発達障害者のための定着支援ガイド~考え方のヒント、合理的配慮の求め方~

強気で勝ち取れ!発達障害者のための就労ガイド

発達障害職業コンサルタントの貫井まなぶです。
今回はいよいよ5回目、「発達障害者のための定着支援ガイド」をお伝えします。

せっかく就職してもすぐに辞める方と、長く続ける方といます。
この違いはどこから来るのでしょうか?

今回の5回目は、調査研究から離職の主な理由、発達障害の特性から見えてくる就労課題、そして、安定して長く仕事を続けるためのヒントとして合理的配慮の求め方などをお伝えします。

それでは、5回目を始めます!

合理的配慮

発達障害者が仕事を続けていくために必要な3つの軸とは?

早速ですが、問題です。以下障害種別の中で1年後の定着率が1番高い障害は何でしょうか?

  1. 身体障害
  2. 知的障害
  3. 発達障害
  4. 精神障害

答えは、③発達障害です。

意外でしたか?実は、発達障害者の定着率は悪くありません。「障害者の就業状況等に関する調査研究」によると、就職後1年時点での定着率は、身体障害 60.8%、知的障害 68.0%、精神障害 49.3%に対して発達障害者は71.5%で他障害種別と比較しても一番定着率が高いです。

これは発達障害者が10人就職したら1年後には7人以上が辞めずに仕事を続けているという事です。一方で精神障害者は定着率が一番低く1年後の定着率は49.3%です。これは10人入社したら1年後には半分以下が退職に至るということです。

合理的配慮

引用:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター(2017)「障害者の就業状況等に関する調査研究」(1-3)

では、せっかく就職してもすぐに辞めてしまう発達障害者と長く同じ仕事を続ける方の違いは何でしょうか?

それは、第2回目の「自己理解(障害理解)」でもお話しした通り、自身の「障害特性」に合った職業選択が出来ているかどうかが定着のためのポイントです。

興味関心だけで仕事を選ぶのではなく、その仕事に求められている能力をあなたがもっているのか、その仕事があなたの価値観に合うのか、この「興味関心」「能力」「価値観」の3つの軸が重なり合っている仕事があなたにとっての適職です。一方で、3つの軸の何かが欠けている(ズレている)職業を選択すると安定して仕事を続けることは出来ません。

合理的配慮

例えば、「人の役に立ちたい」「医療従事者になりたい」と崇高な思いを持った発達障害者(Aさん)が看護師養成機関にて教育を受ける例で考えてみましょう。

学内での机上学習は何とか乗り越えたとしても、臨地実習という看護教育ならではの授業形態において発達障害の特性から、こだわり、直ぐにパニックになる、ミスコミュニケーション、不注意、衝動性などで上手く出来ずにAさん自身のストレスが高くなるかもしれません。

この場合、看護師に対する興味関心はあっても、看護師が必要とする能力、例えば高度なコミュニケーション能力、臨機応変な対応能力などの職業能力をAさんが持っていなければ、そのような能力を求められるような状況で本人に相当な負荷がかかります。

また、本人が「ライフワークバランス重視」や「変化が少ない環境重視」などの価値観を持っている場合、同職種は、必ず定時で退社出来るものではなく、毎日毎時間変化が激しい職場環境でもあるのでAさんの持っている価値観とも合いません。

この例で言えば、職業に求められている「能力」と「価値観」が本人のそれとはズレており、たとえ看護師に就職出来たとしても長くは続かないばかりか、心身ともに不調を来す可能性もあります。

合理的配慮

Aさんの3つの軸を見てみます。興味関心から会計や数字に関すること、能力から定型的に反復継続する力があり、物事に没頭する力、数字に対する高度な正確性を持っています。

また、価値観からライフワークバランスを重視しており、パターン化された業務を好んでいるということが分かります。この3つの軸の真ん中に来るものとしては経理の仕事がAさんにとっての適職かもしれません(第二回目 「自己理解(障害理解)~多くの発達障害者が陥るワナとは?~」参照

