42歳男性、大卒。
新卒入社した運搬機メーカー会社1社に勤務。
今回は初めての転職で同業業種メーカーの同職種(マーケティング職)への応募。
これは同じ業界内で転職する場合の頻出質問です。
中高年に限らず、現職(前職)を貶めて応募企業を持ち上げる、という回答をする方が多いです。
しかし、現職(前職)を悪く言うのは褒められる話ではありませんし、応募企業に過剰な期待を抱くのも、実態をわかっていないと見限られること必至です。
特に大人の対応が求められる中高年がこれをやると、確実に面接官の心証が悪くなりますので注意してください。
ここは中高年だからこそ、事前に業界研究・企業研究をしっかりと行っていることが大前提になります。
長年この業界で働いてきたのですから、企業ホームページや求人情報に掲載されている情報だけでなく、今まで築き上げた人脈や取引先、セミナーなどのアナログ情報を駆使して、この違いに触れていくとより訴求力が高まります。
たとえば
「違いですが、まず主製品のシェアから見ると、定番のA領域製品では前職はシェア30%強と業界トップですが、一方で新分野のB領域製品は御社の方がシェアは上です。」
と数字を用いるなどして、自身の分析を展開するなどし、
「先日の日本○○工業会主催の講演で会長が、B領域が唯一の成長分野である旨の発言をされておりましたが、私が考えるこの一連の動向は、御社は増加の一途を辿るシニア層にいち早く注目して・・・」
と講演会参加などの実体験を交えて持論を話すと調査・研究の成果を伝えることができます。
事例の前提となる人についての情報 42歳男性、大卒。 |
NGな受け答え例
「前職は社長を含め経営幹部が、社内政治に必死でお客様や社員の方を向いておりませんでしたが、その点御社は~」
「前社と御社の一番の違いは、規模です。売り上げや従業員数などを比較すると、前社は御社のおおよそ3分の1の規模でした。」
寸評:たとえ事実だったとしても、現職(前職)の誹謗中傷とみなされる発言は絶対に止めておきましょう。
また、ホームページに載っているレベルの情報提供だけではなく、この後に自分の考察や意見を述べるようにしてください。
OKな受け答え例
「はい、前職も御社も同じ業界で日本のみならず世界でシェア争いをする2社になりますが、私は特に海外での販売戦略において双方に大きな違いがあると見ています。
前職では北米並びにヨーロッパでの長年の営業活動が実り、地元メーカーと肩を並べる信頼性やブランド力を保持しています。
一方、御社は後発組で体力的にも劣るために、当時は海外進出に非常に慎重だったと聞いております。
しかし、斜陽市場の日本に執着していても成長はないと、今後の経済発展を予測して、1990年代に他社に先駆けてインドへの進出を決断し、インドでの販売活動に集中したのが、現在の御社の成長の礎になっていると考えます。
年初の業界新聞にて御社社長のインタビューを拝見しましたが、大手と違い資金力も人材も劣る当社は「選択と集中」を今以上に徹底してやっていく、とのことでした。
このように欧米でフルラインナップ化を展開し、新興国への進出に出遅れた前職と新興国でニッチトップを目指す御社とは、同じ日系メーカーであっても海外戦略が違うと認識しています。」
寸評:中高年ゆえにマクロ的な観点から両社の海外の販売戦略に焦点を当てて、その違いを鮮明にしています。
また業界新聞の記事など調査・研究してきた成果が垣間見られます。
ここで中高年が夢物語を声高に伝えても、面接官に響かないのはおわかりでしょう。
中高年ゆえに、職業人としての後半戦のキャリアをどう設計するか、を現実的な路線に沿って回答しなければなりません。
だからここは応募企業の求める人材像とキャリアプランがしっかりとマッチしていることが最重要です。
応募企業は、若手育成、技術承継、事業立て直し、販路拡大など、中高年の豊富な経験やスキルがまさしく活かせる業務遂行をお願いしたいと思っているのに、これらとは関連しない他の話を延々と展開しても、的外れなだけです。
