看護師は長年女性の仕事と考えられ、男性看護師は非常に少ない仕事でした。
しかし、近年では看護師を目指す男性や男子学生も多くなり、少しずつですが男性の割合が増えつつあります。
元男性看護師の筆者が、なぜ男性看護師は少ないのか?今後の需要や将来性はどうなっていくのか?を解説します。
これから看護師になる方はぜひ参考にしてください。
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2020年時点では、看護師の割合は128万911人であり、毎年6万人前後のペースで増加しています。その中で男性の割合はどの程度なのか、割合が少ない理由をご紹介します。
医療現場の男性看護師は、厚生労働省の公表によると2020年の時点で10万4,365人です。看護師全体の割合では8.1%となり、看護師の11人に1人が男性です。
割合で見ると少ないことは確かですが、男性看護師の数は増加傾向にあります。調査の度に男性看護師の割合は高くなっており、今後も増加していくことが予想されます。(*)
*参照:厚生労働省 『令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況 P2』
男性看護師は今でも少ないと思われやすいですが、その理由には長年のイメージが関係しています。日本では2001年まで女性は看護婦、男性は看護士と呼んでいました。
2002年3月にどちらも看護師に統一されましたが、長年の「看護婦=女性」のイメージが根強く残っています。そのため、看護師になる割合も女性のほうが多く、男性は少数です。
とはいえ、男子看護学生の数は年々増えつつあります。今後も男性看護師が活躍すれば、イメージの変化とともに男性の割合も増えていくでしょう。
男性看護師の割合と増加している背景をご紹介します。
男性看護師は2000年代まで非常に少なかったのは事実ですが、2010年代からは年々数が増えています。以下の表は、男性看護師の数と割合です。
年 | 全体の看護師数 | 男性看護師数 | 割合 |
---|---|---|---|
2010年 | 95万2,723人 | 5万3,748人 | 5.6% |
2012年 | 101万5,744人 | 6万3,321人 | 6.2% |
2014年 | 108万6,779人 | 7万3,968人 | 6.8% |
2016年 | 114万9,397人 | 8万4,193人 | 7.3% |
2018年 | 121万8,606人 | 9万5,155人 | 7.8% |
2020年 | 128万911人 | 10万4,365人 | 8.1% |
2010年には5万人ほどだった男性看護師は、2020年には10万人と、ほぼ倍になっています。
看護師全体の数も増えていますが、その中でも徐々に男性看護師の割合が高くなっている点に注目すべきです。
男性の割合が少ないことは間違いありませんが、データからもわかる通り、男性看護師はさらに増加していくと予想できます。
参照:厚生労働省 『令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況 P2』
男性看護師が増加している背景で大きい要因が、女性の仕事というイメージからの変化です。多くの病院では看護の均一化を図るため、男女問わず多くの看護師を採用しています。
また、男性看護師が増加したことで、看護師になることへの心理的な抵抗感も少なくなっています。
病院は子どもから大人まで幅広い年齢層の方が利用するため、男性看護師を実際に見て、看護師を目指す敷居が低くなっている点も大きいでしょう。
様々な要因が社会的なイメージを変化させ、看護師になりやすい環境を作ったことが男性看護師の増加につながっています。
社会的なイメージ以外にも、経済的な安定感で選ぶ人も増加しています。
一般企業のサラリーマンとは違い、看護師は国家資格を持つ専門職です。
有資格者は全国のどこの医療機関、介護福祉施設でも働けます。
リストラにされる心配もほとんどなく、平均年収も比較的高いことから、経済的にも社会的地位でも安定した仕事です。
一般企業で働くよりも安定した仕事があり、ほとんどの医療機関では定期的な昇給もあることから、将来の生活を考慮して看護師を選ぶ男性は増えています。
男性看護師の今後の需要や将来性についてご紹介します。
看護の世界では男性も当たり前に働くようになっていますが、必要な看護師数に対して、看護師の絶対数は追いついていません。
厚生労働省が令和5年7月の看護師等(看護職員)の確保を巡る状況では、看護職員の全体数と今後需要推計がまとめられています。