3つの軸の中の1つ「能力」について、投資家のウォーレン・バフェットは「能力の輪」という素晴らしい表現を用いてこう述べています『自分の「能力の輪」を知り、その中にとどまること。輪の大きさはさほど大事じゃない。大事なのは、輪の境界がどこにあるかをしっかり見極めることだ』

また、同氏のビジネスパートナーである、チャーリー・マンガーは、更にこう補足しています。『自分に向いている何かを見つけることだ。自分の「能力の輪」の外側でキャリアを築こうとしても上手くいかない。請け合ってもいい』

(引用:ロルフ・ドベリー 2019年 「Think clearly」サンマーク出版 136-143)

Aさんの「能力の輪」の外側、つまり苦手なことは「高度なコミュニケーション能力」などがありました。能力の輪の境界線を越えて仕事をするのではなく、あなたの「能力の輪」の内側(得意、強み)を意識しキャリアを築きましょう。 実際、私の元に相談に来る方は自身の能力の輪の外側の領域で仕事(進路)を決め上手くいかず悩まれている方がほとんどです。面談の中で能力の輪を確認し、その内側でキャリアを築くことを提案しています。

更に、発達障害者の就労研究の第一人者である早稲田大学教授梅永雄二氏は論文で『従来の就労支援においては、職業適性の中心に職業能力が置かれていたが、仕事に就く上で必要な要素はその仕事が出来るかどうかの能力だけではなく、その仕事に興味関心があるか、そして、その仕事に合った性格傾向や行動傾向、それに何より、その仕事に対する価値観なども検討されなければならない。そういったことがなされないと、たとえ就職しても退職に至る』

(引用:梅永雄二 2017年 「発達障害者の就労上の困難性と具体的対策」57-68)

同氏もやはり「興味関心」「能力」「価値観」の重要性を示唆しています。

合理的配慮

私の2,000人以上の臨床経験から言えば、多くの方が「興味関心」から職業(進路)を選択するも、実際に仕事をやってみたらその能力を持っていなかった、自分が大事にしている価値観とは相容れなかったというケースが多いです。

例えば、子どもが好きで保育士に憧れて、実際に就職するも、子どもたちが起こす同時多発的な問題に対処出来ずに悩む女性がいました。彼女は同時に問題に対処する能力がそもそもなく、また、自身の価値観として「マイペース重視(予想外のことはパニックに陥る)」という考え方を持っていましたが、保育の現場では自分のペースで仕事は出来ませんでした。

結果、彼女は体調を崩し退職に至りました。このようなケースは実に数多く散見しています。

以上から、安定して仕事を続けるためにも「興味関心」「能力」「価値観」この3つの軸をもとに仕事を探すことが望まれます。あなたの3つの軸は分かりますか?必要に応じてあなたの支援者や支援機関に相談してみましょう。

発達障害者の離職理由から考える

次に「発達障害者の職業生活への満足度と職場の実態に関する調査研究」から発達障害者の離職理由を見てみましょう。

合理的配慮

引用:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター(2015)「発達障害者の職業生活への満足度と職場の実態に関する調査研究」(56-58)

この調査研究の離職理由トップ3は1位「人間関係がうまくいかなかった」61.0%、2位「仕事内容が合わなかった」49.2%、3位が「勤め先の配慮が不十分だったから」28.8%と続きます。全体的に俯瞰したときに以下就労上の課題、問題点が見えてきます。

  1. コミュニケーションのズレ
  2. 「人間関係で問題を抱えた」「人間関係のややこしさ、指示の多さにパニックを引き起こした」
    「職場の暗黙のルールが理解出来なかった」など

  3. 適切なジョブマッチングが出来ていない
  4. 「仕事内容が合わなかった」「仕事がつまらなかった」「仕事をするのが遅いので向かなかった」
    「自分の能力では手に負えなかった」「簡単な作業が出来なかった」など

  5. 障害理解がない、合理的配慮がない
  6. 「勤め先の配慮がなかった」「自分の障害を上司や同僚が理解してくれなかった」「普通を求められ精神的にダメージを受けた」「スピードを求められ自分のペースで出来なかった」「障害など関係ない!努力だ!根性だ!と言われ重圧に感じた」な

