ごく一部のエリア限定職でない限り、転居を伴う転勤を否定できません。
たとえば今、都内しか事業展開していなくても、他の地域に進出することは充分ありうるでしょう。
この前提があった上での、大丈夫か、大丈夫でないか、の2択になります。
受け入れられるのでしたら、「はい、大丈夫です!喜んでどこでも行きます」でこの回答は終わりです。
問題は大丈夫でないケースについて。
子供の教育の問題、両親の介護など、中高年ゆえにこの転勤に支障になることがあってもおかしくありません。
だからやむを得ない理由でこれが受け入れられない場合は、その理由を詳細かつ具体的に語ってもらい、その理由に納得したいと思っています。
特に一過性のもの、たとえば、今年は長女が高校受験ですが、これが片づけば大丈夫です、といったものであれば、面接官も受け入れやすいでしょう。
もちろん、「生まれ育った埼玉から出たくないので、転居はしたくない」といった、単なるわがままレベルのものは、大丈夫でない理由とはみなしません。
また、とりあえずここは「大丈夫」と言わないと前に進めないので、入社後に実際に転勤命令があったらその時に考えよう、という付け焼刃的な対処は、後々大きなトラブルになります。ここで嘘をつくのは絶対にダメだと肝に銘じておいてください。
事例の前提となる人についての情報
38歳男性、大卒。
現在まで2社にて勤務経験あり。 今回は3社目の転職で全国展開している企業への応募。 |
NGな受け答え例
「そのような転勤の打診があった時点で、家族とよく話し合って決めたいと思います。」
「その状況にならないとわからないところがありますが、何とか善処したいと思います。」
寸評:やむを得ない理由が語られないままで、受け入れられない可能性が見えるのは、面接官もプラスに評価しないでしょう。
また、前向きなことを言っているつもりでも、このような曖昧な回答では、対応の可否が全く見えず、かえって評価を落とすことになりかねません。
OKな受け答え例
「現時点では厳しいと考えています。
なぜなら、ちょうど今、妻が妊娠6ヶ月でして、産婦人科の関係もあり、出産して落ち着くまでは動けない、と考えているからです。
また両親の実家も離れておりますので、サポートもちょっと期待できない、ということもありまして、私が単身赴任することも難しいのです。
ただ、この期間だけですので、この一連が落ち着きましたら、妻も長男も私に一緒について行くと言ってくれています。
それなので、今すぐと言われると非常に厳しいですが、これが落ち着けば、遠隔地に配属になったとしても、家族みんなで引っ越す心づもりをしています。」
寸評:転居を伴う転勤ができない事由に永続性があれば、不採用になる可能性は高いでしょう。
逆を言えば一過性のものは、充分理由として成り立つということ。
だから一過性の場合は、やむを得ない理由の説明と共に、これをしっかりと盛り込んでください。
会社にとって、遠距離通勤者には様々なデメリットが発生します。たとえば、
などなど。
だから、「同じ能力ならば近い人の方がいい!」というのが採用側の本音でしょう。
そこを覆し、自身を採用したいと思わせなければならないわけですから、回答方法にもそれなりの工夫が必要です。
回答方法ですが、職業人として長年職歴を重ねてきた人が、通勤上支障があるようでは論外ですから、ここでまず「大丈夫」と答えなければなりません。
そしてこの後で、たとえば、
帰りは自己啓発に充て、今は中小企業診断士資格の通信講座を勉強しています。
このように長時間の通勤をキャリアアップにフル活用し、1分1秒たりとも無駄にしないようにしています」
といった長時間通勤を逆手にとったような有意義な過ごし方を伝え、自己研鑽力やモチベーションの高さをPRするなどの回答の工夫が必要になります。
事例の前提となる人についての情報
40歳男性、大卒。
現在まで新卒入社した片道1時間30分の通勤時間を要する企業1社に勤務。 今回は2社目の転職で、片道1時間40分の通勤時間がかかる企業への応募。 |
NGな受け答え例
「長時間通勤は確かに疲れますが、何とか頑張って通いたいと思います。」
「前職では1時間半を超える通勤の場合、社宅のあっせん制度がありましたが、御社でもそのような制度がないか、教えていただきたいのですが。」
寸評:いずれも本音でしょうが、そもそも通勤で根を上げるような話は、この年代の回答ではありません。
ここで自身のPRにつながるような回答の工夫をしてください。
OKな受け答え例
「はい、全く問題ありません。
前職でも同じくらいの長距離通勤を約18年も続けてきましたので、今や私のライフスタイルの一部として完全に組み込まれております。
