作業療法士は病気や怪我、精神疾患、発達障害の方の自立を促し、日常生活動作や運動機能のリハビリを行う医療専門職です。
作業療法士は他の医療職に比べ、給与や年収が低いと言われることもあり、収入面について気になる方も多いかと思います。
そこで今回は作業療法士の年収を中心に紹介し、年収アップの方法も解説します。
これから作業療法士を目指す方も、年収アップを目指して転職を考えている方も、本記事を参考にキャリアについて検討しましょう。
作業療法士の初任給を把握するには、令和4年賃金構造基本統計調査の年齢区分で20~24歳が参考になります。
20~24歳は専門学校卒と大学卒の就職年齢となるため、初任給とほぼ同水準です。
データによると、作業療法士の初任給は25万2,300円となります。他の医療職の初任給と比較すると以下の通りです。
職種 | 20~24歳の給与平均 |
---|---|
作業療法士(PT、ST等含む) | 25万2,300円 |
薬剤師 | 31万6,400円 |
看護師 | 29万5,100円 |
診療放射線技師 | 27万1,700円 |
臨床検査技師 | 23万3,000円 |
歯科衛生士 | 24万4,200円 |
歯科技工士 | 22万5,800円 |
栄養士 | 22万2,100円 |
その他の保健医療従事者 | 25万9,200円 |
作業療法士の初任給は他の医療職ともほぼ同じ水準となっており、初任給が低いことはありません。
参照:e-Stat『令和4年賃金構造基本統計調査 表番号5 職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)』
作業療法士の年収について詳しく知るために、年齢別の年収や施設規模別の年収も解説します。
作業療法士の年齢層別平均年収は次の通りです。
年齢層 | 平均年収 |
---|---|
20~24歳 | 335万7,800円 |
25~29歳 | 392万400円 |
30~34歳 | 421万4,100円 |
35~39歳 | 455万4,900円 |
40~44歳 | 497万5,800円 |
45~49歳 | 517万9,900円 |
50~54歳 | 515万400円 |
55~59歳 | 570万1,800円 |
60~64歳 | 462万8,300円 |
65~69歳 | 466万9,400円 |
作業療法士の平均年収は55~59歳をピークに、60代以降は下がっていきます。40代以上の方は現場経験が豊富で、管理職になることもあるため平均年収も高めです。
次に、施設規模による年齢別の平均年収もみていきます。
年齢層 | 10~99人 | 100~999人 | 1,000人以上 |
---|---|---|---|
20~24歳 | 323万3,900円 | 328万4,300円 | 365万4,200円 |
25~29歳 | 372万9,900円 | 384万4,600円 | 424万9,200円 |
30~34歳 | 407万円 | 417万1,000円 | 446万5,500円 |
35~39歳 | 441万5,200円 | 439万5,400円 | 532万7,000円 |
40~44歳 | 490万2,000円 | 482万1,200円 | 546万2,600円 |
45~49歳 | 520万円 | 499万5,800円 | 564万3,300円 |
50~54歳 | 463万1,000円 | 493万7,300円 | 617万2,200円 |
55~59歳 | 456万800円 | 571万7,800円 | 753万2,200円 |
60~64歳 | 419万円 | 508万600円 | 359万800円 |
65~69歳 | 543万400円 | 467万1,400円 | 374万1,300円 |
施設規模が大きくなるほど昇給幅と賞与が大きくなり、1,000人以上の大規模医療施設では平均年収750万円という結果でした。また、大規模施設では高額な資格手当がつきやすいことと、キャリアアップによる昇給も影響しているようです。
一方、大規模施設は定年退職で年収が下がりやすいため、定年後の年収は小規模・中規模施設の方が上回ります。定年後も一定の年収を求める場合、中規模以下の施設に転職する選択肢も検討しましょう。
作業療法士の給与相場について、医療施設や介護施設など施設別にご紹介します。
医療施設は作業療法士が勤務する定番の職場です。給与は施設規模によってさまざまですが、転職の場合は月給25~30万円が相場です。