  7. 就職後のフォローアップが十分でない
  8. 「上司が忙しく相談が出来なかった」「一回教えれば分かるだろうと言われ気軽に質問が出来なかった」など

以上から離職理由として人間関係の難しさ、適切なジョブマッチングが出来ていない、職場の上司同僚が発達障害に対して理解が進んでいない、特性に合った合理的配慮がなされていない、就労後のフォローアップが不足していることが発達障害者の主な離職理由になっていることが分かります。

合理的配慮

また、逆の視点で就労後長く仕事を続ける発達障害者の傾向に関する調査研究があるので以下紹介します。

植草学園大学の調査で、発達障害者などの障害特性を持った合計95名の方に対してアンケートを実施、転退職を繰り返す人と、同じ仕事を5年以上働くことが出来る人の差はどこにあるかを調べています。

その結果、長く続けることが出来る人の特徴としていくつかの要因が確認されています。

「基本的生活習慣」

【規律】・決まった時間に起床し就寝が出来る 
    ・規則正しい食事をする
    ・「おはよう」「さようなら」などの挨拶が出来る
【自律】・出かける前に必要なものを一人で準備することが出来る
    ・使ったものをもとに戻すことが出来る

「自己理解」

・自分の行動を客観的に理解することが出来る
・自分のことを「私はこういうところがある」と人に自己開示出来る
・自分の好きなこと(趣味など)を持っている
・自分はどういう接し方をされると分かりやすいか理解している

「コミュニケーション」

【対人行動】・周りの人たちが自分と違った考えを持っていてもうまくやっていける
      ・嫌なことは丁寧に断わることが出来る
      ・どうしてよいか分からない時「どうしたらいいですか?」と聞くことが出来る
【言語化】 ・人に何かしてもらったときに「ありがとう」と言える
      ・作業が終わったときに「終わりました」と報告することが出来る
      ・敬語が使える

「環境」

・職場の配慮がある(必要な配慮を職場が提供してくれている)
・職場の同僚の理解がある
・得意なことを生かして職に就いている

「基本的生活習慣」「自己理解」「コミュニケーション」「環境」など、5年以上仕事を続ける発達障害者は上記のような要因が確認されました。

現在のあなたの状況と比較してどうでしょうか?決まった時間に起床できていますか?食事はしっかりとれていますか?自分の趣味や特技、苦手や得意など理解していますか?

上記のような就労準備性が身についていれば長く仕事を続ける力になります。もし、現在そのようなスキルが身についていないのであればあなたの支援者や支援機関に相談してみて下さい。

現在のあなたの就労準備性をチェックしてみよう

大阪市こころの健康センターでは、障害のある方の就労準備性を高めるために「就労準備に関するチェックリスト」を作成、個人や就労支援機関などで現在活用されています。一般公開されていますのでサイトを紹介します。

サイトからPDFを印刷し各項目をチェック、現在のあなたの就労準備性を確認しましょう。項目ごとに点数化しグラフに出来るので視覚的に見やすく非常に優れています。

合理的配慮

合理的配慮

引用:大阪市こころの健康センター 「就労準備性チェックシート」

ワーク あなたの就労準備性をチェック!

働く準備は出来ていますか?先ずはあなたの現状を確認しましょう。

①就労準備性チェックシートを行う
②グラフにチェックを行い、出来ていることと出来ていないことを確認する
③出来ていないところで改善出来そうな課題は何かを探す
例「健康の維持」の点数が全体的に低い場合。「おおむね決まった時間帯に朝起きて、夜寝ている」が現状出来ておらず改善出来そうなど
④③で改善出来そうな課題を確認したら、その課題に対する目標を考える。例「毎日就寝時間が午前2時なので、もっと早く寝るようにしたい。1時間早めて午前1時には寝れるようにする」など
⑤④で課題に対する目標が出来たら、その目標に近づくために今日から「ちょっと」頑張れば出来ることを考える。例:寝る前、3時間ぐらい毎日スマホゲームをやっている場合、ゲームの時間を30分早く終わらせるなど
⑥「ちょっと」頑張れば出来ることが習慣化されるまで続ける

あなたの課題に対する具体的な行動は「ちょっと」頑張れば出来ることに設定するのがポイントです。あなたの生活習慣を変えようとしていますので大きく生活リズムを変えようとしても長くは続きませんし、場合によっては体調を崩すこともあり得ます。

大きく生活を変えようとせずに先ずはハードルを下げて「ちょっと」頑張れば出来ることから始めてみましょう。

コラム 新しい習慣が身に着くまでにかかる日数は〇日!

