どんな仕事に就いている人でも、一度は「辞めたい」と思ったことがあるはずです。
けれど、時には大きなやりがいを感じ、続けていてよかったと思うこともあるでしょう。
「これがあるからこの仕事は辞められない!」
そんな瞬間をまとめました。
今回は、理学療法士編です。
お話をうかがったのは、Xで8.9万人のフォロワー(※)を誇る理学療法士のキリツさんです。※2024年3月時点
理学療法士のキリツです。私の体験談をお伝えします。
それでは早速、キリツさんの実体験をうかがっていきます。理学療法士としてのやりがいを感じるときはどんなときですか?
はい。私が実際にやりがいを感じたときのエピソードをお伝えしますね。
(イラスト:のいぷらこさん)
勤務していた病院に、難病を患った中年の男性が入院していました。
初めて会ったとき、彼は全身麻痺によって筋肉が衰え、ベッドから起き上がることもできない状態でした。不安そうな表情をしていたことは今でも忘れられません。
彼は毎日熱心にリハビリに取り組みました。まずは椅子に座る訓練からスタートし、徐々に車椅子へ移行。筋力トレーニングやバランス訓練にも取り組みながら、やがて立ち上がれるようになり、棒につかまって歩けるようになり…と、少しずつ進歩していきました。
コツコツ取り組みながら歩行訓練を行った結果、自分の足で歩けるようにまでなったのです。
約半年後、彼は「自分の足で歩けることがこんなに嬉しいとは思わなかった」と言い、力が入るようになった両手で私と強い握手をしてくれました。なににも掴まることなく、自ら歩いて退院していくのを見送りました。
日々進歩する回復が、私にとって大きなやりがいでした。
(イラスト:のいぷらこさん)
骨折後の女性のリハビリをしているある日のことです。私はその患者さんの”異変”に気づきました。
その異変は、教科書で見た病気の特徴と酷似していました。すぐに症状について医師に伝えると、患者さんが神経難病であることがわかったのです。
早期発見だったため、それから病気の進行を遅らせるための適切な治療を開始することができました。
病気の発見により彼女は他の病院へ転院することになったのですが、転院の日には深々と感謝の気持ちを伝えてくださいました。
そのとき、「私の勉強していることは患者さんやその家族にとって本当に意味のあるものなのだ」と実感しました。
これまでの努力が報われたと感じる瞬間でしたね。
(イラスト:のいぷらこさん)
理学療法士は、脳卒中という病気にかかわることが多くあります。脳卒中は昨日まで元気だった人にもある日突然訪れることがある病気です。
脳卒中が恐ろしいのは、突然手や足の機能が失われるだけでなく、家族関係をも壊してしまいかねないところです。
歩くこともままならず日常生活に支障をきたすため、家族の負担が突然増えることになるのです。実際、私の知人にも、介護の負担から家族がバラバラになってしまった人がいました。
私が担当したとある患者さんも、重度の脳卒中により両手両足が麻痺し、生活には介助が必要な状態でした。家族の負担はさぞ大きかったことでしょう。
しかし、その患者さんの家族は非常に熱心でした。
毎週欠かさず病院を訪れ、私が指導したリハビリやケアの仕方を覚え、自宅環境の整備も積極的に実践していました。そんな家族の献身的なサポートもあり、患者さんは徐々に回復し、自宅に帰れるまでになったのです。
家庭がバラバラになりかねない大変な病気だったにもかかわらず、退院していく患者さん家族は笑顔を見合わせて会話していました。
家族の強い絆を感じた瞬間でした。
ご家族を見送ったときは、理学療法士として最高の喜びを感じました。
(イラスト:のいぷらこさん)
理学療法士の仕事は、患者さんの機能回復をサポートし、再び生活を送れるよう導くことです。しかし、その道は決して簡単ではありません。症状は患者さんによって一人ひとり異なるうえ、治療方法も確立されていない現状があるからです。
患者さん一人ひとりに最適な治療を提供するためには、常に新しい知識や技術を学び続ける必要があります。
私は自己研鑽のために、同僚とよく遠方まで勉強に出かけていました。先輩の指導を受けながら夜遅くまで研究を行ったり、患者さんの症状や治療法について議論を重ねました。
熱心な後輩には、自分の経験や知識を惜しみなく伝えてきました。
そして何よりも、病院スタッフ全体で患者さんのために働いているという一体感は、理学療法士として大きなやりがいを感じさせてくれます。
医師、看護師、介護士など、様々な職種の専門家が、それぞれの専門性を活かし、患者さんの回復をサポートするために協力しているのです。
一つの目標の向かって切磋琢磨できる仲間と働けることは、理学療法士として働くうえで幸せなことだと感じています。
患者さんの笑顔、感謝の言葉、そして日常生活への復帰。
そんな喜びを共有し合えるのも、仲間がいるからです。
(イラスト:のいぷらこさん)
これは私のフォロワーさんにうかがった体験談です。
とある70歳の患者さんは、両足とも膝から義足をつけている方でした。
リハビリ現場では「HOPE」という言葉をよく使います。HOPEとは、直訳の通り「患者さんの望み」という意味です。
その方は、「また自宅で生活したい」というHOPEを持っていました。
ただ、患者さんの症状からすると一般的にその願いは叶えることが難しいものでした。けれど私は諦められず最大限のサポートをしました。
患者さんはもちろん、その家族の方へも指導をしました。「退院する」ということをいつも前提に考えていました。退院後にどんな生活をするかを踏まえ、患者さんの自宅環境の設定も行いました。
その結果、患者さん自身の努力もあり、難しいと思われていた自宅退院というHOPEを叶えることができたのです。その時は本当に嬉しく、やりがいを感じました。