たとえば、43歳の応募者が管理職として若手育成を期待されているのであれば、
「私の定年までの残りの職業人生については、自分の任務遂行に全力を尽くすのはもちろんのこと、この世界に通用する一人でも多くの立派な社員を育て上げられるように、約20年以上ここで培ってきたノウハウを惜しみなくどんどん若手に伝承していきたいと考えています。」
というような表現だとベストでしょう。
また今回の応募ポスト以上のことを何の根拠もなく軽々しく口にするのも、謹んでおくべきでしょう。
たとえば、「ゆくゆくは御社で役員になりたいと思います。」と話したとしても、そのポストで何をしたいのか、なぜそのポストでないとダメなのか、を具体的に説明しないと、単なる上昇志向、自己主張が強い人と見限られてしまいます。
事例の前提となる人についての情報 45歳男性、大卒。 |
NGな受け答え例
「今は先の話よりも、とりあえず再就職を決めるのが当面の目的でして、まずは御社でしっかりと働くことが私のキャリアプランです。」
「私は転職する以上は御社で役員クラスまで上り詰めたいと思っています。この目標を達成するために着実に実績を積んでいきたいと思います。」
寸評:ここで切羽詰まった様子を伝える必要はありません。
また単に自分の想いを達成する話だけでは、地に足がついておらず、自己主張が強いと思われるだけです。
OKな受け答え例
「はい、まず私は60歳定年までの残り約15年を見通した時、まず管理職としてマネジメントスキルをもっと高める必要があると考えております。
前職では10年前に課長職に、そして年前に次長職へ昇格しましたが、就任当時は試行錯誤の連続で、4年前くらいからやっと自分のやり方が見えてきて、自信が持ってチームを引率できるようになってきました。
今回の部長職は、直接部下を持たずに課長を取りまとめることが求められていますが、中間管理職の辛さは私も身に染みていますので、課長達の目線に立って自分の経験を交えながら、しっかりとフォローして、私が預かる部全体のチーム力を最大化したいと思っています。
そして、ここでしっかりと結果を出して、最終的には、もう一つ上の組織体である、事業部全体を見ることができるような立場に就いて、事業部の更なる発展・拡大と部長、課長を含めた後輩管理職の育成・指導に尽力できればと考えています。」
寸評:時系列で回答を構成することによって、説得性のある話になっています。
現応募ポストから最終的なゴールまでの流れも軽くなくてスムーズで、面接官もすんなり受け入れてくれることでしょう。
単なる思いつきレベルの話を、いくら熱く語ったところで、いい年をした中高年は評価されません。
応募するポジションにて達成の可能性が高い内容であることが絶対条件。
特に中高年向けの求人では、ポストや役割、任務が明確なケースが多いわけですから、 事前の「企業研究」「実際の仕事内容についての調査」に基づいた、現実的な内容での受け答えが求められます。
たとえば、「ITセールスマネージャー」職への応募であるなら、受け答え例としては
「御社のメインシステムは現在、業界シェア4%と低迷しているようですが、これを3年間で8%の2倍に引き上げたいです。そのためには、アフターサービスの充実が鍵だと思いますので技術サポート部を巻き込んで・・・」
というようになります。
応募職種で求められている任務に焦点を当て、かつ期間や数値目標、目標達成のための具体的な取り組みにまで触れることで、リアルな期待感を抱いてもらえるわけです。
これに加えて、事前の企業研究により応募先企業が扱う製品の強み・弱みやライバル製品の動向、具体的なターゲット等についてきちんと把握しておけば、細かいところに突っ込まれたとしても、まず慌てることは無いでしょう。
更に言いますと、前職までの経験をどのように活かすのか、についてもプラスできれば完璧です。
たとえば、
「なお、前職では営業・技術サポート・システム開発の連携を推進・徹底させることで、業務効率の大幅な向上と顧客満足度アップを図っておりました。そのノウハウを是非とも、御社での業務にも役立てたいと思っております」