私たちが普段生活の中で、日々行っていることで既に習慣化されているもの、例えば朝起きたら顔を洗う、食後に歯を磨くなどは既に習慣化され特に意識しなくても無意識に出来ている習慣があります。

では、あなたの生活に新しい習慣を取り入れ、それを「習慣化」させたい場合、平均でどれほどの日数が必要だと思いますか?

①30日
②66日
③254日

答えは②の66日です。習慣化されるまでの日数は諸説ありますが、ロンドン大学のフィリップ・ラリー博士は習慣化までにかかる時間を研究、同氏は、人が新しい習慣を身に着けるために必要な日数は「18日から254日」必要という研究結果を発表しました。これは平均すると66日ということになります。

例えば、朝起きて水をコップ一杯飲む、このような簡単な習慣であれば平均18日で、毎日1時間運動をするなど難しい内容は習慣化されるまでに平均254日かかることが分かりました。

合理的配慮

先ずは、就労準備性チェックシートから課題を確認し目標を立てたら「ちょっと」頑張れば出来ることを設定、66日間(約2か月間)続けてみましょう。約2か月間やり続ければ、あなたの新しい習慣になっています。

Point

習慣化までには約66日間かかります。「ちょっと」頑張れば出来ることから先ずは始めましょう。

注意

「ちょっと」を自分で考えてやっても中々続かない場合はあなたの考える「ちょっと」のレベルがまだまだ高い可能性があります。「ちょっと」のレベルをもっと下げてみましょう。

例えば、先の例で毎日寝る前にゲームを3時間していて寝る時間が遅くなるのであれば、いきなりゲーム時間を減らすことは難しいかもしれません。

その場合、「ちょっと」を現状の把握から始めてはいかがでしょうか?例えば、スマホのストップウォッチ機能を使って、ゲームの開始から終わりまでの時間を計り実際のゲーム時間を確認、手帳などにメモする。

この時間をメモすることを最初の「ちょっと」に設定するなどあなたにとって難しくないことに「ちょっと」を設定し直します。

最初は、ハードルを極限まで低く設定してやってみる、そして簡単なことが習慣化されてきたら、そのハードルを少しずつ上げて最終的にあなたのなりたい自分を目指していきましょう。

合理的配慮

発達障害の特性からくる就労課題

ここからは話を戻して発達障害者の就労現場で見えてくる課題についてお伝えします。

「発達障害」と言っても特徴は千差万別、一人一人の顔が違うように同じ発達障害であっても障害特性は人それぞれ違います。

発達障害の特性はSLD(限局性学習症)、ADHD(注意欠如多動症),ASD(自閉スペクトラム症)によって異なります。読み、書き、計算が困難なSLD、不注意、多動、衝動性の強いのがADHD,対人関係、コミュニケーションが上手く出来ず、こだわりの強いASDが存在しています。

以下、それぞれの障害の就労上での課題に絞って見てみます。自身の障害特性と一般的な障害特性と似ているところ、違うところなどを考えてみましょう。

SLD

読み、書き、計算に困難があり、例えば簡単な足し算、引き算が出来ません。就労の現場においては「簡単な」計算などが出来ないことから「仕事が出来ない人」などと言われ居づらくなり離職に繋がることが考えられます。

ADHD

多動や衝動性よりも不注意な側面が就労上の大きな課題です。ワーキングメモリーの弱さ、やらなければならないことを忘れてしまう、不注意から生じるケアレスミスなどから何度も叱責されます。結果、自信をなくし離職に至る可能性があります。

ASD

コミュニケーションを含む対人関係が就労上での最も大きな課題です。ASD者は仕事で求められるスキルは身に着けていても、職場での対人関係が上手くいかないことで離職してしまうケースが多いです。

また、ASD者の強みである細部へのこだわりの強さも職場環境によってはマイナスに働いてしまうことがあります。

障害があるということは、仕事を行う上で何らかの「困り感」が生じる可能性があります。あなたの苦手なこと、配慮(サポート)があれば出来ることなど自身の障害特性を理解していますか?