看護師の有効求人倍率の状況は、2022年度が平均で2.20倍となっており、求人数に対して看護師の供給が追い付いていない状態です。
また、需要推計では2020年の看護職員全体数は173.4万人ですが、2025年には194万人以上の看護師が必要になると予想されています。
看護師の高齢化により定年退職する看護師が増えるうえ、少子化によってさらに看護師の人材不足が進むことが予想されます。看護職員の全体数を増やすことが非常に重要です。
看護師不足の状態を緩和するには、女性だけでなく、男性看護師も増やしていくことが課題になっていくでしょう。
参照:厚生労働省 『看護師等(看護職員)の確保を巡る状況 P7-9』
男性看護師数は年々増加傾向にあり、看護師を目指す男子学生も増えています。
筆者が学生だった2000年代には、看護学部40人1クラスのうち、男性は1~2人程度しかいないのが当たり前でした。
しかし、2010年代に入ると1クラスのうち男性が6~7人、多ければ10人という年もありました。
男性看護師への社会的なハードルが下がったことに加え、安定した生活を求める学生が増えたからです。
年度によってばらつきはありますが、看護師を目指す男子看護学生は少しずつ増えています。
看護師の高齢化も進んでいることから、これから男性看護師の需要はますます高まっていくでしょう。
実際の医療現場では、男性看護師がどの診療科や病棟で活躍しているのかご紹介します。
救急救命科は軽症から重症まで、様々な患者様が訪れる診療科です。病院によって病棟機能と外来機能の両方を持つケースもあれば、外来機能だけのケースもあります。
どちらの救急救命科であっても、基本的に24時間365日稼働しており、交通事故や救急搬送対応の窓口になります。
訪れる患者様の症状レベルは様々ですから、素早いアセスメント能力、医師の処置を予測して行動する判断力が必要です。
一度に大量の患者様が搬送されることもあるため、体力に優れた男性看護師が活躍しやすい職場です。
手術室における業務は器械出しと外回り、術前の患者様訪問などです。
手術室看護師の仕事は、医師の手術が滞りなく進むようサポートすることです。手術中は立ちっぱなしで器械出しや血圧の測定、ガーゼ使用枚数のカウント、出血量の確認などを行います。
外回りでは手術で使用器械の運搬、輸血パックの搬送、病棟との連携などを行います。
手術件数によっては一日中立ちっぱなしになることもあり、体力のある男性が配属されやすい部署です。
他の病棟とは全く違ったスキルが必要になるため、病棟経験を積んでから手術室担当になるのがよいでしょう。
精神科は精神疾患全般と発達障害の患者様を診療します。代表的な疾患はうつ病、躁病、統合失調症、不眠、過食症・拒食症などがあります。
症状が軽度のものは心療内科、中等症以上になると精神科で診ることが多いです。
基本的には薬物による症状の緩和、箱庭療法などのカウンセリングによる精神ケア、社会復帰を目指したリハビリなどの内科的な治療が中心です。
患者様に信頼してもらうことが重要な診療科ですから、コミュニケーションが得意な方に向いています。
症状が悪化すると暴言や暴力がみられる患者様もいるため、力で抑え込むために多くの男性看護師が働いています。
男性専門外来とはAGA(男性ホルモン型脱毛症)や男性型不妊、男性ホルモン低下による更年期障害などを専門に対応する外来です。
男性特有の悩みに対応することから、男性看護師が働きやすく、悩みにも共感しやすい点が強みです。
患者様の年齢は幅が広く、思春期から高齢者まで様々な患者様の相談を受けます。
問診や治療をサポートすることももちろんですが、患者様とゆっくりと話す場を設け、心理面のカウンセリングも行います。
介護施設は特養や有料老人ホーム、デイサービスなどの高齢者が入居したり、リハビリを行ったりする施設です。
看護師の役割は利用者の体調確認、入浴・食事・排泄介助、リハビリのサポートなどです。
医療機関のように専門性の高い仕事はありませんが、頼れる看護師が少ない中で働くため、責任感が強くなければ務まりません。
介護施設は給与が比較的高く、施設内で看護師長にキャリアアップする選択肢もあります。
寝たきり利用者の体位変換、車椅子移乗などの力仕事も多いため、男性看護師が活躍できる職場の一つです。
男性看護師になることでどんなメリットがあるのか、4つのポイントをご紹介します。
男性看護師になるメリットの一つ目は、給与の高さです。施設規模によっても差はありますが、男性看護師の平均年収は令和4年賃金構造基本統計調査によると522万円です。
平均給与は35万9,900円、賞与も2~3カ月分が安定して支給されるため、一般企業と比較しても高水準です。
また、男性看護師は女性看護師よりも年収が高い傾向があります。