私の路線は、朝少し早く出ると、混雑ピーク時を避けることができるため、現職でも早めに出勤するようにしていました。
これは5年前から始めたのですが、満員電車で体力を消耗しないし、電話が鳴らずに誰もいない朝は仕事がはかどる、というまさしく一石二鳥でしたので、御社でも早朝出勤が許されるのであれば、続けていきたいと思っています。
また、通勤時間中は、自己啓発の一環として、英語の勉強に費やしておりまして、TOIECスコアを500点前後から810点まで引き上げることに成功しました。
長距離通勤者だからこそ、常に有効的な時間活用を意識しており、これにより日常業務でも生産性向上や高い集中力の継続などにつながっていると自負しています。」
寸評:大丈夫と回答した後に、長距離通勤を逆手にとったPRにつなげてください。
通勤時間を自己啓発に費やすこと、有効的な時間活用の意識の高さなどはこの典型例です。
ここはあるか、ないかの2択です。
ない場合は、そのまま「ありません」と伝えるだけでOKです。
問題はある場合。
ここはまずその事実をきちんと伝えた上で、当社の勤務にどこまでの影響があるのか、を明確にしておくことが大切です。
たとえば
といった表現であれば、当社に入社したとしても、特に問題はないだろう、と感じ取ってくれるはずです。
このような軽度の場合はスムーズに話せるでしょうが、問題は重度の場合です。
たとえば親の介護のために、残業や休日出勤はできない、といった場合、会社によっては当社での勤務は困難と考えるところもあるでしょう。
もちろん、それをフォローするような話(例.早めに時間外勤務がわかっていれば、妻にその代りをお願いして対応できるようにします、といった話)があれば、補完してその事象を和らげることは非常に有効です。
ここは包み隠さずに実情を話して、面接官に最終判断を仰ぐしか方法はありません。
なぜなら嘘をついて入社できたとしても、入社後に問題が発生した場合、解雇されてしまい、この解雇が後もずっとついて回るからです。
事例の前提となる人についての情報
41歳男性、大卒。
今まで会社2社に勤務経験あり。 今回は3社目の転職で同業種・同職種への応募。 |
NGな受け答え例
(親の介護のため残業が全くできない状況なのに)
「特に思い当ることはありません。」
「親の介護が懸念されますが、御社に入社できましたら、育児介護休業法を活用して、両立していきたいと思います。」
寸評:嘘は絶対にやめておきましょう。
また、働く前から権利を振りかざすのは、ご法度です。
OKな受け答え例
「障壁となりそうなことと言えば、今は私の父親の介護が気がかりになっています。
今、妻に見てもらっていますが、さすがに負担が重くて介護疲れのため体調不良を訴えております。
前職は仕事の帰宅後と休日に、私が面倒を見るようにしていました。
ただ大黒柱である私が妻と同じ状況に陥ってしまっては、家族全体が沈んでしまいますので、介護施設へ入居させることも検討しています。
費用負担は重たいのですが、幸い父からは資産をこれに使っていいとの事前承諾を得ておりまして。
やはり、ちゃんと仕事があってこそ、生活が成り立つことを痛感しております。
御社に入社が叶った場合は、業務に支障がないように、きちんとこの問題を調整して、プライベートを仕事に持ち込まないようにいたします。」
寸評:隠すことなくちゃんと実情を話した後、この先の障壁を克服、調整できる可能性を導き出すことがポイントです。
その障壁を抱えていた場合、当社で働くのは無理、という判断が下されるのであれば、気持ちを切り替えて次を探すしかありません。
ここは大丈夫と答えなければならないのは言うまでもありません。
喫煙は個人の嗜好の問題ですから、会社もプライベートにまで踏み込んで、喫煙をやめてください、とまでは強制しませんが、こと仕事となると別の話になります。
会社は、勤務時間に一服するのを非生産的な行為だと見ていますし、それこそ頻繁に喫煙所に行かれたら、仕事自体が回りません。
また、喫煙が引き起こす深刻な健康問題もあり、社員が健康を崩して、仕事に穴を開けるようでは、会社もその社員の処遇を考えなければならなくなります。
だからこれらの懸念を払しょくすべく、喫煙が業務遂行に何ら問題ないことをきちんと説明しなければなりません。
たとえば
「喫煙しますが、吸うタイミングや場所をきちんとわきまえられるので、大丈夫です」
といった感じです。
また社会の嫌煙の流れもあり、「この転職を機に禁煙します!」と勢いよく宣言するのはいいのですが、禁煙が非常に難しいのは事実で、禁煙を公言してもなかなかできない人がたくさんいます。
年代的に有言実行が求められますから、軽口を叩く人だと訝しく思われないように、言葉に責任を持って発言してください。