就労上での課題が分かり適切な配慮をお願いすることが出来れば長く定着に繋がります。

配慮をお願いすることは「甘え」?

自身の障害特性から就労上での課題に気づき、適切に配慮を上司にお願いすることをお伝えしました。

しかし、人によっては配慮をお願いすることが「甘え」と感じ中々相談出来ない方がいます。必要な配慮をお願いすることは本当に「甘え」なのでしょうか?配慮はお願いしないほうがいいのでしょうか?

ここで「発達障害者の職業生活への満足度と職場の実態に関する調査研究」の「特徴や配慮して欲しいことを伝えて良かったか?」から考えてみたいと思います。

合理的配慮

引用:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター(2015)「発達障害者の職業生活への満足度と職場の実態に関する調査研究」(59-61)

上記の調査結果から、「特徴や配慮して欲しいことを伝えて良かったか?」に対して「そう思う」が56.1%、「やや、そう思う」が28.8%、合計すると約85%の方が配慮などをお願いして良かったと思っています。

では、伝えた結果、実際にどんな配慮をしてもらったかを自由記述から見てみると以下の通りです。

合理的配慮

引用:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター(2015)「発達障害者の職業生活への満足度と職場の実態に関する調査研究」(59-61)

ここで大事なのは自身の特性を理解し、適切に配慮を求めた、その結果、上記のような配慮をしてもらえたということです。

もし、配慮を求めなければ本人にとっては苦しい職場環境下で仕事を続けなければいけません。例えば、口頭で指示を受けても言葉が頭に残らない、理解するのに時間がかかるという特徴の方が、毎回上司から口頭指示を受けることはかなりのストレスです。

そのような職場環境は本人にとって心身的に負荷がかかります。適切な配慮をお願いし書面やメールで指示をもらえればストレスから解放、働きやすくなるでしょう。

合理的配慮

就労上で困ったことがあった場合、多くの方が一人で悩み、特性から生じる困難から何度も失敗、上司から叱責を受けます。

誰かに相談することなく何とかしようとしても「困った!」と「上手くいかず叱られる」を何度も繰り返した結果、うつなどの二次障害になり最終的には退職に至ります。

一方で「困った!」をそのままにせず、上司や支援者などに相談、必要な配慮を受けることが出来れば、あなたの「困った!」が軽減若しくは解消されるかもしれません。困った状況が少しでも改善されればあなたが抱える負荷が減り結果、定着に繋がります。

合理的配慮

改めて、相談を考える

あなたは人に普段相談することはありますか?自分一人で悶々と考えて全く答えが出ないようなことでも友人などに相談したときに「なるほど!気付かなかった!!」と別の角度から解決策を提示されることもあります。

相談には主に以下のような意味があります。
・話を聞いてもらうことで、こころの浄化(スッキリ!)が出来る
・話すことによって、問題点が整理でき、気付きを得る
・別の観点、考え、見方を得ることが出来る
・必要な情報を得ることが出来る
・孤独感や不安感から解放される

また、自身のネガティブな状況を「話す」ことで不安感、ストレスなどを自身から「離す」ことが出来ます。

話す⇒離す

あなたの上司同僚、友人、支援者など信頼出来る人に話して(離して)みましょう。話さず自分だけで抱えていても困った状況は改善せず、ネガティブな状況はあなたから離れません。困りごとは上司や同僚、支援者に相談しましょう。

