レイオフは突然言い渡される。大概、朝の10時前に呼び出され、「あなたの仕事は今日で最後になります。5時に荷物をまとめて持って帰ってください」と告げられる。このような調子なので、誰もがショックを受ける。突如言われるのは、その日まできちんと仕事をさせるための手段。前もって「○○日で仕事を終わりにしてください」と言えば、アメリカ人の性格上、最後の日を迎えるまでの間、いい加減に仕事をされる可能性が大。
また、持ち出し禁止情報を取っていかれる危険もある。さらには、仕返しとして、会社にダメージを与えるような行動を取るかもしれない。だから、レイオフは“当日言い渡す”のがアメリカの習わし。もちろん、「解雇通知は○○週間前に出さなければいけない」という法律があるから、レイオフした日から、その日までの給与は支払われることになる。
レイオフを言い渡す部下に、上司ができるせめてものことは、少しでも長く給与を支払い続けるパッケージを渡すこと。それを会社側と交渉してくれるので、レイオフを告げられた際には、上司にお礼を述べ、すんなりと身を引く。会社は「このパッケージを受け取る代わりに、解雇に関して異議申し立ていたしません」という手紙にサインをさせ、後日、“不当解雇をされた”などと、裁判沙汰にならないようにする。
突然の出来事ではあるが、レイオフにあう前に、その前兆を感じることは可能なことでもある。アメリカの社会では、自分を守るため、その前兆を感じとる能力を養うことが大切。前兆がわかれば、未然に防ぐ努力もできるし、レイオフになった後の準備を行うこともできるからだ。
会社の業績が良い時に、レイオフにあうのは、能力不足か、会社にとって思わしくない行動をした場合のみ。品行方正で、ゴールをこなし、それなりの評価を得ていれば、業績が良いときにレイオフされることはない。この手のレイオフにあう人は、自分の状況が見えていないので、レイオフの前兆を感知することは難しい。どこかで、自分の欠点に気がついて更生しないかぎり、明るい未来はつかめないかもしれない。
一方、職場で安定したポジションを保っている人でも、業績が悪くなりだすと、レイオフの影におびえることになる。それまで共に仕事をしてきた部下を解雇したい人はいないから、部下にレイオフを伝えなければならない部長も苦しい。業績悪化にともない、人件費削減をする場合は、「営業部では人件費を○○浮かしてほしい。経理部では人件費を○○浮かしてほしい。。。」という具合に、額が割り当てられることが多い。
自分の部だけ、「それは嫌です」などということはできないから、辛い思いをしながら、誰を切るかの決断をする。それゆえ、皆、自分に与えられた仕事をただ一生懸命していればいいというわけにはいかない。会社の業績を観察しながら、レイオフが来るかもしれない状況を把握することが必要なことになる。
レイオフを言い渡されてしまったら、すんなりと会社を去るしかない。だが、会社がレイオフをしなければならない事態が来ても、自分がそれに選ばれないようにする努力はできる。選ぶのは部長だから、部長に「このスタッフは、どんなことになっても、レイオフするのはもったいない」と思われていれば、レイオフになる可能性は低くなる。
アメリカは数字を元に判断する社会なので、ゴールに到達していないことが致命傷になる。ただ、実力とは関係なしに、景気が悪いがために、ゴールに到達できないこともある。大概、そうしたときは、他の同僚も到達できないことが多い。その時のフォローアップをしておくことは、上司の心をつかむ上で効果がある。「なぜ到達できなかったか。それに対しどのような対応をしているか。その結果、どれくらいの成果が期待できるか」。この3点を明確に説明する報告書を作成し、先手を打って、上司に説明をしておく。これが一番のフォローアップになる。
アメリカで教育を受けた者の多くは、「これは自分のせいではない」という理由を探したがる。そして、その理由を正当化する傾向が強いため、自分が劣勢にある状況を冷静に分析できない人が多くいる。ましてや、その傾向と対策をねり、予想結果まで報告する人物は少ない。これを行える少数に入ることで、上司から高い評価を得ることが可能となる。対策を練っていて、これから期待が持てる人物と、どうなるかわからない人物、どちらかを解雇しなければならないとしたら、後者が選ばれることは言うまでもない。
敗者復活戦がいくらでも可能なアメリカ社会では、過去のことに遺恨を残さない。過去のことは未来の糧となるように仕向けるのが彼らの生き方。レイオフされたときは、すんなりと身を引き、すぐに次の仕事を探しだす。ゴネたりするのは禁物。次の職も見つけづらくなるからだ。
履歴書を出すときには、“リファーラル”という、自分の働きぶりにコメントをしてくれる人達のリストも一緒に提出しなければならない。採用する側は、それらの人々に連絡を入れ、彼(彼女)がどのような働きぶりだったかを聞き出す。その時、「レイオフになったときにもめた」などというコメントがでようものなら、雇ってはもらえなくなる。自分たちが、レイオフしなければならない立場になったとき、もめるような人材は雇いたくないからだ。
レイオフになったときには、部長に「すまない」と思わせ、リファーラルリストに載せる許可を取る。そして、連絡が入ったときには「最高のスタッフだった」というコメントを述べてもらえるように根回しをすることが大切。「暖かく見守ってくださり、心から感謝しております。いつか、また一緒に働ける機会があることを願っております」というような感謝の意を述べておくことは必要不可欠な行いとなる。
レイオフは会社を救うために行う止むに止まれぬ手段。それは仕方のないものとして受け入れ、優秀な人は、常に会社の業績を見ながら、部長に“このスタッフは最後まで取っておきたい”と思わせる努力を行っている。一方で、それをこなせる人は、会社の経営状態も把握し、去ったほうがいいタイミングを知ることができる者でもある。
企業が吸収合併されることが日常茶飯事なアメリカ社会。吸収された組織の中で、頑張る人もいるが、優秀な人々の多くは、事前に危機を知り、その日が来る前に、余裕をもって去っていく道を選ぶ。吸収した会社はいいが、される側で、いいポジションを維持できる可能性はあまり高くないということを知っているからだ。会社の去り際を見極めることも、自分の未来をつかむうえでとても大切なこと。それには、会社の内状を絶えず分析しておくことが欠かせない。
また、会社で過ごす時間は、寝ている時間を除けば、最も長い時間。その時間がつまらないものであれば、人生は惨めなものになる。それゆえ、仕事は生活を金銭的に支えるものであると同時に、日々の生活を充実させるための最も大切なものでもある。アメリカに暮らす人々は、妥協することなく、自分の仕事を、この2つの目的を適えるものにして行く。そのために、解雇されても、会社が吸収されても、大きなダメージを受けることのないよう、会社への依存度を調整しながら働く。それは生きていく上での、危機管理の一つでもある。
日本では、アメリカのようなレイオフが行われない分、働く人の危機感が低く、会社への依存度が高い。だが、あえて、依存度を低くし、経営状態を分析しながら、必要なときには転職を敢行する。それがより良い結果を生むことになるだろう。
次回は、アメリカの社会で行われている「ハラスメントの撲滅方法」について述べてみたい。