事例の前提となる人についての情報
37歳男性、大卒。
今まで2社の勤務経験あり。 今回3社目の転職で同業種・同職種(経理職)への応募。 |
NGな受け答え例
「前の職場も全面禁煙で、屋外の喫煙所に行って嗜んでおりましたので、大丈夫です。」
「ちょうど禁煙しようと思っておりましたので、御社入社時には喫煙しないで済むようにしたいと思います。」
寸評:回答としては間違っていませんが、これでは頻繁に喫煙所に行き、仕事がしょっちゅう中断するのでは?との懸念が払しょくできていません。
また本当に禁煙を実現できるのならば、これを口にするのは構いませんが、言葉に責任を持てるのか、よく判断してから発言してください。
OKな受け答え例
「はい、私は喫煙するといっても、そんなに量は多くありません。
1日に2,3本程度といったところでしょうか。
今は休憩時間や食事の時に吸うので、仕事中に喫煙することはありません。
きちんと喫煙エチケットには気を使っています。
昔はヘビースモーカーで1日に2箱など当たり前のように吸っておりました。
しかし、経済的にも負担が重くなり、健康にもよくないので、時間をかけて徐々に量を減らすように努め、今の本数まで減らしました。
正直、全く吸わないでいいようになりたいと思っていますが、なかなか。
禁煙に何度か挑戦しましたが、全て失敗に終わりました。
それなので、いきなり全部やめるのではなく、減らしていこうと思います。」
寸評:ここは仕事に影響が出ないことをきちんとPRすることが最優先事項です。
これに加えて、禁煙や減煙、節煙の取り組みやその成果を語るとより効果的です。
ここも若手だろうが中高年だろうが、回答ポイントは同じです。
ここで自分の好き勝手な額を述べたら、よくないことは言わずもがなです。
ただし、この年代でも転職経験が少ない場合、このルールを知らない人がいますので、注意してください。
まずここは現職(前職)と応募企業の仕事内容やポジション、求められる役割などを比較して適正に算出する必要があります。
また、求人情報の中にきちんとターゲットプライス(例.年俸:400万円~700万円)が表記されている場合、この範囲で答えることが必須になります。
そして、なぜその金額を希望するのか、明確な理由説明が一番重要になります。
たとえば、現状が年収600万円で希望年収を720万円とした場合、なぜその120万円の差が出てくるのか、その理由を明確に語ってほしいと思っています。
このマネジメントに該当するのが、月額10万円で前職の課長手当を参考に算出しました」
というように、きちんと客観的な根拠を示して説明してほしいと思っています。
一方で、「御社の規定に従います」の一点張りの方がいらっしゃいますが、謙遜はいりません。
ここは回答を放棄しないで、理路整然と自己主張しなければなりません。
事例の前提となる人についての情報
39歳男性、大卒。
現在まで新卒入社した1社にて勤務経験あり。 今回は2社目の転職で同業種・同職種への応募。 |
NGな受け答え例
「現職ではちょうど年俸600万円でしたので、同じ額を頂戴できればと思います。」
「雇っていただけるのでしたら、いくらでも構いません。」
寸評:なぜ現状と同じ額なのか、その説明が必要になります。
また、入社を懇願した上に回答を放棄するような回答ではなく、きちんと自分の意見を伝えてください。
OKな受け答え例
「はい、できれば現職並みの金額をいただければと思います。
現年俸650万円で、固定給は30万円で夏冬のボーナスがそれぞれ2か月分の合計480万円、170万円が成果給です。
固定部分はそのままスライドさせていただき、今回は営業所長職ということで、所員16名の管理がメインとなり、今までの課長職よりもさらに重責を担うことから、これを現職の成果給に該当する部分として、見ていただければと思います。
求人情報に掲載されていた600万円~800万円にちょうどあてはまることもあり、この金額を提示させていただきます。
ただ、まだ御社に対して何も貢献できていませんし、私は御社のこの所長職で働きたい気持ちが強いものですから、御社の意向にも柔軟に対応させていただければと思います。」
寸評:ざっくりと希望金額を伝えるよりも、詳細に算出根拠を語る方が、説得力が出ます。
また希望金額に固執しないで柔軟に受け入れる姿勢を伝えることは非常に大切です。
第16回「中高年の面接対策16~急な残業・出向について~」 へ続く
転職コンサルタント(中谷充宏)講師プロフィール
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