御社も対象にしていたかと思います。しかし、実際は~」
「実力不足と感じ、応募するまでに至らなかった念頭になかったものでして。」
寸評:回答を放棄するかのような、投げやりな回答ではなく、ちゃんと理由を説明しましょう。
また、くどくどとした言い訳は不要です。
OKな受け答え例
「はい、私は過去に2回転職活動をしておりますが、いずれも御社に応募しておりません。
正直申し上げて2度とも御社に応募するということが全く念頭にありませんでした。
その理由としましては、過去2回とも当時私の置かれていた状況が、全国転勤に対応できなかたからです。
具体的に言いますと、1回目の転職の時は、新卒就職の時と同じく、生まれ育った関西エリアで働いていきたい、という想いが強かったからです。
そして2回目の転職の際には、母親の介護の問題が発生し、実家から通える範囲が必須条件となっておりました。
しかし、昨年母親が他界したために、今は勤務地を関西エリアに限定することなく、転職活動しています。
先ほどの志望理由のとおり、御社を企業研究するうちに、御社の魅力を知り、御社で働きたいという気持ちが高まりました。
もっと早く出会っていれば、と後悔を感じることもありますが、しがらみがあったのですから、いまさら愚痴を言っても仕方がありません。
入社が叶いましたら、御社の期待に応えられるよう、一生懸命頑張ります。」
寸評:ごまかすことなく過去の志向や経緯を実直に話すことが基本です。
そして、その理由について、詳細に丁寧に説明して面接官に納得してもらわねばなりません。
そして今の応募の経緯につなげて応募企業で働く想いでまとめるのは、理想的なストーリー展開です。
ここは若手も中高年も回答すべきポイントは同じです。
まず、この応募企業が第一志望であれば、「はい、喜んで入社いたします!」で終了です。
問題は、他に志望度の高い企業を受験しているケースです。
厳しい転職市場に直面しているせいもあり、受かるためには手段を選んでいる場合ではない、という考え方の中高年が多いのですが、本意でないのに「御社第一志望です」的な回答をするのはNG。
これでは後々のトラブルの元です、絶対にやめておきましょう。
だからここは嘘ではなく、今の心境をプラス方向で実直に語ってください。
実直と言っても、
といった愚直な回答がNGなのは、言わずもがなです。
応募企業に多少なりとも興味があるから、この面接に臨んでいるわけなので、同じ想いであっても表現の工夫が必要になります。
たとえば、
といったように、今の心境をプラス方向で語ることで、即答できない負い目を大人の表現力でフォローすればいいのです。
事例の前提となる人についての情報
37歳男性、大卒。
今まで証券会社3社にてリテール営業職として勤務。 今回は4社目の転職で異業種(クレジット会社)・同職種(リテール営業職)への応募。 |
NGな受け答え例
(応募者の本意でないにもかかわらず)
「はい、喜んで入社させていただきます。」
「仮定の話を論じても生産的ではありませんので、内定をいただきましたら、真摯に回答いたします。」
寸評:嘘は止めておきましょう。
それよりは今の気持ちとその説明に終始すべきです。
また質問の主旨をはぐらかして、面接官に不信感を抱かせるような発言は謹んでおきましょう。
OKな受け答え例
「はい、正直申し上げて、今は絶対に御社に入社するとは申し上げられません。
もちろん働いてみたい企業の一つである御社から内定をいただけることは大変光栄なことと認識しております。
しかし、今までは証券不況の影響もあり、リストラや希望退職制度といった不本意なかたちで退職を余儀なくされ、結果として転職回数が多くなってしまったことを反省しております。
次こそはじっくりと根を下ろして働きたい、というのが私の偽らざる本音です。
特に前職は、短期間で退職になりましたので、今は次の進路選びを納得いくまでしっかりやりたいというのが、私の強い想いです。
わがままを申すようですが、どうぞご理解をいただけたらと思います。
ただ、御社の内定出しは、通常は内定通知後2週間以内に返答する旨、聞いておりますので、もし正式にオファーをいただきましたら、期間内に精一杯悩み抜いて悔いのない結論を出したいと思っています。」
寸評:表現方法をこねくり回すよりも、一貫して実直に語る方が、潔くて面接官も納得してくれる可能性が高くなります。
なお、このように正直ベースで回答しても、不採用になった場合は、縁がなかったと気持ちを切り替えるしかありません。
若手と違って、職種や業務内容、経験等が限定されたピンポイント求人が中心になりますから、ここは曖昧、抽象的な表現は許されないと思っておいてください。
また、ここで○○○に興味があるから、○○○をやってみたいから、といった応募職種に対する興味や熱意のPRに固執するのは、この年代の回答としては、あまりにも稚拙です。
それよりも興味や熱意はそこそこにしておいて、そこでいったい何ができるのか、どういった貢献ができるのか、に比重をシフトして説明すべきです。
たとえば、応募企業への想いを語った後に、
といったように、応募企業で即戦力として働けることをPRします。
同じ範囲の経理業務を募集している同規模の企業であれば、応募者の入社後の業務遂行イメージを明確に持ってくれることでしょう。
このように、自身の豊富な業務経験やスキル、実績などを交えて、応募職種で十二分にやれることを証明することが一番大事になります。