合理的配慮

求めよう!あなたの合理的配慮

あなたが仕事をする上で、「難しい!」「出来ない!」と悩むことでも、上司などに相談をして職場の環境を整え、少しサポートをしてもらえれば、抱えている困難が解消若しくは軽減することが出来るかもしれません。環境調整をすること、必要な配慮をすることを「合理的配慮」と言います。

合理的配慮に関して法律では『事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な特遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りではない(改正障害者雇用促進法 36条3項)』と定めています。

企業はあなたが抱えている就労上での困難を改善するため、可能な限り配慮をする義務があります。

例えば、車いすユーザーに対しては、職場内の段差をなくすことが、視力に障害ある場合は読み上げソフトを導入することが合理的配慮として考えられます。

合理的配慮

身体的な障害であれば、どんなサポートをすればいいのか企業側もイメージ出来るのですが、発達障害は同じADHDでも特徴は人それぞれ、同じではないところに配慮の難しさがあります。

「ADHD?じゃこの配慮をします」と画一的にサポートすることが出来ません。そのため、あなたの「困った!」を会社に言わないといつまでたっても会社から配慮を受けられません。

例:特性 「急なスケジュール変更はパニックを起こす」
合理的配慮⇒急な作業変更は極力行わない。行う場合には、本人の作業が一区切りつくまで待つ。また、業務の中で予想される変化については、できるだけ事前に本人に伝える。

実際にどのような合理的配慮があるのか内閣府のページを参照ください。見るときのポイントは自分の障害特性と似た事例を見つけ、その障害特性に対してどのような配慮があるのかをチェックします。事例の配慮を参考に会社に伝えてみましょう。

内閣府 合理的配慮サーチ https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/

最後に、配慮をお願いすることは決して甘えなどではありません、今後も働き続けたいのです!というあなたの意志の表れです。

あなた自身の特性を前向きに捉え、この仕事を続けたい、そのためにこういう配慮をお願いしたいというポジティブな思いで会社に伝えることが大切です。

Point

配慮は会社から自動的に与えられるものではありません。自分から求めていきましょう。

次章からは、あなたの求めるべき合理的配慮を考えてみましょう。

合理的配慮

自己権利擁護力(セルフ・アドボカシー・スキル)とは?

就労上での困り感から自分自身のニーズを把握し会社に伝えるためには、自分の障害特性を理解し、自分で出来る対処や支援方法の理解とともに、適切な配慮をお願いするスキルを身に着ける必要があります。

これを自己権利擁護力(セルフ・アドボカシー・スキル)と言います。

合理的配慮

自己権利擁護力(セルフ・アドボカシー・スキル)の身に着け方

あなたの自己権利擁護力を身に着けるためには以下3点を考えてみましょう。
①どのような状況において、どのような困難が生じるか
②困難に対してどのような自己対処ができ、どこから周囲の配慮を得る必要があるか
③あなたの障害特性と関連付けて希望する配慮をどのように伝えるか

以下、事例から見てみましょう。

合理的配慮

この例文では、言葉の理解が難しいこと、聞き取れない方の例を出しています。Aさんは口頭で指示をもらってもしっかり聞き取れないため指示の内容を理解することが出来ません。

指示内容が分からなければ聞き返せば良いのですが「話を聞いているのか?」と叱られることを恐れ中々聞き返すことが出来ずにいます。結果的に指示された仕事が出来ていないので叱られすっかり自信をなくしています。

合理的配慮

考えられる自己対処は、口頭での指示をしっかりメモを取り内容に間違いがないかを上司に都度確認してもらうこと。お願いしたい配慮としては「口頭ではなく文章で指示をもらう」などでした。

では、このニーズを誰にどういう場所でどのように伝えたら良いでしょうか?忙しくしている上司に突然「指示は文章でください」と言っても「急にどうした?」となりますし忙しい中で急に言われても話を聞いてくれない可能性もあります。誰に言うか、いつ言うか、どのようにニーズをお願いするかが大切です。

キーワードは
「感謝」「現状」「お願いしたい配慮」
この3点です。

合理的配慮

先ず「誰に言うか」ですが、上司や主に職場で相談にのってくれる方に相談しましょう。

「いつ言うか」は「ご相談があります、本日お時間をどこかで頂けませんでしょうか?」と事前に相談する上司などに時間を確認しましょう。「相談場所」は会議室など第三者が周りにいない静かな環境が望まれます。

