司法書士の資格試験は難関と言われています。なにより問われる知識の量が11科目と膨大です。
そのため最初の勉強方針を間違うと、数年越しの受験となって苦しむ人も多いようです。しかし、11科目はすべてが独立しているわけではありません。関連性のある科目を効率よく勉強するとともに、過去問や答練を上手に利用することで合格の道筋が見えてきます。
この記事では司法書士試験に合格するための勉強方法を調査し、その結果をまとめています。
また司法書士試験の特徴からみえる、合格までに必要な勉強時間、間違った勉強法についても解説しています。これから司法書士試験に挑む人は、ぜひ参考にしてみてください。
司法書士は市民にとって身近な「くらしの中の法律家」と言われています。不動産登記や成年後見業務から裁判業務にまで重要な仕事に関わります。
したがって、司法書士になるためには法律の幅広い知識が求められることになります。
司法書士の勉強法を考えるにあたって、まずは司法書士試験の仕組みを知っておきましょう。
司法書士試験は大きく筆記試験(1次試験)と口述試験(2次試験)に分かれます。
ただし筆記試験に合格すれば、(よほど問題のある態度をとらない限りは)ほとんどの人が口述試験を通過することができるといわれています。そのため司法書士試験の勉強をする場合は、まず筆記試験対策に的を絞るのが適切と考えられます。
筆記試験は午前の部、午後の部に分かれています。
午前の部
科目 | 五肢択一式 | 配点 |
---|---|---|
憲法 | 3問 | 全35問(105点満点) |
民法 | 20問 | |
商法(会社法含む) | 9問 | |
刑法 | 3問 |
全35問(105点満点)のうち、民法が20問出題と大きな割合を占めているのが分かります。
午後の部
科目 | 五肢択一式 | 記述式 | 配点 |
---|---|---|---|
不動産登記法 | 16問 | 1問 |
|
商業(法人)登記法 | 8問 | 1問 | |
供託法 | 3問 | - | |
民事訴訟法 | 5問 | - | |
民事執行法 | 1問 | - | |
民事保全法 | 1問 | - | |
司法書士法 | 1問 | - |
午後の選択式問題(105点満点)では35問中16問を占める不動産登記法が重要科目になります。
さらに午後の部の「不動産登記法」と「商業登記法」については記述式問題も1ずつ出題されます。記述式は2問で70点満点になります。
これらの情報を総合的に考えると、11科目ある筆記試験の中で民法、不動産登記法は特に勉強における優先度が高いことが分かります。
次いで問題数の多い商法(会社法)と商業登記法も重要科目です。この4科目は司法書士試験における主要4科目と言われており、一方で他の7科目をマイナー科目と呼ぶことがあります。
では、配点率の高い4科目に集中してマイナー7科目を捨てても良いのかというと、そうでもありません。
司法書士試験の合格基準は特殊であり、次の4つの基準をクリアして初めて合格となるからです。
まずは1,2,3のどれか1つでも満たさないと、それだけで不合格になってしまいます。極端な話、午後の部記述試験が0点なら他の試験が満点でも不合格ということです。
基準点は毎年変動するので、明確な目標得点を想定することができません。過去4年間の合格基準点は1で105点中約70点台、2で105点中約70~60点台、3で70点中約30点台を推移しています。一方4の総合点については200点前後といったところです。例年1,2,3の基準点合計と総合合格基準点の間には、約20~25点程度の開きがあります。
主要科目だけに集中すると、各分野での基準点が満たせなかったり、基準点を満たしたとしても総合合格点まで数点届かないという悔しい思いをすることになるかもしれません。
そこで主要4科目に集中しつつも、11科目全体をおろそかにしない勉強法を考えていく必要があります。
司法書士試験は合格率が3~4%しかない難関試験です。とはいえ、司法書士試験には受験資格の制限がありませんから、受験者が法学部出身者である必要はありません。
実際、合格者体験談の中には法律とは無縁の仕事をしていた初心者の立場から合格を手にした人がたくさん登場します。
LEC2019年口述模擬試験アンケートによりますと、合格者のうち法学部出身者(法科大学院出身者)は46%、それ以外の学部出身者(大学未進学者・出身学部不明者を含む)は54%となっています。法学部出身者以上に他学部出身者の割合が多くなっていることが分かりますね。
データ引用元:「司法書士試験 合格者データ」https://www.lec-jp.com/shoshi/about/shiken_data.html
この結果からも、司法書士は法律の予備知識がなくても挑戦できる資格であることがわかります。
司法書士試験に合格するための勉強時間は、予備校などに通ったうえで最低3,000時間必要と言われています。もちろん法律の初心者かどうか、どのぐらい効率的に勉強しているかなど個人差があるため、この勉強時間が絶対的な基準とはなりません。受験のポイントを抑えた勉強ができているならば、3,000時間以下で合格が可能になることもあるでしょう。