その理由は家族を扶養している分、家賃手当や扶養手当が支払われること、夜勤回数が多くなりやすいことから夜勤手当が多いなどの理由からです。
男性看護師にとって経済的な安定性は大きなメリットと言えるでしょう。
*参照:e-Stat 『賃金構造基本統計調査/令和4年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 (施設規模別)』
男性看護師は出産や子育てによる休みが少ない分、キャリアデザインしやすく、キャリアアップしやすい点もメリットの一つです。
男性の管理者は少ないですが、実力が認められれば看護師長や看護部長になるケースもあります。
特に男性が活躍しやすい職場では、男性の看護師長、部長も珍しくありません。
将来のキャリアプランを描きやすい点でも、男性看護師になるのはおすすめです。
看護の世界は2000年代までは女性が中心でしたが、今では男性も多く働いています。
男性看護師は職場内での人間関係のバランサーになりやすく、職場の雰囲気を和やかにできる点もメリットです。
また、看護業務でも男性の視点も入ることで、業務の効率化につながることもあります。
女性の多い職場だからこそ、男性看護師の存在自体が大きなメリットになる点は理解するとよいでしょう。
男性看護師は体力、筋力面で優れているため、男性の力が必要な場面で頼りにされます。
例えば、大柄な男性の車椅子移乗、ベッドからストレッチャーへの移乗、認知症や精神疾患で抵抗する患者様への対応などです。
100㎏を超える患者様に移送・移乗の対応をする場合、女性だけでは転倒や怪我のリスクがあります。
その点、男性看護師なら力がある分リスクも少なく、女性では難しい患者様対応も可能で、頼りにされる場面は多いです。
男性看護師に多い悩みを筆者が実際に体験した内容も交えながら、4点ご紹介します。
男性看護師に多い悩みの代表的なものが、女性職員同士の対立に巻き込まれることです。
女性の割合が多い看護師は、病棟で仲の良い女性同士がグループ化する傾向があります。
そして、男性看護師は中立の立場を維持する方が多いため、望まぬうちに対立に巻き込まれることがあります。
筆者も看護師として働いていた際、女性看護師同士が対立していたことで自分担当以外の仕事が増え、急な勤務変更を看護師長から命じられました。
女性が多い職場はグループ化や人間関係が悪いことも珍しくないため、男性看護師はうまく立ち回らなければ苦労することになるでしょう。
患者様の中には、若い女性や男性嫌いの患者様もいます。
加えて、病名や疾患の部位によってはデリケートな部分に触れることもあるため、男性看護師では対応できないこともある点には注意が必要です。
特に20~40代の女性は男性看護師に拒否感を示す傾向があるため、初対面で男性看護師が担当でも問題がないか確認する必要があります。
最初の段階で拒否されるか、不満な表情が見えるようなら女性看護師に交代してもらうのがよいでしょう。
男性看護師は増えていますが、女性の仕事というイメージが残っている点には配慮すべきです。
男性看護師の全体数は増えていますが、少数派であることに変わりはありません。
そのため、同じ病棟内に男性看護師が少なく、相談できる仲間が少ない点も悩みです。
筆者の場合、先輩の男性看護師が一人いたため相談に乗ってもらいましたが、先輩がいない男性看護師はストレスから休職する人もいました。
そのため、同じ病棟に男性看護師仲間がいない時は、同期や違う病棟の先輩看護師に相談するのがおすすめです。
男性看護師の選べる職場は、女性看護師よりも少ない点も悩みです。
妊産婦を対象にする産婦人科、子どもと母親を相手にすることが多い小児科は、男性看護師が配属されることはほとんどありません。
また、職場の方針にもよりますが、人間ドックを健康管理室や健診センターも診察介助を女性看護師に任せることが多く、男性看護師の勤務先としては選びにくいです。
女性看護師に比べるとキャリアの選択肢が狭くなる点を理解し、自身のキャリアデザインを考えることが重要です。
今回は男性看護師が少ない理由について、実際のデータも参考に解説しました。
男性看護師が少ない理由は社会的なイメージが大きく、時代とともに男性看護師の全体数は増加しています。
今後も男性看護師は増えていくと考えられ、看護師需要の高まりの背景もあって、将来性は高いと言えるでしょう。
ただし、看護の世界では女性のほうが多い点には変わりはなく、コミュニケーション能力を鍛えることは必須の課題です。
男性看護師として活躍するためには体力だけでなく、コミュニケーション能力や看護技術などの強みを磨きましょう。
自分の強みを生かせる職場を見つけられれば、キャリアアップ・年収アップにもつながります。