こんにちは、発達障害職業コンサルタントの貫井まなぶです。
今回は2回目、「自己理解(障害理解)」についてお話します。
突然ですが問題です。
障害者雇用において一番大事なもの、企業側が知っておきたいものは何でしょうか?
「あなたの志望動機?」
「あなたの仕事の経験?」
「あなたの能力?」
全て大切ですが、どれも一番大事とは言えません。一番大事なのはあなたの「障害特性」です。苦手なこと、得意なこと、一人では難しくても他者のサポートがあればできること、必要な配慮などなど。自身の障害特性を理解するためには、どれだけ自己理解(障害理解)が出来ているかがポイントです。
支援者としてお話を伺うと、苦手なことはいくつも言える方が多いのですが、得意なことや配慮して欲しいことなどを伺うと途端に返答に困る方が多く感じます。
例えば、面接のときに必ず聞かれるのが「どんな配慮が必要か?」という質問。
あなたならどう答えますか?
「特にないです」と答えた場合は、「この応募者は自分の障害理解が出来ていないのかな」と間違いなく不採用になります。一方で「マルチタスクは苦手なのでご配慮頂きたいのですが一つの仕事であれば集中してできます」などと答えられれば採用に近づきます。
自身の障害特性をしっかり答えられるか※、自己理解(障害理解)が出来ているか、ここに障害者雇用を強気で勝ち取るカギがあります。また、自身の障害特性を知っていれば、職業選択の判断材料ともなります。
※答え方、伝え方にはコツがあります「第三回目 魅せる履歴書・職務経歴書の書き方 ~発達障害特性をどう伝えるか~」でコツをお伝えします。お楽しみに。
では、第二回目「自己理解(障害理解)」についてはじめます!
自己理解(障害理解)とは、これまでの経験を振り返り、客観的に自分を見つめ直してみることです。自己理解のためには、職業経験の棚卸しや自分自身を振り返ってみることが大切です。
自己理解が出来ていないまま就職しても、結果すぐに退職に至るケースが多い。
相談を受ける中で、どうしてその会社を辞めたんですか?の問いに対して
「思っていたのと違った」
「自分の障害に対して職場の理解がなかった」
「(能力的に)自分には出来ない仕事だった」
という趣旨の返答が多い。
これらは、自己理解が出来ていればある程度は予防できるものです。
『発達障害者は客観的に自己認知して得手不得手を理解したり、人生の長期的な目標やビジョンを描いたりするのが苦手である。そのため空想的、非現実的、自己愛的な職業選択をすることがある・・・しかし、その反面、彼らの特定分野へのこだわり、興味限局傾向とひらめきを有効に生かせば、水を得た魚のように才能を開花させる可能性がある(福島学院大学 星野仁彦)』
多くの発達障害者が自身の興味関心のみで職業選択を行う、結果、自分に合えば満足感をもって仕事を継続することができるがそうでなければ興味があっても関心があっても退職に至る。
興味関心だけではない、別の2つの視点を見る必要がある。そして、この2つの視点があるかないかで自分に合った仕事を見つけられるか大きな分かれ道となる。以降は「別の視点」に関してお伝えしたい。
『個人の能力、特性と職業に求められるスキルが一致するほど個人の仕事における満足度は高くなる』(キャリア研究の第一人者フランク・パーソンズ)
フランク・パーソンズは、産業革命以降のアメリカ(ボストン)で職業指導運動に従事。その支援活動を通じて、何度も転職を繰り返す人々に注目。その転職の原因を、場当たり的な職探しが多くの失敗の原因であるとしました。
「おじいちゃん、おばあちゃんが好きだから介護職をしたい」
「音楽が好きだから音楽業界で仕事をしたい」
「子どもが好きだから保育士になりたい」
「お、この仕事面白そうだ!」
などなどと場当たり的に興味関心だけで発達障害者は仕事を選ぶ傾向がある、これが職業選択のトラップであり、発達障害者が落ちりやすいワナです。
「興味関心があるものを職業選択してもいいではないか?」