ただし勉強時間3,000時間を想定しておくことは、これから学習スケジュールを立てていくうえで有意義だと思われます。
ここからは3,000時間を1つの目安にしたうえで、具体的な勉強期間を考察していきます。
難関である司法書士試験には、仕事を辞め、専業受験生として臨む人もいます。
仕事がない状態ですと、1日8時間勉強することも可能でしょう。このペースで週6日のスケジュールを組み勉強するなら、1年(8時間×6日×4週×12ヶ月)で2304時間の勉強時間が確保できます。3,000時間を目安とするなら、1年~2年の間に合格を目指せるということです。ただし専業受験生の場合、時間に余裕がある分だらだらとした生活にならないように注意が必要です。
大切な受験までに、生活のペースが乱れないように気を付けてください。
社会人(仕事をしている人)の場合は、仕事帰りと休日を利用した勉強になります。残業無しで午後6時ごろに帰宅できたとして、平日は3時間程度、休日は8時間程度勉強するとしましょう。
すると、1年(1週間に31時間×4週×12ヶ月)で1488時間が確保できます。2年と少しあれば合格を目指すことができる計算です。
とはいえ、これは理想の数値です。現実には残業や休日出勤などの可能性があるでしょう。社会人で合格を目指す場合は、休み時間や通勤時間などのスキマ時間を上手く利用して勉強時間を確保していくことを考えてください。
仕事で疲れた帰宅後ではなく、頭がはっきりしている早朝に勉強時間を持ってくるという工夫もできます。社会人の場合は、時間よりも質を優先した勉強を行うことを意識しましょう。
LECの2018年度アンケート調査によると、試験に合格した人の受験回数で最も多かったのは5回以上(50.5%)でした。次いで、3回(15.5%)となっています。受験期間としては3年以上かかる人が多いということです。
この結果からも、3,000時間という勉強時間は短期間で合格した人の勉強時間であることが分かります。司法書士受験をする時は、数年間の受験期間を覚悟しなければならないかもしれません。
とはいえ、最初から数年越しの受験を想定したスケジュールを組むのは短期合格の意欲をそいでしまう可能性があります。
結果、ダラダラと勉強期間を費やすことになっては本末転倒です。短期合格したいなら、最初から勉強時間3,000時間内に合格することを目標にしましょう。
データ引用元:https://www.lec-jp.com/shoshi/about/shiken_data.html
合格者体験談から、勉強時間を想定する方法もあります。子育て中か、何歳なのか、法律に関する業務経験はあるのか…専業受験生か、社会人なのかという区別以外にも受験生には様々な属性があるでしょう。状況によってさける勉強時間が変わってくるのは当然です。
各予備校のホームページには各講座受講生の合格者体験談が掲載されています。合格者体験談をブログ形式でアップしているブロガーの方もいます。これら合格者体験談の中で、自分の状況に近い人を探してみましょう。
先輩合格者の経験を元にすることで、自分に必要な勉強時間を予想することができるのではないでしょうか。
では、司法書士試験合格を目指すための具体的な勉強方法を見ていきましょう。
司法書士の試験では、基礎知識のインプット学習をしっかり行うことが重要です。短期合格を狙いすぎて基礎を疎かにしないようにしましょう。
一口にインプットと言っても、司法書士の学習科目は11科目もあります。初心者はどこから手を付けるべきか迷ってしまうかもしれません。
司法書士試験で最初に学習する科目は、「民法」が良いといわれています。前述したように、民法は全試験中最も出題数が多い重要科目です。
また民法は別の科目にも関わってくるので、最初に知識をインプットしてしまうと後の勉強に知識が活きてきます。
民法の次には「不動産登記法」の学習を行います。民法に次いで試験出題数が多いからというのもありますが、民法と不動産登記法は関連するところが多いのです。続けて学習することで内容が理解しやすくなります。
3番目は「商法(会社法)」と「商業登記法」です。商法の知識をもとに商業棟記法を理解していくイメージです。関係が深い2科目なので、まとめて学習するのが良いでしょう。
ここまでで、主要4科目の学習ができます。
次にマイナー7科目を抑えていきます。
「憲法」&「刑法」、「民事訴訟法」&「民事執行法」&「民事保全法」はそれぞれ関連性があるので同時期に勉強した方が良いでしょう。「供託法」は「民事訴訟法」「民事執行法」「民事保全法」にかかわりがありますが、出題パターンは固定化しているので対策はそこまで難しくないといわれています。
一方で他の科目にほとんど関係がないのが「司法書士法」です。問題数は1問と少ないため、後回しにしてあまり勉強時間を割く必要はないと考えられます。
以上が望ましいとされている科目の勉強順序になります。関連のある科目をまとめてインプットしていくのが効率的です。
1つ注意点があります。科目ごとに完璧にしてから次の科目に…という勉強法はあまり望ましくありません。というのも、1つ1つ科目ごとに勉強していると、最後の科目が終わったころには最初の科目の内容を忘れてしまっているという可能性があるからです。1日の勉強時間のうち一部を新しい科目のインプットに、一部を別科目の復習に当てて複数科目を平行して勉強していくようにしましょう。