「合理的配慮の伝え方」は先ず「感謝」から伝えます。これはいきなり「現状」から「お願いしたい配慮」を言うよりも先に感謝から始めた方が相手の心を和らげ軟化させ、そのあとのお願いを聞き入れてもらいやすくするための土台作りです。先ずは感謝から切り出しましょう。

「現状」はあなたが感じている就労現場での困り感を伝えましょう。どんなときにどんな困難があるか、障害特性を絡めて伝えます。

「配慮」は現状での困り感をどのような配慮をもらえれば解消出来るか事前に考えお願いします。

コラム お願いごとをするベストな時間帯は○○!

配慮やお願いなどの「交渉」で相手に「イエス」と言わせるためには、交渉に適した時間帯があります。結論から言うと「午後イチ」若しくは「夕方に近い時間帯」です。先ず午後イチである理由ですが、相手が昼食の直後で判断力が低下しているからです。

『人間の脳は満腹になると働きが鈍くなり判断力が落ちます・・・人が説得されるのはまさにこうした状態の時です』(引用:メンタリストDaigo 2018年「一瞬でYESを引き出す心理戦略」ダイヤモンド社89-93)

また、時間帯を利用した暗示、説得テクニックを実際に使ったのがナチスドイツの独裁者として君臨したアドルフ・ヒトラーです。彼は演説する時間帯に非常に気を配ったことで知られています。群衆の心理的抵抗が最も弱い時間帯、つまり夕方に近い時間帯に演説時間を常に設定していました。

『・・午前中は(聴衆)の判断力も鋭いが、半日経って夕方になれば、だんだん鈍くなって心の防御を解き、他人が言うことも素直に受け入れるようになる。ヒトラーが演説に夕方の時間帯を使ったのは、このような原理を理解していたからだ』(引用:許 成準 2020年「ヒトラーの大衆扇動術」彩図社12-16)

以上から、配慮の相談をする時間帯は午後イチ若しくは夕方に近い時間帯にお願いしましょう。

あなたの認識と現場の認識のズレを確認する方法

合理的配慮

自分の特性のために「周りに迷惑をかけているのではないか??」と不安に感じている方がいます。

不安に感じるだけならまだしもその思いがどんどん大きくなって、「自分は周りに迷惑をかけているのでもう辞めたい」と飛躍して考える方も少なくありません。

「迷惑をかけているかな??」と心配していても意外と周りの上司や同僚は何とも思っていないこともありますし、逆にあなたが思っている以上に現場ではあなたの特性から困っているかもしれません。

あなたの認識と現場の認識にズレがないかを簡単な質問で確認する方法があります。それが上記事例中の「現状」にある「上司や同僚に迷惑をかけているかと心配しているのですが、いかがでしょうか?」です。

この質問を入れることで簡単に現場の温度感を確認することが出来ます。

もし、あなたが思っているほど現場は何とも思っていなければ上記「迷惑かけていると思うのですが」の質問に対して「迷惑?そんなことないよ!

入社して数か月あなたはよく頑張ってくれているよ!大丈夫だよ!」と言ってくれるでしょうし、もし本当に現場があなたの特性によって困っているのであれば先の質問に対して「あぁ、実はね、現場の社員からも仕事が進まないと話が上がっていてね・・」と言われるかもしれません。

「上司や同僚に迷惑をかけていませんか?」この質問を入れることによって温度感を確認出来るので配慮をお願いする際に、現状を確認するためにもぜひ聞いてみて下さい。

ワーク あなたの困り感から生じる合理的配慮を考えよう

今度はあなたの実例から考えてみましょう(現在の仕事のこと、過去の仕事のことを思い出して書いてみましょう)