というように締めれば、面接官も納得するに違いありません。
事例の前提となる人についての情報 38歳男性、大卒。 |
NGな受け答え例
「前職での主業務でもありました「社内のコンプライアンス遵守」に取り組んでいきたいと思っております。」
「まずは会社から与えられた任務遂行に集中し、その中で課題の発見・解決に励んでいきたいと考えます。」
寸評:前者の回答、悪いわけではありません。
但し、今回の応募先でこの業務が重要視されているのかは確認しておく必要があります。
後者ですが、入社してみなければ分からない、と受け取られかねない言い方はNGです。
OKな受け答え例
「はい、私が御社でやってみたいことは、社内システム刷新も含めた業務フローの見直しです。
先日の御社の会社説明会でも、社内システムが老朽化していて、部署ごとにダブル入力するなどの無駄が多い旨を執行役員様が申しておりました。
前職では、顧客管理から生産管理、経理まで全ての工程に連動する大規模な基幹システム導入の責任者を任されておりました。
今までは部署ごとに独立したシステムを使っていましたので、全てを連動させるには、部署間の協力が必須でした。」しかし、顧客管理のような上流工程ほど入力作業が重くなることが判明し、抵抗があって前に進みませんでした。
そこで私はシステム導入後に下位工程の予算の一部を上流に回すことを、プロジェクト長と関係部署に提案し、承諾いただき、無事導入にこぎつけた経験があります。この貴重な経験を活かして、ぜひこれに取り組んでみたいと思います。」
寸評:今、応募企業が直面している経営課題に焦点を当て、応募職種の立場から、自身の経験を活用することでその課題を解決していきたい、という論法であれば、入社後の期待感と具現性を感じ取ることができます。
中高年ゆえに夢を聞かれたからといって、妄想的な話をしても、的外れなのはおわかりでしょう。
面接では「当社に入社したら、仕事上で叶えたい夢は何ですか?」ということを聞いています。
だから、ここは「応募企業」での「仕事上で達成したい夢」の2つの要素を必ず盛り込まなければなりません。
もちろん、プライベートな夢は論外です。
また上記2つの要素を満たしていたとしても、即戦力が求められている中高年ですから、現実とあまりにかけ離れた内容(たとえば親会社からの天下り社員が経営を支配している企業に対して、“役員になるのが夢”的な発言など)では、面接官は当社のことをきちんと調べてきたのか、と違和感を抱くことでしょう。
将来がある若手ならば多少荒唐無稽な夢物語でも受け入れられますが、中高年の場合はNGです。
だから、ここは応募職種に関連した意欲的な話を伝えるのがよいでしょう。
たとえば、
「御社の恵まれた設備をフル活用し、制御基盤の技術開発職として、今まで16年培ってきた技術力に更なる磨きをかけつつ、制御基盤の技術では10年でも追いつけない、と言われるくらい、他社と圧倒的な差をつけるのが夢です。」
というように、自身の業務をベースにしていれば、多少オーバーな表現でも受け入れてくれるでしょう。
事例の前提となる人についての情報 38歳男性、大卒。 |
NGな受け答え例
「今回の課長職からどんどんステップアップして、役執行役員でも構いませんから、最終的には経営の一翼を担う人間になりたいと思います。」
「失業期間がもう半年になっていますので、今の私の夢は、まず御社に入社して商品企画職で働くことです。」
寸評:なぜ執行役員なのか、なぜ経営参画したいのか、この後にフォローが必要です。またあまりに切羽詰った回答では、面接官もよく思いません。
OKな受け答え例
「はい、私の夢は、孫の代になっても御社が存続・発展するような経営システムの構築に貢献することです。
そのためには今から持続可能な経営環境を整え、あらゆる準備をしておかなければなりません。
あの大震災以降、事業継続計画策定が注目されましたが、これに携わった前職の経験から言わせていただくと、単に計画を策定するだけではダメで、定期的にメンテ・運用が大切になりますし、突発的な緊急事態が発生した場合の対応方法について社員への周知徹底といった人材教育も必要です。
