通関のスペシャリスト、通関士は国家資格の士業です。他の士業として浮かぶのは、弁護士、司法書士、税理士、行政書士など。専門性が高く、そのため年収が高く将来性もあるイメージの職業ばかりです。
では、通関士もやはり年収が高く将来性もバッチリ?年収は1,000万円になることも可能なんでしょうか?通関士になって年収1,000万円を実現するには。通関士の働き方や将来性について見ていきましょう。
海外と輸出入を行う際、絶対に避けては通れないのが税関です。ここで不適合と判断されれば、輸出入を行うことができません。そこで、税関を通すための通関手続きを行うのが通関士の仕事です。
仕事の内容としては、依頼を受けた貨物の品目・数量・価格などの内容を確認し、法律と照らし合わせて通関手続きの書類を作成することに加えて、通関不備があった際には不服申立てを行うこともあります。貿易業界の税理士、または行政書士などとも言われている仕事です。
海外貿易を行う企業から委託を受けて通関手続きを行う通関業者は、この通関士資格を持っている人員を必ず一人以上置かなければならないと定められているため、通関士は輸出入を行う上で必ず必要な人材なのです。
通関士になるには、まず国家資格である『通関士試験』に合格しなければなりません。合格したら通関業者に就職し、通関業者から税関に申請を行い財務大臣から通関士として確認・登録をされる必要があります。それでは、通関士試験の内容を紹介します。
【通関士試験】
1.関税法、関税定率法その他関税に関する法律及び外国為替及び外国貿易法(同法第6章に係る部分に限る。)
2.通関書類の作成要領その他通関手続きの実務
3.通関業法
通関士試験の合格基準は事前に発表がされておらず、合格発表時に公表されることになっています。令和4年の試験では、各科目それぞれで「満点の60%」と公表されています。合格率は例年低めとなっており、難易度は高いと言えるでしょう。
ちなみに令和4年に行われた試験の合格率は以下の通りとなっています。
全科目受験者:17.7%、2科目受験者:17.2%、1科目受験者:65.6%
当然ですが、受験科目数が増えるに従って、合格率は下がっています。通関士は貿易に関する知識に加えて、法律の知識も必要になる専門職ですから、独学では難しいかもしれません。
*参照第56回通関士試験の結果について
通関士の平均年収はどれくらいでしょうか。士業の一つというくらいなので、結構貰えるのでは?と期待している方も多いでしょう。通関士の平均年収は、500万円前後、月収にすると30万円前後といったあたりです。
同じ士業の年収を比較してみると、
弁護士:1,000万円前後
税理士:800万円前後
司法書士:600万円前後
行政書士:600万円前後
このようになっているので、通関士の年収は士業とは言っても決して高くはないようです。また、通関士の年収を年齢別にも詳しく見てみます。
20代:300〜350万円程度
30代:400〜450万円程度
40代:500〜550万円程度
50代:600〜650万円程度
通関士の年収は年功序列の場合が多く、歳を重ねて経験を積むことで、昇進などで年収が上がる傾向にあります。
では通関士は年収1,000万円を実現するのは難しいでしょうか?