合理的配慮

ワークシートダウンロード

もし、上記ワークが自分では分からない場合は、あなたの支援者若しくは支援機関に相談しましょう。

まとめ

第5回目は以上です、いかがでしたか?
仕事に就くことも大事ですが、それよりもっと大事なのはあなたが長く安定して仕事を続けることです。

そのためにも仕事を探す上で欠かせない3つの軸や長く仕事を続ける人の持っている傾向、就労上での困り感をどう合理的配慮を伝えるかなどをお伝えしました。

多くの方が、「困った!」を相談せず一人で悩み続け誰にも相談出来ずに一人抱え込んでいます。結果的に問題は解決せず更に大きくなり、最後には退職に至るケースが少なくありません。

先ずは、相談しましょう。「話す」ことがネガティブな状況を「離す」ことに繋がります。どうか相談上手になってください、一人で抱えるのはやめましょう。

上司や同僚に言いづらい場合や、自分の困り感、お願いしたい配慮がうまく言えない場合はあなたの支援者、支援機関に相談してみてください。

支援機関は多くあります(第1回目「つながる ~発達障害者の就労を支援する様々な専門機関~」参照
先ず、支援機関に電話して「相談したいのですが」と気軽につながってください。

第1回から5回まで発達障害者の就労に関する情報提供をしました、いかがでしたでしょうか?

ここまで読まれたあなたは、人生をより良くするための一歩を既に歩まれています。

この連載があなたの人生の次の一歩、何かのきっかけに繋がることを心から願い、筆をおきます。

ここまで読んで頂きありがとうございました。サイト上でお会いできた、お一人お一人に感謝します。

合理的配慮

【参考文献】
・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター(2017)「障害者の就業状況等に関する調査研究」(1-3)
・中尾 幹子、田中 千寿子、豊島めぐみ(2015)「看護基礎教育における学生への発達障害支援の現状」(15-25)
・梅永 雄二(2017)「発達障害者の就労上の困難性と具体的対策」(57-68)
・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター(2015)「発達障害者の職業生活への満足度と職場の実態に関する調査研究」(56-58)
・桑田 良子、渡邉 章(2015)「発達障害者・知的障害者が働き続けるために必要な要因の検討」(59-67)
・大阪市こころの健康センター(2009) 「就労準備性チェックシート」
・メンタリストDaigo(2019)「超習慣術」 ゴマブックス(29-33)
・小川 勤 「発達障害学生のセルフ・アドボカシー・スキル育成に関する研究」(25-35)

プロフィール

著者写真
貫井 まなぶ(ぬくい まなぶ)

障害者職業コンサルタント
発達障害支援事業所 相談員
就労移行支援事業所 非常勤講師

経歴・実績

障害者職業コンサルタントとして2,000名以上の就労支援に携わる。

20代から50代の男女と幅広く、障害種別も注意欠如多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、限局性学習症(SLD)などの主に発達障害を持った方の就労に関する相談を対応。

過去には、障害者の就労の場を開拓する法人営業を経験。企業、人事担当者が障害者雇用を進めるにおいてどんな課題を持っていて何を不安に感じているのか、応募者である障害者に求めているニーズを熟知。

企業側の本音、当事者の本音、講義の受講生からのフィードバックをもとに「今必要とされる」障害者就労に関する情報を「全ての障がい者が活躍する社会へ!!」でも発信中。

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強気で勝ち取れ!発達障害者のための就労ガイド

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あなたは障害者雇用にどのようなイメージがありますか?今回は、発達障害者を含む障害者雇用の現状、つながる機関、働き方を一緒に見ていきましょう。

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自分自身の障害特性を理解するためには、どれだけ自己理解(障害理解)が出来ているかがポイントです。

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履歴書や職務経歴書の書き方についてと人事担当者の不安感を安心感に変えるための方法である「5つの安心材料」お伝えします。

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発達障害者に対する無意識の偏見、アンコンシャス・バイアスを壊すための障害者枠での面接の受け方をお伝えします。

第五回 発達障害者のための定着支援ガイド~考え方のヒント、合理的配慮の求め方~
調査研究から離職の主な理由、発達障害の特性から見えてくる就労課題、そして、安定して長く仕事を続けるためのヒントとして合理的配慮の求め方などをお伝えします。

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