某テーマパークのように震災時の従業員の的確で俊敏な対応が広く報道されたために、会社が非常に高い評価を受けて、最高益につながったところもありますし、逆に準備不足で潰れてしまった会社もたくさんあります。
バックオフィス業務でなかなか目に見えない貢献がしにくい業務ですが、当職に就いた暁には、この礎をしっかりと築いていきたいと思います。」
寸評:単なる一兵卒ではなく中間層以上の任務を期待されている中高年ゆえに、自身の経験から経営の根幹に関わる分野に話を展開していくのは、非常に効果的です。
特に会社の業績アップや廃業に関わる内容は、面接官も敏感ですので、具体的事例を用いて話すとよりPRが強くなります。
職業人として折り返し地点の前後にいる中高年が、過去を振り返りつつも、残りの職業人生のファーストステップをどう歩み出すのか、を現実的な話として聞きたいと思っています。
またキャリアを重ねた中高年ですから、5年という期間があれば、一体どれくらいのことができるのか、という具体的な線から、その計画性や実現可能性の有無をチェックしたいと思っています。
たとえば、
「5年後には私は御社の財務戦略を担う人材になりたいと思います。
そのためには、まず第一段階として御社のお金の流れをしっかりと掴みつつ、経営環境を把握したうえで、メインバンクを含めた金融機関との信頼関係構築に努めたいと思います。
そして、次のステップとして4年目になると決算を3度経験していることになりますから・・・」
というように、なっていたいイメージに対して、1年目、2年目、最終年度と、時系列に落とし込んで回答すると、面接官に計画性がある旨がわかりやすく伝わります。
なお、このように将来について尋ねる質問については、「応募企業」での「仕事上で達成したい夢」の2つの要素を盛り込むのは必須です。
これに時間軸を用いて話すことが求められます。
この質問も応募者の目指すべき方向と応募企業の方向に食い違いがないかを確認していますので、絶対にズレないように注意してください。
事例の前提となる人についての情報 44歳男性、大卒。 |
NGな受け答え例
「あくまで願望ですが、5年後は50代目前なので、年相応の地位に就いていたいと思います。」
「5年後であっても私は今と変わらず、無理することなくマイペースで仕事をこなしていたいと思います。」
寸評:根拠を伴わない単なる願望は、ここではふさわしくありません。
また、自己本位ととられるような発言は、差し控えておきましょう。
OKな受け答え例
「はい、5年後だと私の販売職の経験が約27年となります。
前職では約9年間、店長職といえども、自身も数字を持つプレイングマネージャーとして、店舗販売業務と店舗管理業務の両方の任務をこなしており、退職前5年間は特に人材育成にも注力しました。
だから、御社販売社員に対しては、本物の販売のプロになってもらうために、私が培ってきた販売ノウハウを部下にどんどん承継していきたいと思います。
前職の育成経験から、私の店に3年預けていただければ、どんなに売れない社員であっても一人前の販売員に育て上げる自信があります。
その中から、残り2年で店長にふさわしい人材に仕立て上げ、将来の幹部候補にまで育て上げていきたいと思います。
それなので、5年後には、店長職、スーパーバイザー職にこだわらず、販売員を育て上げることができる育成・指導関係のポジションに就けていれば、一番力を発揮でき、やりがいと感じることができると考えます。」
寸評:過去の経験に基づいて、5年あれば御社で具体的に何ができるか、を語ると、非常に説得力が出ます。
それも5年という期間を丸めて考えるのではなく、期間を分解してステップを踏んでいく説明ですと、より具体性が出てわかりやすくなります。
転職コンサルタント(中谷充宏)講師プロフィール
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