時給換算で2,000円前後の医療施設が多いため、目安にするとよいでしょう。医療施設は倒産の心配がほとんどなく、収入の安定性も高いため、長く働きたい方にはおすすめです。
年齢や経験年数、資格によって高収入も得やすく、キャリアアップを目指したい方にも向いています。
介護施設は主にデイサービスや入居中の高齢者を対象に、生活動作の訓練を行う仕事になります。転職後の給与は20~25万円が相場で、時給換算で1,300~2,000円が一般的です。
医療施設に比べると固定業務が多く、一人ひとりに時間をかけてリハビリを行うことから、体力が必要になります。その分昇給しやすい施設も多く、年収500万円を超える介護施設も珍しくありません。
ただし、医療施設にくらべてスキルアップの機会は少ないため、自分からセミナーや講習に参加する積極性が必要になります。
福祉施設の作業療法士は、精神・身体障害を抱える方や発達障害を持つ子供を対象に、社会性の発達や自立を促進するのが仕事です。福祉施設は自治体やNPO法人などの非営利団体が運営しています。
給与相場は運営主体によって大きな差はありますが、月給20~25万円程度が相場です。一方で、時給3,000円を超える職場もあり、職場選びが重要になります。
社会性の発達と自立を促すため、障害を持つ人との接し方に慣れている人と、粘り強く利用者と関わっていける人に向いた職場です。
医療施設以外で高収入を目指すなら、訪問看護ステーションなどに併設された訪問リハビリもおすすめです。訪問リハビリは在宅で利用者のリハビリを行い、ADLの回復を目指すのが目的です。
訪問リハビリは訪問1件あたりの単価が高いため、作業療法士の給与も高く設定されています。訪問の特性上、給与は時給で換算するのが基本で、時給3,000円以上の訪問リハビリ求人もたくさん出ています。
自動車免許が必要になるケースがほとんどですが、医療施設以上の給与も期待できる職場です。
なぜ作業療法士の年収が低いと言われているのか、その具体的な理由を4つのポイントで解説します。
作業療法士の年収が低いと言われる一因には、有資格者数の増加が挙げられます。日本作業療法士会の統計資料によると、2020年3月31日時点で有資格者数は9万4255人です。
年4,000~5,000人のペースで作業療法士は増加しており、全国の施設で働いています。しかし、作業療法士の人数に対して需要は少なく、有資格者としての希少性も下がっています。(*)
専門性に特化することで差別化できますが、増加のペースが早すぎるため、スキルアップできる職場が見つかりにくいことも課題と言えるでしょう。
*参照:日本作業療法士協会『2019年度 日本作業療法士協会会員統計資料』
作業療法士は医療施設のリハビリテーション科に所属し、基本的に平日日中の勤務しかありません。そのため、他の医療職のような夜勤がなく、各種手当が発生しません。
また、リハビリは対象となる患者さまの活動時間に行うため、夜間にリハビリを行う施設はまずありません。まれに早番や遅番を組み込んだ職場はありますが、手当にはつながらないため、作業療法士の給与は安いとされています。
リハビリテーション科の場合、業務管理を行うのは科長、現場責任者は主任になります。そのため、作業療法士は少ない管理職の枠を取り合う形になり、昇進しにくいことも年収に影響しています。
看護師の場合は、各病棟に師長と主任が配置されるため、キャリアアップのチャンスも豊富ですから、その違いも作業療法士の給与に影響していると考えてよいでしょう。
また、医療施設の就業規則によっては、リーダーや主任になっても給与は変わらないケースもあります。
作業療法士の給与は診療報酬の影響が受けやすく、医療保険や介護保険の区分の違いでリハビリテーション料も変わります。そもそも、リハビリは機能回復を目的に行うものであり、リハビリを行った回数分だけ無制限に費用を請求できるわけではありません。
たとえば、標準算定日数を超えてしまえば、超えた日数分のリハビリテーション料は病院の負担になります。作業療法士は報酬の単価が低い分回転率が重要になるため、医療・介護施設で重要視されないこともあります。
近年は高齢者数の増加によって国の医療費負担が大きくなっていることも、診療報酬に影響を与えている可能性も否定できません。
作業療法士の年収の推移から今後の年収を予測します。2013年から2022年までの過去10年間の作業療法士の平均年収の推移は、次の通りです。