と言われそうですが、答えはNOです。
どういうことだろうか?以下事例から考えてみましょう。
事例から Aさん 20代女性 自閉スペクトラム症(ASD)
Aさんは周囲に気を配ったり、人とのコミュニケーションをしたりするのが苦手な女性。彼女が大学時代にインターン先として選んだのが介護施設。
失敗はありながらも周りのフォローがあり、どうにか任せられた業務を終えることができました。インターン中、ご年配の方から何度も「ありがとう」などとお褒めの言葉をもらい、「私は介護職が向いている」と思い就職先に介護施設を選択しました。
しかし、結果は数か月後に退職。理由は、対人コミュニケーションが難しく利用者さんから叱られることも多く、上司同僚ともうまくいかなかったからです。
Aさんの興味関心は介護職でした。理由はインターン中での「ありがとう」という利用者からの言葉に「自分はこの仕事に向いている」と思ったことからです。しかし、この介護職に必要とされた能力には「高度な対人コミュニケーション能力」が必要でした。Aさんは残念ながらその能力を持っていませんでした。
また、Aさんが大事にしている価値観としては「自分のペース」というものがありました。自分のペースを乱されることに非常にストレスを感じる方であり、業務が重なると混乱を起こしその場に立ちすくんでいました。
介護職では利用者さんや上司同僚、家族対応をお願いされることが多く、結果疲弊してしまいました。介護職に求められる能力を持っていなかったため、興味関心はあるものの退職に至っています。
このような例は非常に多くあります、例えば、可愛い服が好きで販売職を選んだ注意欠如多動症(ADHD)の女性は、ワーキングメモリ(短期記憶)の弱さから、やらなければならないことをすぐに忘れて、不注意からミスを連発。
お客さんからの電話にメモを取りつつ出られるが、自分のメモが「読解不可能」で結局用件が分からず上司に叱られる、限局性学習症(SLD)の方では給与が高いからという理由で倉庫業をやってはみるが、暗算などの算数が出来ないため、仕事が出来ずに退職に至るなどなど。
このように興味関心だけで仕事を選択するのはリスクがあります、その仕事に求められている能力は何か?自分の大事にしている価値観は何か、「興味関心」「能力」「価値観」この3つの軸を念頭に置いて職業選択をしていきましょう。
仕事は「興味関心」だけで選ばない。仕事に求められている「能力」やあなたの「価値観」に合う仕事かで判断する。
3つの軸とは「興味関心」「能力」「価値観」から構成される職業選択の指標です。この3つの全てが重なった仕事があなたに合った職種と言えます。自己理解が足りず場当たり的な仕事に就いた場合、仕事に対する満足度が低くなるかもしれません。
3つの軸から考えてみよう。料理人の写真
この料理人の「興味関心」「能力」「価値観」それぞれ考えてみましょう。
①「興味関心」は何?
②必要とされる「能力」は何?
③この料理人の考えられる「価値観」は何?
制限時間は5分です。正解はありません、あなたの感覚、イメージで構いませんので考えてみましょう。
上記のような3つの軸が考えられます。
この調理師が持っているであろう「能力」を見てみましょう。「調理師(免許)」「コミュニケーション」などと記載されています。もし、コミュニケーション能力をこの男性が持っていなかったらどうでしょうか?料理を教える中で良好な対人関係を構築するのが難しいかもしれません。
次に「価値観」を見てみましょう。「感謝される」「人の成長」などとあります。料理を教える中で「先生、上手に作れました!ありがとうございます!」と言われたり、包丁も握れなかった人が教えることでメキメキ上達すれば嬉しい、やりがいに変わるでしょう。
さて、この「興味関心」「能力」「価値観」を持った男性がある日上司から「君はもう受講者に教えなくていい、来月からは営業をやってくれ」と言われたらどうでしょうか?