なおインプットには、受験用のテキストを買ってきて自分で進めていく方法もありますが、司法書士試験向けのテキストは種類が多く、最適なものを選びにくいかもしれません。学習段階初期で内容がコンパクトにまとまっている予備校の講義や通信講座の動画を利用することも検討してみましょう。
試験勉強においてテキストや講義の内容をノートをまとめたり、覚えていない個所を集めた弱点ノートを作った経験がある人は多いでしょう。しかし、司法書士試験勉強では、ノートを作ることには否定的な意見が多く存在します。
というのも、司法書士試験の範囲が非常に膨大なため、ノートを作るのにもかなりの労力と時間がかかってしまうからです。とくにまだ知識があやふやなインプット段階では、覚えていない部分が多いはずです。それをノートにまとめていこうとすれば、テキストを丸写しするような作業が必要になってしまいます。
またノートを作ることだけに集中してしまうと、中身を本当の意味で理解していないにもかかわらず「今日はたくさん勉強した」という錯覚が生じやすくなります。
結果「膨大な時間を費やしたにもかかわらず内容を全く覚えていない」という悲劇が起こる可能性が高いのです。
ノートを取ること自体を勉強の目的にしてはいけないということです。
しかし、ある程度学習が進んだ後に知識を振り返りやすくするためのノート作りに関しては、有意義であると言えます。例えばどうしても間違えてしまう問題だけを抜き出した弱点ノートや、テーマ別に表などを使って重要箇所をまとめたノートなどです。このようにコンパクトにまとまったノートなら、試験直前の復習にも利用することができます。
司法書士試験では、インプットの初期段階で「覚える」ためにノート作りをするのは割に合わないようです。ある程度学習が進んだあと、「なぜノートが必要なのか」という目的を持ったうえでノート作りを行うようにしましょう。
またノートを作るときはテキストや問題集の丸写しだけでなく、自分なりの言葉で解説したり、暗記しやすいような工夫をしたりすることが大事です。
なおノート作りには手書きノートよりも、追記が簡単なデジタルツールを使った方が便利かもしれません。デジタルツールなら、スマホやタブレットでどこでもノートを見たり、書いたりすることができるでしょう。
基礎知識がインプット出来たら、次はアウトプットすることで知識を確かなものにしていきましょう。
アプトプットの中心として、最優先に利用すべきはやはり過去問です。
過去問は司法書士試験の内容を知るためにとても重要な教材です。また司法書士試験では同じような内容が別の表現で繰り返し登場することがあります。過去問を勉強することが、将来の試験に繋がってきます。
司法書士試験は11科目ある上、歴史がある試験なので過去問の量も膨大になります。資格試験では数年分の過去問を繰り返し解けば充分な対策になるものもあります。ところが司法書士試験においては、過去問を10年分さかのぼるだけでは不十分と言われています。試験内容の大部分を網羅するためには、25~30年分の過去問を勉強することが求められます。
膨大な量の過去問を解くとなると、作業的な勉強になってしまうかもしれません。しかし、過去問をただただこなしていくだけでは本当の実力は身につきません。司法書士試験は試験内容の丸暗記ではなく、どうしてそうなったのか考えて解かなければ合格できない試験といわれています。過去問の問題を解くにあたって、間違えた問題や引っかかった問題は六法もしくはテキストを利用して「どうしてこの答えが正解になるのか」をしっかり確認していくことが大事です。
また問題を解きっぱなしにしないことも重要です。まず3回は繰り返して、過去問を解いてみましょう。
とはいえ、11科目×3周×30年分となるとかなりの時間と根気が必要です。いきなり30年分を解こうとするのではなく、数年ごとに区切って目標を立てていくと取り組みやすくなるでしょう。
過去問以外にもアウトプットを行う機会はあります。それは「答練」を利用することです。答練というのは、各予備校で行われる答案練習会の略称です。
予備校で予想問題を解くというと、本番形式に似せた模擬試験を思い浮かべる人もいるでしょう。模擬試験は答練の一種です。答練には他に科目別の問題が出題されたり、午前の部・午後の部に分かれていたり、論文試験に特化していたりといろいろな形式のものがあります。
過去問を使った学習に加えて答練に挑むことは、以下のようなメリットがあります。
答練に挑むメリット
司法書士試験は、合格率3~4%の難関試験です。
その背景には、午前の部、午後の部択一、午後の部記述、そして総合点にかかわる4つの合格基準点の存在があります。合格基準を満たすには、全11科目と幅広い試験内容をバランスよく学んでいかなければなりません。
11科目をバラバラに勉強しようとすると、大変な労力がかかります。効率よく勉強するには、関連性のある科目をまとめて学習していくことです。
また、新しい内容のインプットと、以前学んだ知識の復習を平行して行っていくことも大事です。
アウトプット学習には、過去問が必須です。
加えて各予備校が実施している答練に参加すれば、試験の時間配分を身に着けたり、自分の弱点を発見したりすることができるでしょう。