平均年収 | |
---|---|
2013年 | 383万9,000円 |
2014年 | 389万7,400円 |
2015年 | 404万7,900円 |
2016年 | 406万9,600円 |
2017年 | 404万9,100円 |
2018年 | 408万4,600円 |
2019年 | 409万6,400円 |
2020年 | 418万9,400円 |
2021年 | 426万5,400円 |
2022年 | 430万6,800円 |
10年間で平均年収は12%増加しており、平均で毎年1%ずつ上昇しています。増加幅は小さいですが、ほぼ毎年昇給している状況です。
そのため、現時点では作業療法士の給与は低いと言われていても、今後は一般的な評価が覆る可能性は十分にあります。
参照:e-Sta『統計表・グラフ表示 賃金構造基本統計調査 2013年~2019年「賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種」』
作業療法士として働く以上、満足のいく給与をもらうことは仕事へのモチベーションになります。本項では作業療法士が年収をアップするための4つの方法をご紹介します。
作業療法士資格に付加価値をつけることで、年収アップにつなげられます。現場で働くスペシャリストになるなら認定作業療法士、リハビリ部門を統括するジェネラリストになるなら専門作業療法士を取得しましょう。
ほかにも、理学療法士とのダブルライセンスで活躍すれば、キャリアアップへの道が開けます。
また、訪問リハビリで働く作業療法士の場合、介護支援専門員(ケアマネジャー)を取得する方もいます。働く場所に応じて資格を取得し、資格手当とキャリアアップで年収の向上を目指しましょう。
現在の職場で転職せず、長く勤めることでキャリアアップする方法も年収アップに効果的です。淡々と日常業務をこなすだけでは昇進は難しいですが、スキルアップすることでリーダーや主任を任されるようになります。
また、長く経験を積むことで若手への指導を行い、上司や同僚と良好な関係を築ければ、周囲の評価も上がって昇進が期待できます。年収アップのために転職する方法だけでなく、1つの職場で一生懸命働くことも有効な方法です。
現在の職場では給与が安く、キャリアアップも望めない場合、好待遇の職場に転職する方法もおすすめです。作業療法士の就業先は医療施設だけでなく、介護施設、福祉施設、訪問リハビリ、特別支援学校、地域包括支援センターなど多岐にわたります。
現在の職場に将来性がないと感じたときは、自分を必要としてくれる場所に転職しましょう。本当に作業療法士を必要としている職場なら、給与や労働条件で交渉もしやすく、働きやすい環境を用意してもらえます。
作業療法士の働く領域は、身体障害領域・精神障害領域・老年期障害領域・発達障害領域の4つに分類できます。作業療法士はそれぞれ違った専門性を持ちますが、別の領域に活躍の場を広げると選べる仕事が大幅に増えます。
専門領域の幅を広げるほど年収アップのチャンスも増えますから、さまざまな領域について学びましょう。特に日本は高齢化が進んでいるため、老年期障害領域のリハビリ施設が増えています。
活躍できる領域を増やし、自分の視野を広げるよう努めましょう。
結論から述べると、作業療法士の仕事だけで年収1,000万円に到達するのは限りなく難しいです。平均年収なら従業員数1,000人以上の大規模病院は、50代で700万円を超えることはできます。
しかし、年収1,000万円を超えるには通常の管理職ではなく、病院の経営層や執行役員、大学教授にならなければ難しいでしょう。
そのほかの手段として、研修会や講演会、学校の講師として出演し、報酬を受け取る方法もあります。独立開業の場合も、単独の事業所だけで年収1,000万円は厳しいため、複数店舗を展開して事業拡大が必須になります。
そのため、作業療法士の仕事だけでなく、副業の収入と合わせて年収1,000万円を目指すほうが現実的です。
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医療専門職としてスキルアップも必須ですから、自分がどんなキャリアを描きたいか中長期で計画を立てましょう。現在の職場でキャリアアップが難しい場合、転職してキャリアアップする方法もあります。
自分がどんな作業療法士になりたいか、将来はどんな仕事をしたいか考え、日頃の業務でも学び続けましょう。