この男性の3つの軸から営業は合わないかもしれません。実際に相談を受ける中でも今まで一人で仕事は出来ていたが、新人育成を任せられるようになってから仕事の環境が変わり、途端に心身ともに負荷がかかり退職に至った方もみえます。3つの軸に合った仕事かどうかがポイントです。
ここからはあなたの3つの軸を考える時間です。あなた自身の棚卸が自己理解(障害理解)を促し障害特性の理解に繋がります。今回最初にお伝えしたように障害者雇用において、採用側が一番知りたいのはあなたの「障害特性」です。しっかり答えられるように考えていきましょう。
①あなたが時間を忘れるぐらい没頭するもの、好きなことは何?(過去のことでも可)
例:小学生のころからプラモデルが好きでガンダムや城、戦艦などを作っている。
②①はなぜ没頭できる?
例:プラモのパーツを一つ一つ組み立てて、次第に形になり、最後に完成する、この流れがわくわくが止まらない。面白い。
③①から得た能力、スキルは?
例:接着と塗装から得た集中力、説明文を読むところから読解力、このパーツがどこに繋がるのかという想像力。出来るまでに時間がかかることから忍耐力や諦めない心など。
この例文の方の興味関心は以下のように考えることができる。
・プラモづくり
・無から有をつくる
・複雑に入り組んだものをシンプルにする
また、このワークからはあなたの能力も見えてきます。
・好きなことに対する、こだわり、集中力、読解力、想像力など
次に、あなたの得意苦手の棚卸です。今までの就労経験を思い出しながら記入してみましょう(アルバイトを含む)
「あなたの価値観発掘シート」からあなたの持っている価値観(大事にしている考え方、心の根っこ)を見ます、それぞれ記入してみましょう。
それぞれ「興味関心」「能力」「価値観」が記入出来たら3つの軸に書いてみましょう。
どのようになりましたか?
この3つの軸の真ん中にくるものがあなたに合った仕事であり、満足感を持って続けることができる仕事です。
「ちょうど真ん中にくる仕事なんかないよー」
そうかもしれません。確かに100%真ん中にくる仕事は中々ありません。考え方としては、100%はないかもしれないが80%でも70%でも「近い仕事」を選ぶということです。
少なくともあなたの3つの軸と比べたときに10%や20%ぐらいの合わない仕事を選ばないようにしましょう。イメージで構わないので「シンクロ率60%以下の仕事は選ばない」など判断の基準を明確にしても良いです。
また、能力に関しては2段階の考え方がありますので以下補足します。
まず、「興味関心」から「この仕事面白そうだな、良さそうだな」と思った仕事があった場合、次に考えることは「この仕事に求められている能力、スキルって何だろう?」と考えてみる。もし求められている能力が訓練によって身に着けられるものであればOK、しかし、与えられている機能としていくら努力や根性でも身につかないスキル、能力であればその仕事は最初から選ばないことが賢明です。
求められている能力は何か?それはあとで身につけられるのか?与えられている機能として難しいのか?求人票を見たときにこの考え方で見てみて下さい。
あなたは一人ではない、つながろう!!
発達障害のある人に対して、就労を含め総合的な支援を行うのが、発達障害者支援センター。これは、各都道府県、政令指定都市に設置されている。例えば東京都内であればTOSCA(トスカ)となる。
自己理解(障害理解)を行うのは中々一人では難しいもの、同センターなどに繋がり相談してみましょう。
発達障害者支援センター一覧
http://www.rehab.go.jp/ddis/相談窓口の情報/
第二回目は以上です、いかがでしたか?
興味関心だけで仕事を選ぶことはリスクがあるということ、自己理解(障害理解)を通して障害特性を理解し自身の能力、価値観を含めた3つの軸で仕事を選択することをお伝えしました。少しでもお役に立てましたら幸いです。
魅せる履歴書・職務経歴書の書き方 ~発達障害特性をどう伝えるか~
採用担当者は障害者雇用に対してとても不安感が強い、この応募者の体調は戻っているのだろうか?仕事を始業から終業までやれるのだろうか?などなど。
事実、中々書類選考が通らない、採用までいかないという方は残念ながら採用側の不安感を安心感に変えることができていないということです。履歴書などの応募書類から面接官の不安感を安心感に変えるための「5つの安心材料」をお伝えします。次回をお楽しみに!!