結論から言うと、決して簡単ではないが、無理ではありません。
通関士は通関業者やメーカー、貿易、金融など貿易業に携わる企業などで働くことができますが、働き口を選ぶことで年収をより多くもらえるチャンスはあります。
通関士で年収1,000万円を実現させたい方は、以下の働き口を模索するといいでしょう。
物流業界には陸運・空運・海運がありますが、中でも海運が年収が高めの傾向があります。
外資系企業や海外進出している企業の海外勤務に就ければ、各種手当で年収が上がります。
昇進することで昇給に加えて役職手当がつくことが多いです。
通関士の働き口としては、グローバル化が進む現代、衰退することもなくむしろ盛り上がりを見せていく業界といえるでしょう。しかし、法律の縛りがある仕事でもあるので、キャリアアップとしての選択肢は狭いと言わざるを得ません。
通関士として年収を上げたいと思うのであれば、できるだけ年収設定が高めの業界を選ぶこと、特別手当がつく勤務地や役職を狙うことなどが対策となります。
通関士は通関士資格を持っていないとできない、いわゆる独占資格です。通関業者は業務を行う上で、事業所ごとに必ず一人以上の通関士雇用を義務付けられているので、業界では大変重宝されます。
また、通関業者だけでなく、貿易に携わる企業でも通関部署を設けている企業はありますし、通関士資格を持っていることで、通関士にはならなくとも、貿易を行う上で税関関連の知識は誰もが簡単に身に着けられる知識ではないので、大いに役立つでしょう。
ただし、あくまで『通関士』として働きたいということになると、キャリアパスとしては選択肢が狭くなります。通関に関わる業務は、財務大臣から認可が降りた業者でしか行うことができません。そのため、独立やフリーランスといった働き方は法律上、困難となります。
貿易を直接行っている各企業も、通関部門などで通関士を採用することはあっても、直接税関に申請書を提出するということは、税関の認可が降りていなければ行うことができません。そのため、通関士として通関に関わるのなら通関業者で働かなければなりません。
通関士としての昇進を狙うか、通関士資格を生かして興味のある業界でキャリアを構築していくか。通関士の将来性となると、このような選択肢になると思われます。
社会で男性と女性で格差を感じたという方は多いと思います。年収の差に、昇進のチャンス、振られる仕事内容など…。女性は結婚や妊娠・出産などで社会で思うようにキャリアを構築できずに悔しい思いをする方も多いです。
しかし、通関士は歴史のある職業であり、士業であるにも関わらず、男性と女性にあまり格差がない仕事と言えます。まず、年収にあまり男女差はありません。統計では女性の方が低く見られるものはありますが、ライフスタイルの変化で時短やフレキシブル勤務に対応している場合が多いからのようです。また、出産後に仕事復帰する方も多いようです。
通関士資格の合格率でも、令和元年の試験では男性:11.6%、女性:13.6%。令和2年の試験でも男性:13.2%、女性:15.9%と女性の合格率が高い傾向にあります。
通関申請は不備が重なるとペナルティが課せられたり、あまりに酷くなれば認可取り消しなどの対処を取られる場合があります。決してミスが許されない業界なので、女性に多く見られる細やかさは武器になります。
通関士は基本的にデスクワークです。外回りに出る業務ももちろんありますが、やはり基本は通関のための書類作りが主になります。ずっとデスクでPCと向かい合っても飽きない、嫌にならない忍耐力が求められるでしょう。
通関士の仕事は、決してミスが許されない厳密さが求められます。ミスが酷ければ、クライアントにペナルティなどの迷惑がかかります。更に通関士が所属する通関業者の関税認可が取り消される可能性もあるのです。
責任感を持って仕事をしなければなりません。
ミスによってペナルティが課せられる業界ですから、仕事に徹底した細やかさと正確さを求められます。書類作成時の細やかさ、終了後にも綿密なチェックをしたりなど、正確さを求められる人には向いています。
通関士の仕事は貿易業界の税理士、行政書士と言われるデスクワークであり、事務仕事とも言えます。しかし徹底した正確さを求められるので、通関のスペシャリストとも呼ばれます。職人のように仕事に打ち込み、突き詰められる人に向いている仕事です。
数学ほどの難解な計算を必要とする仕事ではありませんが、貨物の数量や金額などとにかく数字に触れる機会は多いです。数字が苦手な文系の方が、最初あまりに数字を扱うので混乱してうんざりした、といった口コミもあります。
計算が得意な方、数字が好きな人は苦にならないかもしれませんね。
通関士として爆発的に年収を上げるというのは、あまり現実的とは言い難いものがあります。結論として言えば、無理ではないけれどかなりの努力が必要だと言えるでしょう。より年収が高い条件の会社を選び、更に野心的に仕事をこなして昇進するか、海外勤務などの手当支給のある職場異動を狙うか。
逆にそれができるのであれば、通関士としては成功できるでしょうし、会社にも重宝されるはずです。更にそこまでいければ将来性の観点でも十分と言えるのではないでしょうか。
元々通関士は資格試験が難しく、独占資格であるにも関わらず、伸びしろのある業界の割になり手が少ないというのが現状です。そういう点でも、通関士資格を持っていることで手に職として泊がつきます。