難しいことができたときにやりがいを感じるのは、どの職業にも共通することかもしれませんね。
ここからは、理学療法士のお仕事について紹介していきます。
理学療法士は、何らかの原因で身体機能が低下した方にリハビリなどを通して回復をサポートするのが仕事です。
理学療法士の主な仕事内容は、以下のとおりです。
それぞれの仕事内容を詳しくみていきましょう。
理学療法士は患者の状態を確認し、身体的機能や基本動作を評価します。
まずは、患者の基礎疾患や既往歴、生活情報などの基本情報を確認し、運動機能や神経機能などの検査測定を行います。
検査項目の一例は、以下のとおりです。
以上の検査結果をもとに患者の状態を評価してから、リハビリプログラムの計画を立てていきます。
検査測定・評価後に、リハビリプログラムの計画を立て、実施することも理学療法士の大切な仕事です。
リハビリプログラムを計画する際には、患者本人の希望を明確にすることが重要です。
「ベッドから起き上がれるようになりたい」や「近所のお店に歩いて行けるようになりたい」などの患者の具体的な目標を聞き取ってから、リハビリ計画を立てていきます。
リハビリプログラムは、理学療法士だけでなく、患者の主治医やほかの専門職と話し合って決定します。
リハビリプログラム開始後も、検査測定・評価を定期的に実施し、患者の具合を確認しながら回復を目指していきます。
【コラム】運動療法と物理療法
理学療法士は運動・物理療法だけでなく、患者が家庭や社会にスムーズに復帰できるように、住宅環境を整備するためのアドバイスも行います。
住宅環境についてアドバイスをする際は、実際に患者の家を訪問し、住宅の状態や周辺環境を確認します。
患者の状態によって手すりの設置や介護用ベッドの準備、段差の解消などの提案を行うのも、理学療法士の大切な仕事の1つです。
再びキリツさんにお話を伺います。
理学療法士の仕事の中で「一般的に知られていないけどこんなこともやっています」というものはありますか?
患者さんの心のケアですかね。
理学療法士は体の機能回復をサポートする専門家ですが、体のケアだけではなく、実は心のケアも行います。
どうして心のケアが大切なのでしょうか?
それは理学療法士が患者さんと毎日直接触れ合うからです。
病気や怪我による不安やストレス、日常生活への心配など、患者さんは様々な悩みを抱えています。
一日のうち一時間ほど接する中で、話に耳を傾け、共感し、励ましの言葉をかけることで、心の支えとなることができるのです。
ということは、患者さんのお話をじっくり聞く力も、理学療法士には必要になりそうですね。
その通りです。コミュニケーションスキルや人間性も、理学療法士として働くうえではとても大事なのです。
患者さんの体と心、両方のケアを行うのが理学療法士の仕事。
これから理学療法士を目指す人は、患者さんとの接し方にも気を配り、身に付けていきましょう。
ここでは、理学療法士という職業についての気になる情報をお伝えします。
それぞれについて詳しく解説します。
厚生労働省が公表した「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、理学療法士(作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士を含む)の平均年収は、約431万円です。
内訳は以下のとおりです。
理学療法士の年収は、ほかの医療従事者である看護師や臨床検査技師よりもやや低く、准看護師と歯科衛生士よりも高くなっています。
医療業界の中では比較的年収が高い方に分類されると考えてよいでしょう。
職種 | 平均年収 |
---|---|
看護師 | 約508万円 |
准看護師 | 約418万円 |
臨床検査技師 | 約509万円 |
歯科衛生士 | 約382万円 |
理学療法士の就職先の一例は、以下のとおりです。
理学療法士の就職先として一番多く選ばれるのは病院です。
病院には、リハビリテーション科や整形外科、神経外科などさまざまな診療科があり、多くのスキルや経験を積めます。
次に多くみられるのは、福祉施設です。
福祉施設は自宅で生活することが難しく、介助が必要な方々が利用する施設です。
身体障がいだけでなく、発達障がいや知的障がいの利用者も多く、日々の生活が少しでも楽になるようにサポートを行います。
また、行政機関や一般企業、教育・研究機関に就職する理学療法士も、数は少ないですが存在します。
とくに一般企業では、理学療法士資格保有者の求人募集を出すことが少ないため、就職する人も少ない傾向です。
理学療法士になるには、理学療法士の国家資格を取得する必要があります。
国家資格を受験するためには、理学療法学科などの養成過程がある大学や専門学校へ行き、3年以上かけて知識やスキルを身につけなければなりません。
理学療法士の養成課程がある学校は、全国に約270校以上あります。
養成学校では学科だけではなく、実技やグループ課題などの授業も用意されています。
年度によって異なりますが、理学療法士国家試験の合格率は平均70~85%です。
令和5年度では、21万3735人が合格し、合格率は87.4%となりました。(*)
高い合格率で推移していますが、試験内容は広範囲から出題されるため、しっかりとした受験対策が必要になるでしょう。
今回は、仕事のやりがいシリーズVol.1「理学療法士編」をお届けしました。
働いていると楽しいことばかりではなく、辛い瞬間は誰しもきっとあるはず。
でも、こういったやりがいを日々のお仕事の中で感じたとき
「やっぱり自分はこの仕事が好きなんだな」
「辞めたかったけど、もう少し頑張ってみようかな」
そう思えるのではないでしょうか。
次回もお楽しみに!
Vol.1:私が「理学療法士」をやめられない理由
Vol.2:私が「歯科衛生士」をやめられない理由