事例の前提となる人についての情報
38歳男性、大卒。
今まで2社にて戸建住宅販売とリフォーム営業に勤務。 今回は3社目の転職で同業種・同職種(住宅設備機器販売職)への応募。 |
NGな受け答え例
「長年この仕事に就いていたため、御社でも同じパフォーマンスが発揮できると考えたので、志望しました。」
「御社の製品に興味があり、また求人内容の条件がまさしく私のキャリアにマッチしていると感じたからです。」
寸評:応募企業で同じようにやれるという根拠を示すようにしましょう。
また、言い切りで終わらず、この後にマッチしている証左を語るようにしてください。
OKな受け答え例
「私が御社本職を志望するのは、自身の住宅販売とリフォーム営業での経験が最大限に役立つと考えたこと、また御社はこれから太陽光発電システムや家庭用蓄電池の販売に重点を置いていくそうですが、その先見性と成長性に魅力を感じたことが理由です。
昨今は、少子高齢化で新築住宅を買う顧客層は減少の一途ですが、その一方で既存住宅を改修して長く使うというニーズが高まっています。
実際、前職の水回りのリフォーム営業に回っている時でも、太陽光パネルを既存の屋根に取り付けてくれ、との依頼も多かったのを実体験しております。
私はこれら製品をまだ正式に取り扱ったことはありませんが、約15年と長らく住宅業界の販売業務に従事していますので、顧客開拓から訴求力の高い提案、成約、アフターフォローまでの各工程で、いったい何をすればよいか?という売る術は体得済みです。
成長分野に身を置く御社でいかんなくこのノウハウを発揮し、そのダイナミズムを味わいたいと思い、本職に応募しました。」
寸評:やりたい気持ちは程々にしておいて、本職で結果が出せることの根拠説明に重点を置くことは非常に有効な回答です。
さらにここでは、経験年数や具体的な工程を交えることで、本職にマッチしていることをより強固にアピールできています。
ここはキャリアチェンジ(異職種から営業職への応募)のケースは、年代的にレアなので、対象外とします。
まずは今まで営業で培ってきた経験やスキルを軸にして、それが応募企業の営業でどのように役立つか、どう活かせるのか、を具体的かつ詳細に語る必要があります。
もちろん、営業と一言でいっても非常に裾野が広く、応募業界や応募企業によって営業スタイルや対象顧客、対象地域なども全然違ってきますから、それらに焦点を絞って話さないと、的外れになるのは言うまでもないでしょう。
そのためには、徹底した企業研究が必要になります。
営業ですから数値を交えて話すことは、非常に効果的なのでお勧めです。
というような感じです。
このように入社後の目標数字やコミットメント(公約)を話すのは、その代表例と言えますが、乖離があるとかえって「業界や当社の実情を全く理解していない」とマイナス評価になります。
だからこそ、ここは充分な下調べが必要です。
またOJT上での部下の育成・指導が求められる世代です。
たとえ組織上の管理職経験がなかったとしても、部下の育成・指導の経験があるのでしたら、これも付加しておくと非常にアピールが強くなります。
事例の前提となる人についての情報
38歳男性、大卒。
今まで新卒入社した1社にて国内系MR職として勤務。 今回は外資系MR職への応募。 |
NGな受け答え例
「私の今まで養ってきた法人営業の経験を活かして、着実に御社のノルマを達成していくことで、御社の発展に貢献したいと思います。」
「私ならばまず営業現場を見て、今後どのようにしていけばいいかの見通しを立てて、そこで貢献できる点を見出していきたいと思います。」
寸評:このまま終わるのではなく、自身の経験の内容がどう役立つのか、具体的かつ詳細に説明しましょう。
また、入社してみないとわからない的な回答は、企業研究不足とみなされます。
OKな受け答え例
「はい、私はこの年齢までずっと医薬営業の道を歩んできましたから、医薬業界での営業慣習、たとえば、医師や薬剤師との付き合い方、大病院とクリニックの攻め方の違いなどは体に染み込んでおります。
これに加えて、今回の募集エリアである大阪府であれば、前職退職前まで約5年間、担当していましたので、約3,500軒ある調剤薬局の6割程度は、訪問した経験がありますし、土地勘も充分あります。
また、その中で複数の医療機関の院長や理事長、薬事部長等との親しくさせてもらっていた良好な人間関係もまだ生きております。
先月引き継ぎもかねて主要取引先であったとことに退職の挨拶に回っていましたが、うれしいことに「転職が決まったら連絡してくれ。同じ薬品なら君から薬を買う」とおっしゃっていただけるところが何件かありました。
また、後輩との同行訪問を積極的にやっておりましたので、そんなに人数は多くないのですが、一人前のMRに育て上げた実績もあります。
このノウハウも御社で活かせると思います。」
寸評:その業界知識を習得しているのはもちろんのこと、求められている役割をきちんととらえた上で、貢献ポイントについて具体的な話を展開することが非常に大事です。
年代上、若手育成に触れておくのもよいです。
第11回「中高年の面接対策11~事務・経理・人事・総務・技術職~」 へ続く
転職コンサルタント(中谷充宏)講師プロフィール
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